第一話 革命
魔術と呼ばれる不可思議な力によって発展を遂げた都市国家【メギド】。
72柱の最高位の魔術をトップとして成り立つこの国には、大きく訳で3つの人種が存在する。
一つ目の人種、魔術師。
体内に内包する魔力を燃料とし、術式という名のプロセスを経て、魔術を扱うことが出来る者達。
二つ目の人種は市民。
名の通り、国に暮らす民衆のことであり、一般的には魔術を使えない魔術師以外の者が当てはまる。
そして3つ目、奴隷。
人間としての尊厳を奪われ、才覚に関係なく魔術の使用を禁じられた彼等は、平民の5倍の人数を越え、国を栄えさせる労働力として扱われている。
そんな人種によって成立するメギドに今、メギドの今後を左右する議会が行われようとしていた。
◇◆◇◆◇◆◇
浮遊する白い輪によって形成された不可思議な建造物―【メギド議会議事堂】。
メギドの様々な問題を議論する為に作られたこの場所には、全72柱の魔術師の内の9人を除いた63人の魔術師が集まっていた。
招集に応じた魔術師達が巨大な円卓に着席すると、議会は直ぐに開始される。
議会の最初の命題は『奴隷を開放し、魔術師の人工を増やすことで、より技術を発展させよう』という魔術師バラム発案の【奴隷開放案】。
この議会の決議は全72柱による多数決によって可否を問われる。
しかし、この命題に関しては多数決を取るまでもないと言えた。
大昔とは違い、現在のメギドの労働力は、その大半が奴隷であり、メギドに暮らす市民にとって奴隷とは必要不可欠な存在である。
加えて、今まで長きに渡って虐げてきた歴史もある。そんな奴隷を開放ともなれば、復讐され殺害される可能性もある以上、少し考えられる頭があれば賛成する者が出るとは思えない。
そう判断したのは、ボサボサの灰色の髪にローブを羽織った青年―レライエ。
隣では友人である赤をベースとした金で煌びやかに施されたコートを纏った銀髪の美青年―ベリアルも少し呆れた様な表情をしていた。
「ぶっちゃけ、敵を作りたくないってのが本音だよなぁ」
「まあ、そうだね」
友人の言葉にレライエは少し面倒くさそうにそう答えるが、確かに現在の平穏を壊してまですることではないと思える。
結果、決議は7対56で【奴隷開放案】は否決とされ、別の命題が飛び交った後、議会は終了。
奴隷開放派の魔術師は惨敗―――となる筈だった。
夜が更け、人々が眠りに着き出した頃。
魔術師バラムが後方で指示を出す。
バラムに従うのは、どう考えても魔術師とは程遠い体付きをした男達―奴隷。
武器や防具を身に纏った奴隷達は、数千もの軍勢となり、魔術師の集う【魔術師協会】へと進軍していく。
「進めぇ!悪の根源を滅ぼすのだ!我等に自由を!!!」
「「「「「我等に自由を!!!」」」」」
バラムの声と共に奴隷軍は士気を上げ、足を進める。
その後方に位置するのは、最高位の魔術師である全72柱の内、【奴隷開放案】賛成派だった魔術師と議会を欠席した魔術師の一部を加えた13人と一般の魔術師が数百人。
彼等の行動は反逆罪に値するが、革命とは勝者が肯定されるもの。
こうして、後に【月下の下剋上】と呼ばれる大革命が始まりを告げたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
圧倒的な数の暴力に押し負け、瞬くに魔術師が拘束されていく。
何よりも奇妙なのは奴隷達が魔術師の魔法をものともしないことだ。
一部の奴隷達は装飾品と言うには過剰な程に腕輪を身に着けているおり、その者達が魔術師を簡単に無力化していく。
そんな奴隷に対峙するのは―――
「はぁ!」
黒衣を纏った魔術師バアルは、顔が見えない仮面を付け、男とも女とも取れる声を上げながら糸を振るう。
魔力によって生成された強靭で極細な糸は、奴隷を包み込み、一瞬にして切り刻む。
―――その筈だった。
その瞬間、奴隷が装備する右腕の腕輪が光り出し、襲い掛かってきた糸を魔力へと分解。更には左腕の腕輪からは何の溜めもなく炎が発生する。
「チッ!ふざけるな!」
バアルは再び無数の糸を作り出し、それを積み重ねて壁にすることで炎を防ぐ。
しかし、奴隷の攻撃はそれで終わりではなかった。
左腕の腕輪から今度は風の刃が発生し、糸の壁を削り取り、強化された一撃がバアルに突き刺される。
「がはっ!?」
拳はバアルの腹部に直撃し、骨を折る。
そしてぐたりと倒れ込んだバアルに、怪しげな光を放つ手錠を嵌める。
「ぐ……、これは…魔力阻害物質……」
「黙れ!ついてこい!」
奴隷はバアルにもう一撃を加えて、気を失ったバアルを担いで運んでいく。
そして残りの魔術師も瞬く間に殲滅され―――革命は一夜にして達成された。
魔術師は一部が逃走したものの、最高位の魔術師の55柱、一般の魔術師が一千人程が犯罪奴隷として鎖に繋がれ、これまで使用されることがなかった奴隷刻印を施された。
そして―――その中には灰色の髪の青年レライエも含まれていた。
少し展開が早過ぎたかも知れません。