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 第一話 奉仕妖精ユウ


 私の名前はユウ。

 ここ、リオネスにある領主の館に住み込みで働く奉仕妖精(カルーカエラ)


 奉仕妖精、というのは文字通り人間に仕える妖精のことだそう。

 鏡の王國で自然発生する妖精の一種であり、基本的に不老長寿。外的要因によって死ぬことはない、美しい女性型しか生まれない種族。人間を素手で八つ裂きにできる高い身体能力と無制限の再生能力、そしてあらゆる不可能を可能にしてしまう万能性。それらを備えた人を超えた超常の存在である妖精としては珍しく、私達はとても温厚で無害な部類に入る妖精らしい。

 外の妖精がどんな存在なのかは知らないが、私達が大人しいということはどうやら相当ロクでもない種なのだろう。

 (ちなみに、私は黒髪青目の少女型。どうやらこの色合いは奉仕妖精には珍しいらしく、私が今まで出会った先輩妖精の中でも私と同じ色合いの人は一人しかいなかった)

 

 女の胎ではなく、冷たい水の底で生まれた私はどうやら人ではなく妖精だったようだ。


 全ての奉仕妖精は名前を持たずに生まれ、自身と主従契約を結んだ主から名を与えられて初めて自己を確立するらしく、私は私を掬い上げた彼――――、


 「ねぇ、報告書どこ置いた?」


 ドアがいきなり開き、そこから出てきたのは青のかかった黒い髪と朱色の目をした男の子。


 彼が、私を掬い上げた私の主。

 名前はキリオ。


 顔の造形はそれなりに整っているし、よく中央で騒がれるイケメンって奴に当て嵌まるとは思う。自分の美的感覚はあまりアテにしてないケド。ただ、どちらかというとクールよりも美しくて可愛い系のイケメンだ。

 

 「………二回の書斎の作業机の上、インクと一緒に置いたよ」


 「そっか。分かった」


 唐突に私が掃除している書庫のドアを開けて一方的に用を告げるだけ告げて去っていった。


 (あんっッッッの!全人類フリーダム生き様大会五年連続優勝の殿堂入りめ!私の事なんだと思ってるんだあの天然自由人!)


 無言で手に持つモップを水桶に浸して怒りをぶつけるように掃除を再開する。

 

 沸々と湧き上がる怒りをぶつけるように床にモップを少しだけ乱暴に叩きつけて力を入れてゴシゴシと擦る。そうしているうちに段々と明るい色になっていくパステルホワイトの床を見て怒りはどんどん萎えてきた。


 「はぁ〜〜〜」


 思い返せば、アイツ(キリオ)は私を掬い上げた時以外はほとんどあんな感じで無愛想だったな。


 最初の出逢い方は運命的でもその後が大問題。

 湖から上がったばかりで服なんて着てなかった私にいきなり布を乱暴に投げつけて「着て」の一言で済ませるわ、その後はもうほったらかしで最低限の会話と挨拶以外はほとんど会話しようとすらしない上に目も合わせない等々………


 何なんだろ、多分自分のペースを大切にしたいタイプというか自分の世界がはっきりし過ぎてるせいか、あんまり他人を自分の内側に入れようとはしないタイプなんだろうけれど流石にアレは少し傷つくよ。


 私は確かに奉仕妖精で、キリオに従って身の回りの世話をする外の世界でいうところの使用人的存在だけれども、自分がないわけではないし何も感じないわけでもない。


 「あー、ダメ!全然ダメだよーコレぇ!頭の中ぐるぐるして考えが纏まらない…!」


 全部キリオのせいだ。

 そうやって八つ当たり気味に乱暴に結論つけて掃除用具を片付け、戸棚の裏の隠し扉を開けて屋根裏部屋に続く階段を上がって自室に戻る。

 書庫の隠し扉から続く私の部屋は簡素なベッドと灯り、小さな本棚と机にクローゼットのある可愛らしい、ドールハウスの一室のような間取りだ。

 他の領地の館にも必ず一室は奉仕妖精に与えられる部屋があるらしい。


 キリオが仕事に入ってしまったこの時間帯からは私の自由時間。せっかくだしストレス発散の為にも中央の方に行って図書館にでも寄って誰かとおしゃべりしてこようか。

 外行きの服装に着替えながらそんなことを考えて、行き先を記したメモをキリオの書斎の真向かいの廊下に張り付けてそのまま出発した。

 

 「行ってきまーす」

 

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