Sorrow Orphan
「……そう言えばフレイラ、お前はマフィアになる前は何て名前だったんだ?
その名前は生まれつきってワケじゃないだろう?」
ローレントがタバコを吹かしながら訊く
ジョンズの遺体を『処理』した後、ローレントは二人を宿まで連れて行くと言い出した
そして、そのためにローグに車の手配を依頼してくれた
もはやローレントは、二人にとって頼もしい存在となりつつある
そしてローレントもまた、二人のことを気に入りつつある
「フレイラが私にとって最初の名前よ
ああ、その……正確には違うんだけどね
私、孤児だったから……」
「……そうだったか」
「両親の顔や声なんて全く覚えてないし、家族の思い出なんてひとつもない
私にとって家族と呼べるのは、ずっと苦楽を共にしてきた孤児の仲間だけ……
孤児院はイヤな噂があったから……だから私たちは薄汚い路地裏で生活してきた……
私がマフィアに入ったのは、そんな苦しい生活とお別れしたかったからよ
まあ、そうやって仲間を裏切るようなヤツだからこんな不運な目にばかり遭うのよね」
「……生きるためにやったことだろう
なら、罰は当たらないさ」
「……」
「……ジョンズがローグから買っていたガキも、大半は孤児だ
中でも酷いのが『ソーニャ』
虐待され、親を殺して孤児になり、ブチ込まれた孤児院で体をイジられ、最後は変態爺の慰みモノだからな
その孤児院の噂ってのも間違いじゃなかったんだろう」
「孤児ってそんな話ばかりよ……
そうだ、キャシィはどうなの?
その名前は生まれつき?」
フレイラは嫌なことを思い出してしまった、と言わんばかりにキャシィに話を振る
だが───
「殺人鬼の過去なんて知っても面白くねーよ」
と、不機嫌そうに答えるだけ
そこからはひたすら静寂が続き、
「……そろそろ着きます」
運転手のその言葉があるまで、三人の時間はしばらく止まったままであった