The Maid
───ルーケは待っていた
ウォールからの報告を
来るはずのない『始末』の結果を
そして現実は彼をどこまでも絶望させた
やって来たのは、待ち望んでもいない『巨悪』だったからだ
「……ルーケ……ルーケ・シュターンですね?」
ルーケの名を呼んだのはメイドの女
顔半分が真っ黒に染まったその女は、一目見て危険だと分かるくらいに表情が死んでいた
「私を殺す前に名前を教えてくれないか?」
「お断りします」
「……そうかい、残念だよ
で、私を殺しに来たということは……あちらもダメだということかな?」
ルーケは死期を悟り、半ば諦めたように言う
「ご明察です」
「刑事をナメるなよ」
「ですが、知りすぎた者の結末は……もう覚悟出来ているでしょう?
そちらこそ、我々のことを軽く見すぎていたようですね」
「……知ることは正義だ
正しいから悪人であるお前らに消されるんだ
この『死』は正しい……意味のある死だ……」
「正義を身につけたところで弾ひとつ防げませんわ」
メイドはそう言ってルーケの胸に弾を撃ち込んだ
「ぐ……ば……ッ!」
驚くべき早撃ち───
素振りすら見せずに一瞬で───
ルーケは辛うじて意識を保ち、メイドの頭に向けて弾を撃った
「……お前も道連れだ……!」
その弾は確かに、確実に命中した
しかし───
頭に弾を喰らったメイドは何事もなかったかのように立っている
「……正しかろうが間違っていようが、実力がなければゴミなのです
あなたは正義という名の免罪符を得たゴミにすぎない
免罪符もろとも、あなたの魂は地獄で焼かれることでしょう
然らば、です」
「……何ッ……という……!
お前……不死身か……?」
メイドは質問には答えず、ルーケの首に弾を撃ち込む
それも、数発
そうしてようやく、ルーケは息絶えた
不思議なことに、メイドは返り血の一滴すら浴びていなかった
「……正義を守って犬死に、ですか
つまらないことでご主人様の邪魔をするようなクズ虫には───
とてもとても相応しい末路です」
メイドはそう吐き捨てて立ち去った───