The Boss
フレイラとウォールが殺り合っていると、フレイラにとっては聞き覚えのある声が耳に入った
「───やれやれ、騒がしいと思ったら……薄汚いハウンド・ドッグの痰壺野郎じゃないか」
「……こ、この声……!」
フレイラは本能的な恐怖を感じて飛び退く
「うぐッ……何だよ畜生……
銃なんか突き刺しやがるから……視界が……誰だ?」
ウォールは片目に刺さった銃が抜けないらしい
「飼い主の手を噛むようなバカ犬はここで脳天潰してやるよ、ウォール」
「……ぐは……、ハハハハ……
その声は例のアバズレか?
こんな噛み殺したくなるようなブスな飼い主はオレの記憶にはねーなァ」
滑稽にも、フラフラしながらウォールが軽口を叩く
「一流気取りの百万流が……
そんな醜態を晒してまで生きるのは辛いだろう?
殺してやるから墓のデザインでも考えとくと良い
そして私の名前はローレントだ
地獄でその名を広めといてくれ、いずれ世話になる」
「オレを殺すだって?
試してみろよ、あぁ?」
ウォールが笑って挑発すると、『ボス』は躊躇いなく彼の心臓を撃った
「……ぐがァッ!?
な、んンだァ……これ、ご……ぶァふッ!!
ぐる──じ……ッ、ぎ……、ゥァァァァ……!!」
「お前の不死は私からのクリスマスプレゼントさ
それとも、もう忘れたか?
ワルガキからはプレゼントを没収する…それがサンタの役割だってことを」
ウォールはもがきながら何かを言おうとしたが言葉にはならなかった
そして暫く釣られた魚のように跳ね回って、ついに事切れた
一部始終を目撃していたキャシィとフレイラは、二人して同じことを考えていた
殺らなきゃ殺られる
正義も道徳もない殺し合いの世界では当たり前のこと
特にフレイラは思い当たる節があるのだから尚更である
が、ローレントは此方に銃口を向けるでもなく、黙って二人を見つめていた
殺そうと思えば殺せる距離だ
だからウォールは殺された
不死でありながら殺された
そのようにしないということは、意思がないということだと思って良いだろう
「……わ、私はッ!!」
ついに我慢の限界が来て、フレイラが叫ぶ
「私はもう二度と戻らない!
お前らの世界には二度と戻らない!!
私はもうただの一般人なんだ!
私を殺してもアイツらは動かない!!」
それを聞いたローレントは溜め息混じりに呟く
「……なるほど、『くそったれ』から抜け出してきたメスガキか
で、親友か?男か?身近な誰かを売り飛ばすように言われたんだろう?」
「……親友を売り飛ばすように言われた
だから私は逃げてきた……」
「なるほど、立派だよ
あんなごっこ遊びのマフィアとは手を切って『正解』だ」
「……」
「ウチの車を貸してやろう」
「……え?」
「お前がマフィアを『辞める』方法さ、本当の意味でな
ケジメのひとつくらいつけてやっても良いだろ?
ウチだってアイツらが消えちまえば競合組織がなくなってすっきりするモンだ」
「……」
フレイラはキャシィを見つめるが、キャシィはそっぽを向いてしまった
「……じゃあ、お互い礼もいらないってことね」
「分かってるじゃないか、嬢ちゃん
早速だ、ついて来な」