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第一部 4

少し、店についての設定を変えました。

カランカラン・・・

「へー・・。」

僕は鈴子に案内されて、彼女の幼馴染の実家だと言う、彼女の家の近くのフランス料理店に来た。

フランス料理だから、えらく格好良くスマートなんだろうと身構えていたら、案の定そんな感じ。微妙に身構えてしまう。

「いらっしゃいませ! 2名様ですか?」

そう言って、すらっとした綺麗なマダムが声を掛けてくる。

「あら、鈴ちゃん?」

「はい、おばさん、御無沙汰してます。」

挨拶をしながら、その「おばさん」と呼ばれたマダムの目は、僕に注がれている。

「今日はお友達と?」

「ええ、御馳走になります。」

「じゃあ、こちらにどうぞ・・。」

僕らは促されて、空いている席に着いた。

 周りを見渡すと、結構、お客さんがいて、それぞれ楽しそうに食事をしていた。

 木で出来たテーブルや椅子。壁を飾っている絵とか、凄くおしゃれなのだが何故かそれが堅苦しさを感じさせない、不思議な店だと思った。

「・・・どう、・・・ですか?」

店内をキョロキョロ見ている僕に、鈴子は心配そうな顔で聞いた。

「ん? 結構、いいと思うけど・・。」

こういうのを見る「目」には、トンと自信の無い僕は、あやふやな答えしか出来ない。僕の答えに明らかにガッカリした顔をする彼女を見ていて、これはいけないと少し頑張って、必死に笑顔を作って感想を話した。

「こういうの僕、良く分からないけど、・・・結構気に入った・・・です。」

 彼女はその答えを聞いて、いかにも嬉しそうな顔する。いい加減なつもりはないが、それでも必死に場を繕って答えた答えにこんなに喜ばれ、こっちはちょっと戸惑う。

しばらく待っていると、今度はさっきのマダムではなく、シェフの制服を来たイケメンが出てきた。

「よ、スーちゃん、いらっしゃい。久しぶりじゃん。やっと来てくれたんだ。」

「あ、うん、なかなか来れなくて、ゴメン。」

幼馴染って、・・・・・男・・・・・なんだ。

 親しげな言葉のやり取り。そして、ハッとして僕の顔を見ると、慌てて紹介を始めた。

「こちら幼馴染の大上義男君です。こちら、下村功太郎さんって言われるの。」

義男と言われたそのシェフは、にこやかに僕に挨拶をした。

「はじめまして、宜しくお願いします。今日は良くお越しくださいました。」

「下村功太郎です。こちらこそ、御馳走になります。」

挨拶を終え、シェフを眺めていたら、挨拶し終わった瞬間、急に顔色が変わった。ふとシェフの視線を追うと、鈴子の左手に注がれている。

?!

あっ・・・・もしかして?

僕の脳裏に駆け巡るものがあった。


 挨拶が終わると、二人はさっきの続きの話をし始めた。自分の近況報告とか、お互いの家族の話、さらには懐かしそうに思い出話にも花が咲く。僕はボーっとその話を聞いていたが、その合間にも、チラチラと僕の方に義男の視線が注がれる。

「じゃあ、ごゆっくり。」

仕事中だということで、少し話の切が付いたところで、彼はオーダーを聞いて奥に帰っていった。

「小学校、中学校一緒だったんです。義男君。それにねこのお店、ついこの間、義男君がフランスから帰って来て、おじさんと一緒に、ここで新しく一緒に始めたばかりなんです。」

そう見ると、おしゃれでくらっシックなデザインではあるが、調度品や建物が古ぼけてなくって、不思議だなあと思ったところだった。

「わたし、昔の古いお店も大好きだったんだけど・・・、新しい方も良いですね。」

そんな話を聞いている内に、なるほどと思うのだった。

 それにしても、鈴子とあの義男と言う男・・・どんな関係だったんだろう。

鈴子の様子を見ていたら、確かに小学生の子ども達がやるような、とりとめも無い話に盛り上がっている、屈託の無い姿に見えた。しかし、あのシェフはの方は・・・・。

脳裏にさっき時折向けた視線が蘇って来る。その眼差しに含まれた思い。

僕の中に、ある確信めいたものが生まれる。

 そのレストランでの鈴子は、僕が知っている彼女の中で、一番リラックスしているように見えた。いつも硬く見えた彼女が、笑ったりしょぼくれて見せたり、とても表情豊かになった。そのことが、あのシェフをはじめ、ここの人たちが、彼女をこんなに解放するような、特別で存在なんだろうと思う。

 そう言えば、友達の家によく言ったということは、あのシェフのお兄ちゃんの家によく行っていたということだよな・・・・。

ふーん

ちょっと、何故か心がギシギシ鳴る・・・・・

「以上で宜しいでしょうか?」

「はい・・。」

「では、ごゆっくり・・・。」

僕は目の端で、オーダーを取って忠僕に戻る義男の背中を追った。こういうのって、ウェートレスさんがするんじゃないのかよ・・・・。

 それだけではなく、本来厨房の奥にいるはずのシェフが、料理をもってきて並べてくれた。鈴子はそんな義男を、嬉しそうに眺めて、引っ込み際には手なんか振っている。

「良い人でしょ。義男君。」

「ああ・・・。」

まあ、良い人ではあるだろう。でもなあ・・・。

そして僕は、生まれてほとんど初めての、本格的なフランス料理に与った。

 慣れた感じで、そつなくフランス料理を平らげていく彼女眺めてながら、僕の思いはここにあらず。ボーっと他の事を考えていた。そう、あの義男と言うシェフのこと。

「お口に合いませんか?」

ハッとすると、鈴子は心配そうに僕を見ていた。

「あ?・・・いいえ。ちょっと、考え事してました。」

 作り笑顔で応えてみるが、腹の中はもう食事を楽しむ気分ではなかった。宙ぶらりんの自分の感情を、どう落ち着かされるか、そればかりに思いは向く。


「ありがとうございました!」

義男の声に送り出されて、僕らは店を出た。店に入ったときとは違って、微妙なキモチを持て余す。鈴子は僕が、僕が店のことを気に入ったと言って以来、明らかにテンションが上がり、ちょっと浮ついた風にすら見える。

 商店街を歩いている内に、行きと同じように、何人かのおばさんに声を掛けられる。

彼女は僕の微妙な気分も気付いていないらしく、一緒に歩いている間中、あのシェフや店のことを褒めていた。僕の中の複雑な思いは、益々ゴチャゴチャになっていく。

「あ、着きました。」

 不貞腐れぎみで彼女の話を聞き流していた僕は、その声の指す方向を見た。さっき降りたのとは少し違う所、郊外の夜、ほとんど人通りのなくなってしまった街角に、それは静かに佇んでいた。彼女は先に駆け寄って、バスの時間を見る。

「良かった、大丈夫でした。」

 余り終バスに乗ることはないから、もう行ってしまってはいないだろうかと、今になって心配になったそうなのだ。ニコニコしながら待っている鈴子の元に、僕はトボトボと重い足取りで、近づいていく。


 静かな夜のバス停で、僕ら二人並んで話もせずに突っ立っている。

そんな僕は、さっき婚約式ばっかりだと言うのに、既に後悔の念に駆られていた。

まだ26だというのに、僕みたいなあまりパッとしない男と「見合い」し、さらに速攻で婚約まで決断するからには、何かよほど切羽詰った理由があるんじゃないかと思っていた。でも実際は、あんな洒落た店のシェフをしている、イケメンの男友達とかいて、鈴子自身もあんなに肩入れしているんだったら、今無理して結婚しなくても、いずれは・・・。

 いや何れどころか、あのシェフ、絶対に鈴子のことを特別な気持ちもってる。

なんだ・・・・これじゃあ、まるで横恋慕だ・・・・。そう言うのが最高に嫌な僕は、胃がジリジリ音を立てる。

 冬の空は綺麗で、沢山星が瞬いていた。僕はコートの襟を立て、もう直ぐ来るはずのバスの来る方向に顔を向ける。

 しかし待てよ?…あのシェフは鈴子のことに気軽に違いないが、彼女はそこで……その義男の店で披露宴をしようだなんて、言ってる。

当てつけか何かなのか?

いや、そうじゃないな。鈴子が全くあいつの気持ちに、気付いていないんだ。

 僕はそんな心に浮かんだ考えを確かめるように、鈴子の顔を伺うと、僕の方を心配そうにじっと見る彼女に視線にぶつかった。

「お疲れになりました?」

「え? 大丈夫・・・ですけど。」

ちょっとホッとした溜息をついたと思ったら、少し恥ずかしそうに彼女は言った。

「わたし、今日、とても楽しかった。下村さんにわたしの育った街、見てもらったり、友達に会ってもらったり、とっても嬉しかったです・・・・。」

?!

そうして、はち切れんばかりの笑顔をして僕をじっと見つめた。僕の心臓はドクンと一打ちする。

もー、何がなんだか・・・・・

思わず、頭をかきむしりたくなる衝動に駆られる。

 

 

 

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