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05

守護者の主だった任務には二通りのものがある。

魔物の襲撃から都市を護る防衛任務、魔物に破壊された都市へ赴きそれを殲滅する奪還任務。

かつては魔物の棲家へと直接乗り込み、遭遇した魔物を片っ端から始末するという遊撃任務も有ったのだが、その被害の甚大さから現在は行われていない。


守護者の組織も戦争が長引くに連れ細分化していき、多大な被害の上で魔物と如何にして戦っていくかというノウハウを構築していった。


そんな細分化していく過程で作られたものが、通常の守護者達では手に余る困難な任務に専門で当たる『対魔物特殊任務部隊』である。


その性質から隊に所属する者は、対魔物戦のエキスパートである必要が有る。

常人の理解を超えた能力を持つ彼等は、魔物に対抗する切り札とされた。



鐘楼の鐘の音によって集められた特務隊のメンバー。

皆一同にして、口を噤んで座ったままである。

特に決まり事では無かったのだが、全員がこの会議室兼待機部屋に到着するまでは、先に到着した者は黙って着席しておくというのが習わしとなっていた。

真っ先にこの部屋に到着したのはナルディで、その後にセラ、サイモン、ブリッツの三人がほぼ同時に到着。

少し遅れてカレン、そして今しがたこの部屋に到着した青髪の女性エルフを最後に、特務隊六名全員が揃う。



「それでは今回の任務、その概要について説明する」


招集された特務隊の面々に重々しい口調で語り掛けるのは、この精鋭中の精鋭である面子を纏め上げる隊長のサイモン。

コの字型に並べられた机に座る五名を一瞥してから、習わし通りに隊長であるサイモンが沈黙を破る。


「北方の砂漠地帯で大規模な奪還作戦が行われるのは知っているな?」


「珍しく天使様が加勢してくれるって話の作戦だろ?」


椅子に踏ん反り返り机に脚を投げ出して座っていたブリッツが、他人事でも話すように言う。

かつてその砂漠地帯には魔物に対抗するため、高度に城塞化された都市が有り、反抗の一大拠点として栄えていた。

もっともその頃は不毛地帯では無く、緑豊かな肥沃な土地だったのだが。

この度の作戦は天使主導の下、砂漠に取り残されたこの城塞都市の奪還というものだった。

特務隊はこの作戦には投入される予定は無く、事実この時までは他人事だったのである。


「おい、ブリッツ。 人の話を聞く時は姿勢を正して聞け。 だいたいお前は、いつも……」


「もうっ、ブリッツの馬鹿は放っておいて良いから、早く本題を話しなさいよね!」


サイモンの小言によって話が中断されそうになるのを見かねて、セラが口を挟む。


「おいおい、そりゃあ無いぜ剣姫様よぉ」


つい先程、真っ二つにされかけた事も忘れてブリッツは、ぞんざいに扱われた自身の処遇に対して口を尖らせて抗議する。


「いいから、今すぐその汚い脚を降ろして黙ってなさい! アンタがしゃしゃり出てくると、毎回話が脱線するんだからっ」


セラは椅子から立ち上がるとおもむろに、机に投げ出されたブリッツの足目掛けて鞘に収まったままの剣を振り下ろした。

抜き身では無いにしろ、セラの振るう愛剣は鈍器にしても充分過ぎる程の重量は備えている。


「おっと……、全くおっかねぇったらありゃしねぇ」


寸でのところでブリッツは脚を引っ込め、椅子に座り直す。

机に叩き着けた剣はそのままに、セラは振り上げたもう片方の手で握り拳を作りブリッツを威嚇する。


「騒ぎ散らすお前も脱線の原因だ、セラ。 今度は此処の机まで壊す気か?」


サイモンにそう咎められたことに返事もせずにセラはそっぽを向き不満を主張する。

矛先が逸れたことで命拾いしたブリッツ、胸を撫で下ろしうなだれるように机に突っ伏した。


「大方、何らかの理由で天使様が作戦参加不可になっちまった。 そこで、……あっしらが露払いに駆り出された、と。 そんなとこでしょう?」


自分に火の粉が散らないようにと、セラとブリッツのやり取りを黙って見ていたナルディが口を開く。


「概ねそんなところだ、相変わらず冴えてるなナルディは。 天使の参加ありきで立てられた作戦だ、その主戦力の天使が戦闘に参加出来なければどうなるか、……解るな?」


「そりゃあ、球と火薬の無い大砲で闘えってのと同じくらい無茶な注文でさぁ」


サイモンの問い掛けにナルディは、お手上げといった様子で両手を上げておどけてみせる。

ナルディの喩えの通り、天使とはそれ程までに戦局に決定的な影響を与える存在であった。

通常の天使であっても一騎当千、大天使以上は万夫不当、人の身では到底到達し得ないであろう高み。

それが天使という存在。


「そこでわたくし達が集められた訳なのですね」


これまでの会話で自身が呼び出された理由を察したカレンがそう確認する。

とても守護者宿舎全体に響き渡る、大絶叫を挙げた人物とは思えないような、お嬢様感溢れる上品な座り仕草で。

真っ直ぐに切り揃えられた前髪、顎のラインを覆うように切り揃えられたサイドの髪、長い後ろ髪をつむじの辺りから黒いリボンで纏めたヘアスタイルも彼女の上品さを際立たせていた。


「本隊の突入前に空からの奇襲を掛ける。 いつも通り、……怪鳥を使ってな」


「ではわたくしもいつも通り、怪鳥さんの上からクリューさんと皆さんの援護を行う、ということで宜しいのですね?」


「そうだな、カレンとクリューは上空から突入する俺達をサポートしてくれ」


「はいはーい、あたしは上から得意な雑魚散らしって訳ですねー」


その神秘的とも言える容姿に似付かわしくない、背もたれに顎を預けて逆さ座りをしたまま、クリューと呼びかけられたエルフは軽い口調でサイモンの指示に応じる。


彼女の名はクリューソプラソス。

長いので皆、クリューと短縮形の愛称で呼んでいる。


立てば臀部を半分は覆い隠そうかという長さまで伸ばされた艶やかな青髪。

その髪の間から伸びる長く尖った耳。

妖しい彩光を帯びた金色の虹彩。

少女と呼んで差し支えない年頃に見えるその容姿は紛れもなく美しいものだった。

だがそのアンニュイな雰囲気も相俟って、どこかミステリアスな印象を与える。



「俺とセラ、ブリッツ、ナルディは固まって上空から地上へと切り込む。 良いな、くれぐれも単独行動はするなよ?」


依然睨み合いを続けるセラとブリッツをギロリと睨みながら、サイモンは念押しするように二人に言う。


「そうね、ブリッツが輪を乱すような行動をしたら私が始末するわ」


「剣姫様は良いとして、皇女殿下とカレン様が一緒なんだ。 二人を危険な目に合わせるようなマネするわけないだろ?」


そう言うと毒づくセラを躱すように顔を横にずらすと、ブリッツはクリューとカレンに向かい、それぞれに投げキッスをする。

二人は示し合わせたようにブリッツに向けて同時に愛想笑いを返す。

もっとも、愛想笑いというよりは苦笑いと言ったほうが的確かもしれない表情であったが。


「ブリッツにどう思われても気持ち悪いだけだけど……、何か腹立つから蹴らせてっ」


言うより先にセラは、机に肘を着いて身体を預けているブリッツ目掛け勢い良く蹴りを放つ。

セラの鋭い蹴りが脇腹に突き刺さり、だらしなくにやけていたブリッツの表情がみるみる歪んでいく。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ! やった後に尋ねるのは順番が違うってもんだぜ……」


容赦無い一撃を貰ったブリッツは椅子から転がり落ち、脇腹を抑えて呻きながら床にうずくまっている。


「ねー、痛そうなとこ悪いけど、その皇女ってのやめてよー」


苦悶の表情を浮かべるブリッツを眺めながらクリューは不満を口にした。


「良いじゃないの、私と違って本当にお姫様なんだから」


悶え続けるブリッツの代わりにセラがそう答える。

青い髪と金色の瞳、それは皇帝の血を引く証。

しかし皇族という身でありながら、守護者としてアウルノーシュの地に身を寄せるというのは特殊な事情が有るが故であった。


「そうだけどー、いろいろ訳アリだしそう呼ばれるのは、ちょっと複雑かなーって」


特に表情を変えること無く、クリューは緩い物言いのままそう続けた。

彼女は基本的に表情の変化に乏しく、感情の起伏もこの緩い口調のせいで掴み難くその成りを潜めているのである。


「まぁまぁ、そのお陰でこうして仲間になれたんだしさ。 頼りにしてるわよ、皇女様っ!」


「もー、セラちゃんまでー」


「お前達、仲が良いのは結構だが……。 見ろ、カレンとナルディはもう出発の準備に行ったぞ」


いつの間にか部屋の中からカレンとナルディの姿は消えていた。

お前等もさっさと準備をしろと言わんばかりにサイモンが、じゃれ合う二人を睨む。


「はいはーい、じゃあセラちゃん、あたし達も行こー」


「そう言うアンタも偉そうにしてないで準備しなさいよねっ」


まるでピクニックに行く準備でもしに行くように二人が去った後、やれやれと言った表情でサイモンとブリッツは大きく溜息をついた。

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