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 リーズがアーシェラの家で暮らし始めてから数か月――――

 冬真っただ中のこの日はいつもに比べて特に寒く、夜になると体の芯まで凍ってしまうのではないかと思えるほどだった。さらに家の外では一日中雨が降っていて、この気温ではいずれ霙になるだろう。


 だが、そんな寒い夜でも心地よい暖かさの場所がある。

 リーズとアーシェラはいつものように、ベッドで抱き合って寝ていた。

 羊毛でできた毛布に包まれた二人の身体は、お互いの体温で暖炉がいらないほどあったまっている。どんなに寒い夜が来ても、リーズとアーシェラはお互いがいれば心地よく眠ることができた。


 リーズはアーシェラの胸に顔をうずめ、アーシェラはリーズをあやすように抱きかかえる。

 いつもと何も変わらない…………新婚ほやほやでラブラブな二人……


 けれども、この夜は珍しくアーシェラが何かに気が付いて、ふと目を覚ました。


「……んん? リーズ?」


 真っ暗で何も見えない夜の闇の中で、アーシェラは自分の身体がいつも以上に強く締め付けられているように感じた。痛くはなかったが、ちょっとだけ苦しい感じがする。


「…………て、……ェラ。……どこに…………おうち、かえりた…………たすけ…………しぇら、シェラぁ……」

「え……? ど、どうしたのリーズ!?」


 胸元から、リーズのか細い声が聞こえ、アーシェラは一瞬心臓が止まるかと思うほど驚いた。

 なぜならリーズの声で「お家に帰りたい」と聞こえたので、彼はてっきりリーズがホームシックになっているのではと思い込んでしまったのだ。

 ひょっとしてリーズは今まで実家に帰りたい気持ちを抑えて、アーシェラとの結婚生活をしていたのだろうか…………そうであれば、アーシェラは自分があの王国貴族たちと同じことをしているのではないか?


 しかし、よくよく声を聴いてみると、すぐにそうではないことが分かった。


「助けて……シェラぁ! シェラのいるところに…‥…帰りたい!」

「リーズ…………もしかして、夢でうなされてるのか!」


 どうやらリーズは、何か悪い夢を見ているようだった。

 目にはうっすらと涙が浮かび、ずっと見ていたくなる可愛い寝顔は苦痛に歪んでいる。彼女がアーシェラの身体をいつも以上に強く抱きしめるのは、夢の中の何かにおびえているからなのだろう。


(なんてことだ! たとえ夢の中であっても、リーズを苦しめる奴は僕が許さないっ!)


 アーシェラも、寝起きで若干思考が変な方向に行っているようだが、結果的にこれがいい方向に働いた。

 強く締め付けてくるリーズに負けないくらい、アーシェラは愛するリーズの身体をぎゅっと抱きしめた。右手で頭を撫でて、左腕で腰を抱え、震えるリーズの身体を安心させようとする。


「大丈夫だよリーズ、大丈夫。僕はここにいる。君がどこにいても、僕が守ってあげる。だから、泣かないでリーズ」


 まるで子供に言い聞かせるように、アーシェラはリーズの耳元で呟き続けた。

 アーシェラは、出来ることならリーズの夢の中に飛び込んで、リーズを悲しませている何かを退治してやりたかった。それこそ、相手が魔神王であろうとも…………彼はリーズを守ってあげたかった。けれども、今アーシェラに出来るのは、強く抱きしめて、優しく撫でて、落ち着かせる言葉を言い聞かせるくらいしかできない。


「シェ……ら。んふっ………シェラぁ♪」


 久々にちょっとした無力感を感じたアーシェラだったが――――彼の必死の努力が通じたのか、リーズの震えは徐々に落ち着き、苦しそうな表情もすぐに明るさが戻ってきた。締め付ける力はなかなか緩まなかったが、今はこの苦しさすらもアーシェラにとっては心地よく感じる。


(落ち着いたかな、リーズ。もし夢の中でも君を守れたのなら、僕はとてもうれしいよ)


 夢の中での出来事なので、もしかしたら起きた頃にはリーズはすべて忘れているかもしれない。

 いや、こんな苦しい夢を見たことなんて忘れてしまった方がいい。夢の中でもリーズを守れた満足感は、彼の胸の中でこっそり取っておくのもいいかもしれない。


「愛してるよリーズ。今度は……いい夢を…………」


 緊張が途切れたからか、アーシェラの瞼が再び重くなり、リーズの頭を撫でながら深い眠りに落ちた。 


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