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第二部 3

空になった目の前の席。そこにはついさっきまで一人のイケメンが座っていた。

MM機械の御曹司、森山忠・・・

顔を歪めて考え込むその悩む姿すらも、なんだかドラマのワンシーンみたいに決まっていた。


<ああいうヤツもいるんだよな、世の中には・・・。>


森山の飛び出していった店のエントランスの方を、ボーっと眺めながら、そんなことを考える。

ルックスも並以上、MMの跡取りだとすると、財力だってそこら辺りの小金持ちなんか比にならない、本物の大金持ち。


いやあ、あいつだけじゃあない。

例のシェフや、サーファー達の顔が頭に浮かぶ。

・・・こんなに玉の輿のチャンスのオンパレードなのに、何で僕と結婚しようなんて思うんだろう。森山だけじゃあない、僕の方こそ、鈴子の考えていること知りたいよ。


そうなんだよ、

鈴子の気持ち・・・知りたい・・・・


飲みかけのコーヒーを一口すする。




僕の婚約者、天原鈴子・・・か・・・・


仕事の関係で鈴子が僕の会社に来たときには、いつもおばさん臭い格好だった。ルックスも僕の好みじゃなく、気安くは話せても、ときめくような相手ではなかった。

そんな彼女との、見合い話が舞い込んできたのだ。こんな閉鎖された環境の中、近くに年頃の男女がいれば、お節介おばさんが出てきて世話を焼く。一昔前までは、どこにでもあったシチュエーションだなあと思った。まあ、今回の場合、そのお節介おばさん役が、信頼するおかみだったと言うのもあって、あながち悪い話ではないだろうと、僕は特に深く考えることなく、見合いの場に臨んだ。


見合いのとき、事務員服姿の天原さんがどんな格好をしてやって来るかと、老婆心ながら心配をしていた。すると、さすがにいつもの所帯ヤツレした感じは封じ込められ、煌びやかとまでは行かないが、それなりにフォーマルな格好でやってきた。メイクもしていた。その時初めて、やっぱこの娘も年頃の女の子なんだと、変な安堵を覚えたものだった。

そして僕なんかに、これをパスしても、そうそう次の縁談なんかないだろうと思ったし、信頼するおかみさんからの超おすすめの話ということで、贅沢は言えないと、応諾することに決めたのだ。


しかし、そんな余裕をかませることが出来たのは、彼女の素顔を、知るまでのことだった。



フー・・・・

アイドルなんだって・・・・さ・・・・


鈴子って


なんか、実際にこう言う立場にたたされると、もの凄いプレッシャー。




 SR400で海に行った晩、僕は初めて、彼女が僕にとって、特別な存在なんだと思った。

 彼女と言う存在が、僕に凄く必要で、彼女と一緒にいると、絶対に幸せになれると直感が叫んでいた。それ以来、僕の心の中での彼女の居場所が、日に日に変わっていった。

そして時々、思い出すような存在から、いつも思う存在へ、さらに今では、僕の心の真ん中に住んでいる。



 でも、

でも彼女は、どうなんだろう・・・


 こんなパッとしない男と一緒になって、パッとしない人生を送るよりも、いくらでも良い相手はいるに違いない。もっとレベルの高い男捕まえて、玉の輿に乗れるんだろうに・・・。

そうだとあの男達だって、憧れの娘と一緒になれるわけだ。



 それなのに、なんで・・・

最悪な横恋慕だよな、これって。

『偉い人間ってのは、自分の不幸を省みず、他の人間を幸せにする人間だ』

うちの祖母ちゃんが言っていたことが、頭の中に響く。


<もし自分が幸せになる為、人を不幸に引きずり込むヤツなんて・・・情けねー、かっこわりー・・・サ・イ・ア・ク・・・・>

胸の内から、苦いものが上がってきたような嫌な気分。僕はその苦味を紛らわそうとして、お冷をガッと飲み干して席を立った。





 「ありがとうございました!」

ウェートレスさんの明るい声に送られ、アンティックな洒落たドアを開け表の道に出る。

少し歩くと直ぐうちの会社。おかみさんたち心配しているかもと思い、顔を出しておこうと事務所に行く。果たして、そこに親父さんとおかみさんが心配顔が待っていた。


「帰りましたー。」

「ああ、功太郎、帰ったか。」

「ねえ、MMの坊ちゃん、何だって?」

親父さんとおかみさんは、不安げに僕に聞いてきた。

「え?・・・それが・・・・。」


MM機械とうちの会社とは、同じメーカーとして日ごろから付き合いがある。だからMMの営業さんとはしょっちゅう顔を合わせているし、社長さんや、総務部長である社長の息子である森山とも、親父さんたちは何度も会っているようだった。


「いやあそれが、天原さんに、あの人、気があったみたいなんです。」

「え?・・。」

ビックリして立ち上がったのは、おかみさんだった。

「へえ・・・。森山の坊ちゃんがねえ・・・。」

そんな言葉が零れる。おかみさんは自分が進めたお見合いだとの認識があるからだろう、何時になく厳しい顔で考え込んだ。それは親父さんも同じで、横でビックリした顔をして唸る。


「なんでだろ、付き合ってる人がいるって話し、全然しなかったんだよあの娘。」

おかみさんは、思い出すようにしながら話を続ける。

「あの娘ね、わたしが『釣り書』持って行ったとき、あんたの写真見て、凄く嬉しそうにしたんだよ。」

「へ?!」

鈴子、僕との縁談が来て、喜んだんだ・・・。

僕は全く想像していなかった話の流れに、どんな顔をして良いか分からなくなる。何かの間違いだろうと、おかみさんに問いただす。

「あの、ちゃんと履歴書、読んでました?」

「え?履歴書?・・・。ああ、うん、直ぐ引っ張り出して読んでたよ。周りのおばさんに、冷やかされて赤くなって・・。」

「周りのおばさん・・・って。」

おかみさんたら、仕事のついで鈴子のいた会社に行った時、昼休憩に待ち構えてて渡したようだった。当然、周りにはそこの職場のおばさん達もいて、町で噂の娘に縁談が来たということで、相当盛り上がったようだった。

「それでねホント直ぐだったんだよ、会いたいて言って来たの、あの娘・・・。」

だから、他に男がいるとか、ありえない。森山の坊ちゃん、勘違いでもしてる、などと、おかみさんは結論付けていた。



<そっか、そうだったんだ。>


僕はそんな話を聞きいているうちに、いつの間にか、心臓が喉から飛び出しそうになるぐらい、ドクンドクンと激しく打っていた。

 

 

 

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