お姉ちゃんは私の隣に座りたい
「いらっしゃいませ〜。何名様でしょうか〜」
「ふ、二人です!」
「かしこまりました〜。空いてる席へどうぞ〜」
ファミレスへと辿り着き、緊張しながらも対応をすませる。
学生二人でファミレスだなんて、初めてでなんか新鮮だ。
今までは家族としかこういうのには行ったことが無かったから。
って、お姉ちゃんは家族か。
「どこ座る?」
「て、てんちゃん。緊張しすぎ」
「ちょ! こ、こういうのは初めてなんだから! わ、笑うな!」
「ご、ごめん。つい」
「お姉ちゃんこそ、この店は慣れっこなんでしょ? 後はお姉ちゃんに任せたからね! あ、席は私は端っこがいい」
「んー。はい。分かった」
お姉ちゃんは、渋々了解したように、端っこの席へと歩みを進めた。
彼女の背中を私は追う。
席は、片方が椅子で、もう片方がソファーだった。
端っこの席にありがちなやつだ。
お姉ちゃんが椅子に座ったので、私はソファーへと向かう。
「よいしょっと」
正真正銘の端っこ。角の席。
私の横は90度の壁。
正面にはお姉ちゃんがいる。
お姉ちゃんがいる。けど、立ち上がった。
そして、無言で私の隣へと。
「なにやってるの。お姉ちゃん」
「隣座ってもいい?」
「まぁ。どうぞ?」
というか逃げれないし。
「よかった。んっしょんっしょ」
「お姉ちゃん? なんでさらに近づくの?」
肩がピトッとくっつく距離まで、お姉ちゃんは近づいてきた。
お、お姉ちゃん。そんなに私のことが好きなのだろうか。
「気にしないで」
「気にするよ」
「じゃあ、なにを頼むか決めましょうか」
「おい! 話逸らすな!」
「私は今パスタの口よ」
「……」
無視を極めたお姉ちゃんが喋るその様は、もはや独り言だ。
虚空に向かって話しかけている。
まぁ、隣に座られるのは嫌ではないから別にいいけど。
「私もパスタがいい。でも、注文はお姉ちゃんね」
「分かった。……私、ミートソースかペペロンチーノがいいな」
「じゃあ。どっちも頼もうよ。半分ずつ」
「おぉ。てんちゃん頭いい! じゃあ、呼び出しベル押してよ」
「あ、うん」
ピンポーン。
その音とほぼ同時に、厨房から「少々お待ちを〜」と元気の良い、よく通る声が聞こえてきた。
お姉ちゃんの体が、少し離れる。
引っ付いてるところを店員に見られるのは恥ずかしいのだろうか?
そして、すぐに店員がきた。
お姉ちゃんは小声ながらも、ちゃちゃっと注文をし、ついでにドリンクバーも頼んでいた。
店員が去ったのを見計らうように、お姉ちゃんはすぐに私の横へ体を寄せる。
もう。ちょっと恥ずかしいんだけど。
「ちょ、ちょっと。私、飲み物ほしいかも」
「じゃあ、私がとってくる。なにがいい?」
「お姉ちゃんのと同じのでいいよー。ありがとー」
「どういたしまして」
飲み物を取りに行くお姉ちゃんの背中を見て、ふと。思ったのだが。
私たち、仲良くなるの早いなぁ。
嬉しいか、と問われたら、これは素直に嬉しかった。




