第二部 1
この部分、第一部11から、第二部1に、サブタイトル変更しました。
「おい、聞いたか?」
「いきなりなんだ。」
「スーちゃんのことだよ。」
「ああ・・・・・そのことな。」
そこで、重い沈黙・・・・。
海岸線の海が目の前に広がる、洒落たトロピカルな喫茶店に集まった、5人の男達。
その面子は、否が応でも周りの目を引く。と言うのは五人も五人、そろってそれぞれ個性的なイケメン。しかも、大なり小なりここらでは良く知られた、それぞれ分野での有名人ばかりなのだから。
まず、フレンチレストランの大上義男、実は義男はフランス留学中、本場フランスのコンクールで入選したことのある、若手のホープと言われる料理人である。その手の雑誌には、この頃良く顔を出すようになってきた。その隣には、ハーレーに乗っている森山忠。こいつの親父さんは、この地域では一番大きなメーカーの社長であり、超リッチなお坊ちゃま。次はサファーの小森和夫。和夫も唯のサファーではない。サファーのコンペティション仲間ではかなり名が知られていて、カリスマ・サーファーなどと呼ばれている。既にはかなりのファンがいて、ファンクラブもあるらしい。続いて富岡雅司、雅司は若くして、この喫茶店のオーナ店長。雑誌にも良く登場するこの店、いつも客でいっぱいであり、その常連さんの中には有名人が多くいるという。最後に笹塚時也、彼は最近ちょくちょくテレビに出始めた、ブレークは時間の問題と期待されている、今をときめくタレントである。
今年もシーズンが来て、外はさんさんと降り注ぐ夏の日差しが降り注いでいる。海岸には楽しそうに戯れる若者達。それとは相対して、ここに集まったこの五人のイケメンの周りは、厳冬の雰囲気だ。
「でさ、相手はどこのどいつなんだ・・・・。」
そう聞く時也に、忠がちょっとおどけた様に答えた。
「それがさあ、どんだけ凄いやつかと思って調べてみたら、唯のリーマン、しかもちっこい町工場の平社員・・・。」
「「マジかよ・・・。」」
他の4人は、絶句して顔を見合わせた。
「おい、カズ、スーちゃん、本当にそいつと結婚するって言ったのか!?」
雅司がたまらなくなって、和夫に突っ込む。
「そうだぞ、ありえんぞ、この取り合わせ。」
畳み掛けるように、義男も和夫に迫った。
「・・・いや、それは、間違いない・・・。俺、本人から面と向かって宣言されたんだから・・・。それにちゃんと、左手にはエンゲージリングがあったし・・・。」
そうだったと、義男も自分のレストランにきたときのことを思い出して、ガックリと椅子の背もたれにもたれかかる。
「なんで。」
「ふざけてやがる。」
誰とも無く、そんな悪態を吐く。
忠が唸るように言う。
「スーちゃんが小さいときから、俺ら5人は、誰がスーちゃんのハート掴むか、血で血を洗う争いを続けてきたんだぞ。」
などとオーバーなことを言うと、雅司が続ける。
「今じゃあ、スーちゃんのファンなんてなあ、ごまんといるが、俺たちゃそいつらが知らないころから、スーちゃんをずっと思い続けてきたんだ。そして、不埒なヤツラから身を挺して守ってきた。格が違うんだ、格が。」
義男が頷きながら叫ぶ。
「そうだ、俺たちこそ、スーちゃんの親衛隊。他のヤツらには、絶対スーちゃんは渡せない!!」
この五人、小さいころからの幼馴染でもある。それと同時に、鈴子の心をゲットするために、しのぎを削ってきたライバルでもある。
話は少し逸れるが、この目立って仕様の無い五人が、ずっと鈴子の取り巻きをしていたせいで、普通の男たちは彼女に近づくことが出来なかった。彼女が人気の割りに、男に対して信じられないほどウブな理由は、この男達にも一因があるのだろう。
「しかし、俺たちがこんなに固いガードをしていながら、まんまとスーちゃんをモノにしてしまうなんて、凡人のくせに得体が知れんな。」
渋い顔をしてうなる時也に、みんなウンウンと頷いて同意する。
そして深い嘆息と重い静寂が、この明るくて洒落た喫茶店の一角にどんよりと漂う・・・・。
キッと顔を引き締めた忠が、皆に呼びかけた。
「こうなったら、俺達の間で、どうのこうのやる場合じゃないぞ。とにかく、その婚約者気取りのヤツを、どうにかしないと、マジ、『とんびに油揚げだ』」
「だな。」
「分かった。」
「一時休戦だな。」
「分かった。」
みんな頷きあう。
「しかし、スーちゃん、なんで・・・。」
和夫が溜息交じりでそう言うと、
「俺達というものが有りながら・・・。」
義男は頭をかきむしりながら答える。
「裏があるんじゃないか?」
和夫ががばっと向き直ってそう言うと、
「なんだそりゃ。」
時也が目をむいて叫ぶように言った。
「きっとスーちゃん、何か握られてんだ。脅されてっかも知れない!」
「・・・おい、まさか・・・・」
一同は顔を順番に見合わせ、青い顔で思い巡らす。
あんなことやこんなことされて、写真撮られて、言うこと聞かなけりゃあ、これをネットに流すとか・・・
・・・・あんなことやこんなこと・・・・・
「俺たちなんか、手すらろくに握らせてもらったこと無いのにか?」
雅司がうなるように言った。
実はそうなのだ。この五人、互いに牽制しあって、絶対に一線を越えないという、紳士協定を結んでいるのだ。彼らの間で許されていたのは、フェアなアプローチで彼女に心を向けてもらい、コクって、OKを貰うと言うこと。それを破ると、強制的に排除される約束だった。
鈴子は、物心ついたころから、周りにいる男友達がこんなだったから、男の持つ凶暴性など、全然知らない。そう言う意味では、確かに彼らは、鈴子に「親衛隊」の役をしていたことになる。
それと実はもう一つ、この五人が鈴子に手を出せなかった理由で忘れてはいけないのは、鈴子の姉、時子の存在である。彼らは時子には、小さいころから「鈴子の友達」ということで、何かと世話になっていた。でも、単に世話になったから頭が上がらないだけではなく、時子姉さん、ああ見えてもかなり凄い人なのだ。鈴子も小さいころからビシバシに躾けたのだが、鈴子の友達であるこの男達も、何かあるとギシギシ言うほど絞り上げてきたのだった。だから5人とも、時子に対しては、ほとんどPTSDに近いものを抱えている。
さて、話をもどそう。
「い、いやまさか。そこまでは・・・。」
義男が口を挟む。二人の様子を一番知っている義男は、そんな危ない関係に見えなかったと、言った。
「そうじゃなかったら、何であいつなんだ? 」
「知らないよ。だけど確かに、スーちゃん、あいつといるとき、そんな怖がってるとか、助け求めてるみたいな感じは全然無かったんだ。っていうより、すっげー照れてて、まるで借りてきた猫。マジ、どこかのお嬢様みたいにオシトヤカにしてた。」
義男は自分の店に来たときのことを思い出しながら、そう付け加えた。
皆、それを聞いて、言葉を失う・・・。
「あの、俺たちをすら手玉に取る、超大物のスーちゃんがか?」
「ああ、間違いない、断言する。ヤツの前では、ガチャガチャ音がしそうなほど緊張してた。」
義男、間違いないと頷く。
「『ガチャガチャ』かあ?!」
あの、スーちゃんがなあ・・・・
皆一様に腕を組んで眉間にしわを寄せる。
「ますます、分からん・・。」
「だな。」
さらに重い沈黙・・・・。