基本の婚約破棄と世界観
短めの作品です。
世界観は面倒くさければ読み飛ばしていただいても構いません。
3話からでも良いかもしれません。
終わりを予想したい場合は読んだ方が良いです。
「私ヘルセス・ジュエラーズはジュリア・シャイナグスとの婚約破棄を宣言し、アリシア・ベイスタルと新たに婚約を結ぶ。」
スラっと伸びた背、うつくしく輝く金髪、女とも見間違える美しい顔、まさに美丈夫と呼べる青年がアルト声で宣誓する。そんなヘルセスに寄り添っている黒髪の少女は、同じく壇上に居るもう一人の少女?を睨め付けている。
壇上に居るもう一人の女は、少女と呼ぶには太ましく後ろ姿は金髪のオークと言った姿しており、その姿にあった太い声で答えた。
「ほほほ、殿下おめでとう御座います。」
太ましい女は、自分が婚約破棄された事をまるで意に介さず、心からの祝辞を述べ、拍手で称える。
つづいて発言したのは壇上の最後の一人、王冠を被る中年の男は、ヘルセスとアリシアの二人の腕に嵌められたリングを見て静かに頷いた。
「真実の愛の試練を超えたか、我が息子ヘルセスよ。」
私はそんなやり取りを、冷ややかに見つめていた。
やはりここが異世界とは言え、この話の流れは違和感を感じずにはいられない。それが大好きなゲームの世界であったとしても。
私こと相澤若菜は、交通事故から目を覚ますとグレンダ・レジュールに生まれ変わっていた。この世界が、"クリスターナ王国学院の世界"だ、という事に気が付くのに、そうは時間はかからなかった。クリスターナ王国学院は前世でやりこんだゲームのタイトルであり、いわゆる剣と魔法のファンタジー恋愛ゲームで、エンディングの多彩さで有名になった。
ゲームの舞台であるクリスターナ王国は、王家と7大公爵家が統治する魔法王国で、7つの宝珠をかく公爵家が守護している。
王国の始まりは、1000年前に突如として魔界と繋がり、魔人族がこの世界に攻め混んできた事から始まる。この世界に住む様々な人族は連合を組み、魔人族に戦いを挑むも敗北が続く事に成る。そんな時、世界を守護する天使が8人の勇者を遣わす。人族はこの事で大きく事態を好転させることに成る。勇者たちは保有していた宝珠の力を使い、封印魔法で魔人族の5人の王を魔界へ追い返す事に成功する。すると魔人族達は魔界への一時撤退を始めた。魔人族は王が再び動ける様に成るまでの休息と考えていた。しかし、勇者たちは、この世界からほとんどの魔人族が居なく成った時を見計らい、魔界とつながる穴に封印を施し、穴を塞ぐことに成功する。そうして平和は訪れた、しかし遠い未来に、封印が破られ再び魔人族が攻めて来る事を懸念した人族は、魔界への穴があった場所に王国を築く事にする。勇者のリーダーが王となり、他の7人が王を支え宝珠を守る公爵となった。
そんなクリスターナ王国は恋愛結婚を重視している国であり、貴族籍に生まれた子供たちは13歳から16歳まで王立学院に通い、そこで伴侶を見つける事が習わしである。もちろん婚約も普通に行われているが、婚約をしていても好き合った二人は学園内に有る"心の迷宮"試練に挑む事ができる。試練を通過する事が出来ると卒業パーティで国王陛下の立会いの下、婚約を破棄して新に婚約を取り付けることができる。
プレイヤーはそんな学院に入学する4人のキャラクターから1人を選び、意中の相手と愛を育み、卒業パーティにて婚約を取り付ける事が目的になる。メイン攻略キャラは、婚約者を持つ王太子、婚約者を持つ宰相の息子、婚約者を持たない騎士団長の息子、婚約者を持たない宮廷魔道団長の息子、この4人が固定のキャラに成る。この他に各キャラに2人づつメイン攻略キャラがおり、1人は各キャラの従者見習い、もう一人は各キャラごとに違う。メイン攻略キャラは各プレイヤーキャラ毎にイベントの内容に違いがある。そのほかの攻略キャラは共通イベントに成って居る。なお逆ハーエンドはない。
このゲームは、戦闘にて敗北する以外にバットエンドがない。ほとんど何もイベントをクリアしなくとも、卒業パーティ後に親から婚約者を紹介され、強制イベントのモノローグが終わると"?人の子供に恵まれ幸せに暮らす???は、時より青春を過ごした学院を思い浮かべ、あの時違う選択をしていれば、違う幸せも在ったのだろうか?と思うのだった。"と言うエンドが見れる。また一切恋愛を行わず、戦闘やキャラクター育成に勤しむと、宰相エンド、騎士団長エンド、魔道団長エンドの要職エンドになる。
更に裏ダンジョンに封印されている魔族の第三王子を倒すと、勇者エンドなども用意されている。
そして4人の固定メイン攻略キャラには、重要なライバルキャラが4人の令嬢が設定されている。ライバルキャラと言うが必ずしも敵対するのでは無く、プレイヤーの行動に合わせ様々な立ち位置になる。協力者であったり、裁定者であったり、そして敵対者、またの呼び名を悪役令嬢化とも呼ばれる存在にもなりうる。
悪役令嬢化したライバルキャラは様々な妨害をしてくる。そうして卒業パーティで主人公は選択を迫られ、断罪イベントを起こす事ができる。断罪イベントで、ライバルキャラの敵対心が一定以上の場合、盗み集めいた宝珠を使い、魔人族の貴族を呼び出す。そうして主人公たちに戦いを挑んでくる。この戦いに勝つとトゥルーエンドと言う特別なエンディングが見れる。
壇上のジュリア譲は当然、王太子であるヘルセスを攻略キャラに選んだ時の、ライバルキャラである。
ただこのジュリア嬢、容姿以外は"完璧な王太子の婚約者"の設定で、血筋は7公爵の中でも王族に次ぐ力を持つシャイナグス家の出身、魔法の才能は嘗ての8人の勇者の再来と言われ、武術もたしなみ以上の使い手、学校の成績・正王妃教育共に完璧にこなし、派閥の内外からの信頼も厚い。そして何よりクリスターナ王国の恋愛結婚を重んじる精神を宿しているため、政略婚約のヘルセスに対し執着心を一切抱いていない。食欲を抑えられない悪癖以外弱点は一切無いのである。
そんなジュリア嬢のため、通常プレイでは協力者に成るのが常で、幾つかの戦闘で力を貸してくれる際には、一人で完封できるほどの実力を見ることができる。
彼女を怒らせ悪訳令嬢の成るには、主人公が悪役すれすれの選択をし続ける必要がある。そうして苦労して悪訳令嬢化すると、最強のボス戦と名高いラスボス戦を体験することができる。ジュリア嬢は4人のライバルキャラの中で唯一、必ず7つの宝珠すべてを集めてくる。7つの宝珠で呼び出される魔人族は魔大公ビグリアスで、その能力は裏ボスに届くほど高く、ジュリア嬢も同等の戦闘力を保有するため、多くのプレイヤーが何度かセーブポイントへ死に戻り断罪をあきらめる。ただこれには裏技があり、その方法をとれば一気に能力を半減させることが出来、割合簡単に攻略できる。もっともやり込派は、弱体せずに戦う真ジュリア戦を倒してこそ一人前とみなす傾向にあった。
そんなジュリア嬢は、プレイヤーからジュリア・デラックスと呼ばれ人気が高く、キャラの人気投票では女性キャラでは不動の1位で、総合投票でも攻略キャラを抑え1位に成った事もあり、かく言う私も好きだったりする。