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第一部 1

「もう、功ちゃん、何やってんのよ、遅すぎ!!」

おかみさんは明日着るものを取りに行って、なかなか帰ってこない僕を叱り付ける。

僕は部屋のクローゼットの奥から引っ張り出して来た、シワシワになっていた一着のスーツを、恐る恐る見せた。すると、おかみさんは顔を真っ赤にしてギロッと僕を睨みつる。

・・・だってさ、スーツ着たの、この間、見合いの時以来だもんなあ。仕事はいつも作業着だし・・。実はアレっきり、クリーニングにも出してない、脱いで散らかしたままだったのだ。

口の中で言い訳している僕をよそに、おかみさんはデッカい溜息をついて、家の奥に入っていった。しばらくしたら、用意しといて良かったよ・・とか言いながら、親父さんの若いころのスーツを出してきてくれた。

「あんたね、自分のことなんだから、しっかりしてよ!」

自分としては、特にいい加減にするつもりは無いのだが、万事にどこか抜けている僕は、良くドジを踏む。

「まあまあ、かーさん、そんなに言わんでも良いじゃないか。」

しっかり者のおかみさんに対し、おおらかな親父さんは、とっちめられる僕をかばってくれる。

「そんなこと言ってもね、この機会逃したら、功ちゃん一生独り者で終わるかもしれないんですからね!」

「あちらさんも、いつもの功太郎を知らないわけじゃないし、そんなキリキリしなくても・・。」

「あんた、そんなこと言ってるからダメなんです。女心なんて、ちょっとしたことでも、あっという間に醒めてしまうもんなんだから。」

「でも、俺はそんなに気を遣っては・・。」

「だから、もう、あたしゃ醒めまくりですよ!!」

ヤベって感じで、矛先を納める親父さん。おかみさんはブスッとして親父さんを睨みつける。

親父さんといっても、50なったところ。おかみさんは親父さんと少し歳が離れてて40代前半。

おかみさん、今はこんな感じで世話焼きオバサンだが、実はかつて都会でかなり鳴らした美女OL。その上、付き合いもえらく上手で、子どもからお年寄りまで、誰にでも好かれる性質なのだ。お陰で信じられない人たちと知り合いだったりして、その計り知れないネットワーク力には、何度驚かされたことだろう。

今回の縁談も、狙った相手を見事に見合いに引っ張り出せたのは、まさにそのネットワーク力によるものだった。

そして忘れてはいけないのは、それは単にテクだけではなく、その魅力は、確かに口は悪いけど、こんなに人の良い人はいないんじゃないかという人の良さ。おかみさんの正直で温かい人柄にふれると、大概の人はクラっと来る。

ついでに言っておくが、親父さんにキツイことを言っているおかみさんだが、実はぞっこん惚れ込んだのはおかみさんの方で、ほとんど押しかけでここにやって来たという。そして派手にやりやってはいても、いつもは傍で恥ずかしくなるほど、ラブラブな夫婦である。

 

「功ちゃん、今日は早く寝なよ。遅くまでPCやってんじゃないよ。目にクマが出来て婚約式じゃあ、格好つかないよ。」

おかみさん、良く知ってんな・・・。僕は頭かきかき、僕は礼を言って家に帰る。





「婚約か・・」

家に帰り、今日また夜更かししたら、マジおかみさんに怒鳴り上げられると思い、早々に寝ることにした。

さすがにここまで来ると、マジで結婚のことを考えざるを得ない。それなりにこれからのことを想像しようと思うのだが、正直、思い巡らしても肝心の彼女の顔が、ボーっとイメージは湧いてもはっきり浮かばない・・・。

仕様が無いので、見合い写真を取り出して見る。


「あ、そっそ、そうだった。」

写真見て彼女の顔を思い出し、さすがに頭を掻く。


おかみさんから見合いの話が来て、駅前のホテルのレストランで、速攻、見合いをした。僕は自分にとっては、生涯最後のチャンスだと思っていたので、即OKした。しばらくすると、先方からもOKとの話が来て、婚約することになった。

それから、あちらさんは仕事を止め、花嫁修業に専念することになり、今まで仕事の関係で、月数回はうちの会社に来ていたのが、来なくなる。

だったら、どっかでデートしたらと言われるのだが、なんかデートなんて柄じゃないしなんて言っている間に、数回、数時間ずつ、婚約指輪のことや婚約式の打ち合わせということで会ったっきり。兎に角、最短で!と言うことで設定された婚約式が、明日となってしまったのだった。

 

さすがに、本当にこんなんで良いんかいな・・・。そう思う。

変な話だが、我ながら、自分がこの縁談に、あまりに他人事で呆れてしまう。いや、言い訳ではないのだが、ワザとそうしているのではない。本当言うと、実感が湧かないところが一番の問題なのだ。

もちろん自分が望んだからこうなっているのだが、こんなこと言ったら身も蓋もないのだが、あの娘と一緒になりたいと言うより、このままでは一生一人だという不安感が、この話に乗った理由だった。要するに僕には積極的な理由は無いのだ。


・・・・なんかなあ・・・・


話しに聞くと、結構あちらさんは積極的らしい。そうだとすると、この温度差、どう思うんだろう。

いきなり<わたしを馬鹿にして!!あんたなんかサイッテー!!婚約なんてありえない!!>とか言われて玉砕。僕は後で後悔・・・なんて落ちか?

ちょっとそれはなあ・・。


フーっと溜息。


<おい、功太郎、結婚すんのは、おまえなんだからな!!しっかりしろ!!>

おかみさんのまねをして、自分を鼓舞してみる。

・・・・これでしっかりできたら、世話無いよな・・・・


そんなことを考えている内に、僕はいつの間にか眠りについていた。

 

 

 

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