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元魔王、魔王討伐へ  作者: ーまーしー
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文無しなど認めない


 「んっ、なんだここは? うっ」


 目覚めたバルトは薄暗い路地裏に倒れていた。すぐに体を起こそうとしたが全身に激痛が走り、起き上がれない。


 「なんだこの体? よく見たらボロボロじゃねーか」


 バルトの体は全身傷だらけであった。状況が理解できなかったが、とりあえず自身に回復魔法をかけ、その場に立ち上がる。ある程度傷が癒えたのを確認し、状況を整理する。


 「この程度の回復魔法でここまで疲労するか。魔王だった頃とは雲泥の差だな。それに傷だらけの体に転生とは。あの女、適当なことしやがって」


 路地裏を出てあたりを見回す。そこは見てすぐに分かるほど治安の悪そうな寂れた町だった。


 「ふむ、今は昼前といったとこか。――おい! そこのお前ら!」


 バルトは目についた3人組の後ろ姿に声をかける。


 「あぁ? ってお前!? まだ生きてやがったのか!?」

 「あれだけ痛めつけてまだ生きてやがるとはバケモンか?」

 「まぁまた殺せばいいだけの話だろ。落ち着けよ」


 どうやらこの体の持ち主はこの3人組に殺されたらしい。死体を器に転生させるとはあの女、いい度胸してやがる。バルトはそう思うと同時に、この痛みの元凶に怒りを沸かせる。


 「貴様らか。聞きたいことは山ほどあるが、まずは借りを返さんとな」


 3人組を睨みつけるバルト。


 「あぁ? 何言ってんだお前!? イかれちまったか!?」


 そう言いながら大柄な男は殴り掛かる。バルトはその拳をくぐり(かわ)すと下から顎に強烈なアッパーを浴びせる。大柄な男はたまらず膝から崩れ落ちた。


 「ふぅむ、感覚に違いはあるがさすが転生、といったところか。思うようには動くな」


 バルトは殴った拳を動かしながら体の動きを確認する。


 「こいつ、さっきまでと全然違うぞ?」

 「確かにさっきまでとは違うな。まぁ2人でやれば楽勝だろ。落ち着けって」


 顔に傷のある男と眼鏡をかけた男が身構えこちらの様子を見る。


 「次は魔法を試すか」


 バルトは右手に力を込める。すると右手が黒い炎を(まと)いだす。


 「なっ?」

 「なに?」


 バルトが2人組に手をかざし、黒い炎を撃つ。炎を受けた2人は壁まで吹き飛ばされ意識を失う。


 「はぁ……これでは黒煉獄を使うのは厳しいな。なんとかして魔力を上げなくては」


 少し息を切らしながら倒れている大柄の男に近づく。


 「おい、起きろ。貴様には聞きたいことがある」


 「ぐはっ、ごほっ、ごほっ、一体何なんだよお前は!?」


 大柄の男を蹴り上げ目覚めさせる。男はすでにバルトに怯え戦意を失っていた。


 「ここはどこだ。お前の知っていることを教えろ」


 「マジでお前イかれちまってるなぁ!? ぐはっ!」


 睨みつけながら再び蹴りを入れるバルト。大柄の男はうずくまり、手をかざして降伏する。


 「わかったわかった! もう勘弁してくれ! ここは『フリギア』だ! これで思い出したか!?」


 「それだけで分かるわけないだろ。全部、細かく説明しろ。お前に出来ないなら殺して他のやつに聞くことにするか?」


 バルトは睨み続けながら質問を続ける。大柄の男から見れば、バルトはこの世界の住人なのである。この町、この世界のことを知らないとは思いもしない。


 「ここはフリギアって町だ。昔はそれなりに栄えてたらしいが、魔王軍に支配されてから、住人のほとんどが王都に逃げちまったらしい。今じゃ残ってるのはチンピラか貧乏人だけだ」


 「魔王軍に支配? どういうことだ?」


 男の説明に疑問が浮かぶ。バルトの記憶ではフリギア地方は支配していない。


 「俺もよく知らねぇが今の魔王になってから支配されたんだとよ」


 「今の魔王だと?」


 「だからよく知らねぇって言ってんだろ!? そんなに知りたきゃ酒場のじぃさんに聞けよ!」


 男はイライラしながら突き当たりの建物を指差す。


 「ふん、使えんやつだな。まぁいい。とっとと消えろ」


 バルトは男に背を向け、指差した建物へ向かいだす。


 「けっ、お前ろくな死に方しねぇぞ」


 男はそう言いながら気を失っている2人を抱え、その場から逃げ去る。


 酒場に着いたバルトは躊躇なく扉を開け、店内を見渡し年寄りを探す。


 「にいちゃん見ない顔だな。よそ者か?」


 カウンターにいるマスターがバルトに話しかける。


 「物知りじいさんがここにいると聞いた。お前、知っているか?」


 「ここは飲み屋だ。客でもないやつに教える義理はないね」


 バルトはポケットを探るが何も入ってはなかった。元々金なしか、あの3人組に盗られたのだろう。


 「生憎(あいにく)俺は文無しでな。自分で探す」


 マスターは舌打ちをし、バルトから視線を外す。


 バルトが再び店内を見渡すと奥のテーブルで一人、酒を飲んでる年寄りが目に入った。


 「じいさん、この世界に詳しいらしいな。知ってることを教えろ」


 バルトは年寄りに詰め寄り、威圧しながら聞く。年寄りは表情一つ変えないまま答える。


 「ここは酒場じゃぞ? 語るにしても飲みながらじゃろうが」


 「ちっ、金はねぇ。なんなら表出るか? クソじじぃ」


 バルトは睨みつけながら年寄りを脅す。


「ふおっ、ふおっ、強引なやつじゃのぅ。見たところよそ者の様じゃが、お前さんはこの町が似合いそうじゃのう」


 「こんな町が似合うと言われても嬉しくねぇよ。話す気が無いなら話したくなるようにしてやるよ」


 「ふおっ、ふおっ、それは困るのぅ。まぁ座れ。おい、リカルド! こいつにも一杯やってくれんか」


 リカルドと呼ばれたマスターは不服そうにバルトの前に酒を出す。


 「それで、何が聞きたいんじゃ? 小僧」


 「この世界のこと全て、いや、とりあえず魔王について教えろ」


 バルトには聞きたいことが山ほどあったがまずは魔王について、バルバトスが魔王だった頃とは違う今の状況を知りたかった。


 「ほぅ、この時世に魔王を知らぬ者がおるとはおどろきじゃわぃ。まぁよい。『魔王ゼウス』今やこの世界の半分を支配しておる男じゃぞぃ」


 「ゼウスだと?」


 「そうじゃ、50年前、勇者シモンが魔王バルバトスを討伐したが勇者シモンは失踪。それと同時期に現れた魔王じゃ」


 「――勇者シモン」


 バルトの目の色が変わる。抑えきれない殺気が酒場中を震えさせる。店の客達は黙り、遠巻きにバルトを見る。


 「……どこにいけばシモンに会える?」


 バルトにとって転生した一番の、いや唯一の理由である。自分を殺した勇者を殺すため、その為だけにわざわざ転生したのだ。


 「勇者シモンの存在は今も不明のままじゃ。噂では魔王ゼウスに殺された、とか捕まっておるとかいろいろあるがの」


 「つまり、その魔王ゼウスとやらに聞けばいいんだな」


 「確証は無いがそうなるのぅ。じゃが、ただの人間が魔王ゼウスの元にはそうそう行けんぞ? 今の魔王軍はバルバトスの時代よりもさらに狡猾で凶悪じゃ。あっという間にバルバトスの時代より倍以上も領土を増やしておるからの」


 「あぁ? バルバトスより凶悪だぁ?」


 バルバトスの魔王軍よりも勢力が強いという言葉に、バルトの体が怒りで震える。


 「そうカッカするな。ここフリギアも魔王軍の支配下として、金品なり酒なりを搾取されとるくらいじゃからの」


 「ちっ、それでこの町にはチンピラしかいないのか」


 「そうじゃ。皆王都へ移住してしまったわぃ。昔は祭でもあれば、盛大に花火をあげて盛り上がっていたんだがのぅ」


 年寄りは遠い目をしながら少し寂しそうに話す。この町もかつては、いろいろな人で賑わっていたのだろう。


 「なるほど、わかった。どうせシモンの場所が分からないなら魔王軍もろともゼウスをぶっ殺して居場所を吐かせることにする。じぃさん、この辺を支配してる魔王軍のやつはどこだ?」


 シモンはもちろんゼウスとかいうやつもぶっ殺して、俺が最恐の魔王ってことを知らしめてやる。バルトの頭にはそれしかなかった。


 「ふぉっ、ふぉっ、とんでもないことを言うのぅ。それは最早無謀としか言いようがないぞぃ?」


 「うるせぇ、いいから教えろ」


 「しょうがないやつじゃの。フリギアを支配しておるのは『ディオス』という男じゃ。ここから北にしばらく行った先に屋敷があるぞぃ」


 バルトはそうか、と呟くと残った酒を飲み干す。


 「じぃさん、これは借りにしとくぜ」


 「ふぉっ、ふぉっ、儂の名前はロイじゃ。生きてまた会えたら返してもらうとしよう」


 「俺は借りを返す主義でな」


 バルトはそう言いながら、酒場を後にした。



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