CRAZY HOUND DOGS
「署長ッ、どういうことです!?」
ダンッと机を叩き、『署長』に怒りをぶつけるのは若き刑事、ルーケ
「……この世の全ての悪を倒す……
そんな都合の良いヒーローなど存在しないのだ」
「ふざけないでください!
キャシィは実在する殺人鬼だ!
『都市伝説』じゃない!」
「……ハッキリ言うがね、ルーケ君
何か事実が隠蔽される時、それは社会の歯車を上手く回すためになされるのだよ
そして民草はその事実を知ることなく、幸せに生涯を終える
事実を知った者は不幸な末路を辿るものだ
知ったところでどうしようもないことは……この世界に確実に存在する
幸福になるために結果的に不幸を掴むのは愚かだ……そう思うだろう?」
「……例の組織ですか……」
「そうだ、諦めろ
正義とはお前が信じているほど綺麗なものではない」
その署長のセリフがルーケを絶望させた
ルーケは自分の仕事に誇りを持っていたからだ
正義を実現する警察官という仕事に誇りを持っていたからだ
それを、いとも簡単に砕かれてしまったからだ
「……私は……正義のために生きているんだ
正義がないならそんな組織は……消えてしまえば良い……!」
「……青いな、身勝手で直情的……典型的な正義バカだよ、君は」
「ではその正義バカがあなた方の代わりに平和を守ってやりますよ」
ルーケは署長と決別した
・・・
───そして現在
「ハハハ……正義の味方とやらは面白いもんだなァ!
えぇ、例の殺人鬼を殺してほしい、と?
で、俺たちのことを何年間も探していた、と?」
「ああ、そうだ
もう犠牲者を増やすわけにはいかない……」
「ハッ、笑わせてもらいますぜ旦那
俺は悪人殺しが出来るからこの仕事やってんだ
そんな腐れ外道にモノを頼むたァ、アンタも所詮闇の世界から脱け出せないってことかい!」
「……正義のためだ、正義は何よりも優先する
警察には正義などない……少なくとも私はそう見る」
「ハハハハ、狂ってやがる
テロリストの考え方だぜ、そりゃあ
国のご意向に手前個人の理屈で反論しちまうんだからな
……だが気に入った、金さえ払えばブチ殺してやるよ」
「いくらでも払う」
「冗談だ、マジになんなよポリ公さん
楽しいコロシなら金はチャラだぜ、うちの業界はな
まあ、ポリさんが手を出さないってことは……ハズレじゃないのは確かだ」
「……任せたぞ」
「へっ、了解」
・・・
「……ねえキャシィ、車一台修理するのに時間かけすぎじゃない?」
フレイラが、車を修理しているキャシィの様子を覗き込む
その眠そうな顔を見たキャシィは激怒した
「うるッせ────なァァァァ!
てめーの頭蓋骨かち割ってその脳ミソを燃料にしたろうか?
あァ──ん!?」
「『混ぜるな危険』は世界の常識でしょ
グダグダ言ってないでさっさと直してよ、もうお腹減っちゃったァ」
「生ばっか言ってンじゃねェ──ッ!!
つーかお前も手伝え!」
キャシィが思いきり車を蹴りつける
すると───
「……あ、動いた」
「……マジかよ、蹴りで直るっつーことはこの車、マゾか?
定期的に蹴り入れてやらねーとな」
「そんなのどうでも良いわ、急ぎましょう」
「……お前ホントに命知らずだよな」
・・・
「クソ、何でアタシが運転しなきゃいけねーんだよ……
あークソクソクソクソクソクソクソクソ……」
キャシィはブツブツ文句を言いながら全力でアクセルを踏む
すると助手席から間抜けな声がした
「うばふッ!」
キャシィが見ると、そこには恥ずかしい体勢になってしまったフレイラの姿があった
「へっ、なァんだその格好
自分のお上品な股にでもキスしたくなったかよ?
発情期の獣じゃねーか、まるで」
フレイラの恥態を見たキャシィはそう言って豪快に笑った
「くッ、絶対仕返ししてやるんだから…!」
「やめとけよ、アタシはお前みたいなクソガキ相手じゃ汗ひとつかけねーんだからさ」
「言ったセリフには責任持ちなさいよね腐れ殺人鬼
嘘吐きは地獄で舌抜かれるんだ、ベー!」
フレイラはそう言いながらジタバタして、何とか元の姿勢に戻った
「へへ、アタシの舌を抜こうモンならソイツのブツを引き抜いて天日干しにしてやるよ」
「───ところでキャシィ」
途端に、フレイラの声から『ふざけ』が消える
「……あ?」
キャシィも同じだ
「アイツら、私たちのこと尾行してんのかな」
そう言ってフレイラは後ろをチラッと見る
如何にも怪しい黒塗りの車が数台
キャシィはそのことに既に気づいていたらしく、
「まあな」
とだけ言う
「……アイツら、知ってる
最凶の自警団……闇夜の処刑兵器……クレイジー・ハウンド・ドッグ……
目的のためなら手段を選ばない暗黒の執行者たちだよ」
「目的のためなら手段を選ばない、ねぇ……
アタシの丸パクリじゃねーか、気に喰わねぇからブッ潰す」
「……へ?」
「クソガキ、運転してろ」
「嘘!?無理無理無理無理!!」
「ケッ、じゃあ犬畜生の餌にでもなるかよ?」
「……運転すれば良いんでしょ!
いちいちおっかないこと言って脅すんじゃないわよ!
仮にも元マフィアだっつーのにィィ!」
キャシィは車から身を乗り出す
しかし───
「うおお──ッ!?」
キャシィの目には、恐らく車を爆発させるには充分な火力を持つであろう武器を構えた男の姿
「───おいフレイラ、死にたくねーなら大怪我覚悟で飛び降りろ」
「……は、はぁ……!?」
キャシィとフレイラは走行中の車から飛び降りる
そして二人の頭上を何かが掠めていき、間もなく車は爆発した
「……あぁ……ラッキーだ……お焦げにならずに済んだぜ」
「くぅ……擦り傷ッ!
これは染みる……不衛生だけどしばらくお風呂には入らないわ……!
唾つけときゃ治るし……」
ふたりが何とか起き上がろうとしていると、そこに犬畜生のボスが現れた
「……あーあー、何で避けちまったかなァ……
ひとつ弾撃つのにどれだけ金かかるか分かってんのかよォお前ら……
やっぱ信頼出来るのは己の肉体だけってことかァ?」
そう言う男の手には、まだ先程の武器が握られている
「PIATを改造したとか言ってたな……まあ撃てりゃあ良い
だがお前らを殺せなかったんで減点だなぁ」
「……チッ、てめーのせいで車さんが御陀仏だバーカ
今からナイフでてめーの首斬り落としてやっから来いよ糞垂れ
そんで首無しニワトリみてーにダンスでも踊ってやがれ」
キャシィはイラついている
そしてそのことはこの場の全員が理解している
「オレの首より先にお前の血管が切れちまうんじゃねーのか?」
「……キャシィ、こんなヤツら相手にどうするつもり?」
「殺す以外に何がある?」
「はぁ、私だって元マフィアだ……
おママゴトの兵隊なんて臓物ブチ撒けるまでズタズタにしてやるわ!」