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今日から学校と仕事、始まります。②莞

清き一票となんとなくの一票

作者: 孤独

「それでは次のニュースです。今日は地方選挙の投票日でございます。各地で候補者達が熱い戦いを繰り広げられており、激しい地方選挙となっております。それでは投票場の現場から、桂浜アナウンサー」

『はーい!こちら、現場の桂浜でーす!私は今、投票場の小学校に来ております!続々と人が集まって来ております!また、候補者達も最後まで諦めず!活動を続けております!それでは、ここから有権者達の声を訊いてみようと思います!!』



◇        ◇



国だの県だの市だのと……。

選挙とは色々慌しいものだ。街中に響く、自己アピールの声は騒がしいもの。


『どーか!清き一票をお願いしまーす!私、古葉への一票をお願いしまーす!』


候補者の熱いお声。街宣車からのアピールは確かに耳と目を釘付けにさせる。

聴こえてないだろうが、子供は言う。



「五月蝿いです。なんなんですか、あれ?」

「候補者のアピールだよ、のんちゃん。地方選が始まったからね」

「街のトップを決めるとかの、そんな感じです?」

「そーそー!のんちゃんはまだ小学生だけど、私。ミムラは大学生で、選挙に投票できる有権者なんですよ」


私は大人ですってアピールをする沖ミムラであるが、……。残念ながら、歳をとれば誰でも獲得できるだろう悲しいご資格とご自慢に。のんちゃんは無自覚ながら鮮烈なことを浴びせる。


「ミムラさん。政治のこととか分からないのに、投票権があっていいんですか?」

「ちょっ!?……ひ、酷くない?え?」

「そんな一票と政治を知っている人の一票が同じだなんて、なんとも可哀想な政治だなってのんちゃんは思います。のんちゃんがいた異世界ではちゃんとした学を持つ人にしか、投票権はありませんでしたよ」


大人を泣かせるような子供のど正論。


「馬鹿な人の方が数が多いんですから、馬鹿に都合のいい政治にならないか。のんちゃんは心配です」

「の、の、のんちゃんみたいな。子供もできれば、い、い、いいんじゃないかな?」

「馬鹿だと生きることは不利だというのを、早期に伝えることで人々のレベルアップに繫がると思います。競争社会をより明確にするべきです」

「私、馬鹿扱い!?うぇーーーん、年上なのに……酷い!」


ショックを受けて塞ぎこむミムラであった。



『どーか!清き一票をお願いしまーす!私、古葉への一票をお願いしまーす!』



そんな声をまた拾った者達。


「おっ、選挙かー。俺達にも投票権ができたんだよな?」

「18歳からだからまだねぇーよ、相場」


男子高校生4人組。


「四葉。あーいうアピールって上手く行くと思うか?」

「時代遅れかもしれないけれど、自己をアピールするにはとても良い方法だと思うよ」

「五月蝿いだけだろ」

「相場より五月蝿くねぇーよ。馬鹿でもねぇーし」


どっかで遊びに行っている時。喋っているときに、あんなデカイ声が来たら会話もロクにできない。アピールにはなると思うが、どこか嫌悪感も出てくる。

かといって、自分の名を伝える。どうであれ、人の頭の中に入る事は無意識的なものにひっかかる可能性がある。また


「具体的だとか現実的な事を発する事なく、自分を持ち上げるには。名前を叫んだり、できますできますと、その場で証明もできないことを、証明した感じには持っていける。とりあえず、やらせてくれというのなら。やっぱりあーいうやり方が良いんじゃないか?当選すれば後の祭りにできるものだし」

「ふーーん。ま、確かに何をやりたいか、俺もよく分かんねぇーんだよな?なんか成りたいだけ?みたいな声しか聴こえてこない」

「学校で言えば席替えのゴネみたいなもんだろ」

「この前、最前列が嫌だからってゴネてたよな?舟。候補者になってみたらどうだ?」


まだ投票権を持たない高校生達であるが、政治に対する考え方の多くは甘いというか、無関心のそれに近い。関わりたくないみたいな、マイナスなイメージを受け取っていた。

五月蝿いのが特に気に入らない。自転車で帰る途中、邪魔になったりするし。



『どーか!清き一票をお願いしまーす!私、古葉への一票をお願いしまーす!』



「選挙かー。休みだから行くか」

「というか行かないと怒られるだろ、上司に」

「組織票ってのはどこにでもあるからな」

「俺はそんな命令に従ったり、声を挙げたりするより。仕事を手伝ってくれたらのギブ&テイクで票を入れに行くんだがな」


社会人となれば、上司からこの候補者に一票を入れて欲しいと頼まれることも珍しくない。会社にとって有益であるから応援する。正しいことだ。


「買い物のついでにいくかー。たかだか一票だけど。されどの一票だ」


とはいえ、その一票の大半は”ついで”だの”応援”だのでの一票。自分自身が考えている一票とは程遠く、それは候補者達も似たようなものだと、迷惑ながら思い込む。

自分のためにやっているわけではなく、そーいう権利があるから使ってみるかの精神。そこに考えがあるとは言えず、考えが生かされるものでもないと答えは出てくるもの。



『どーか!清き一票をお願いしまーす!私、古葉への一票をお願いしまーす!』


最後に、こんな理由で投票会場に行く者のお話。


「なー、三矢。お前、選挙行くよな?俺も行って良いよな?」

「松代さん。そんなに興味が持てるんすか?」

「いやねぇーよ。あるわけねぇーじゃん」


最近の奴は……そーいう意味では心配だし。どこかポジティブなところもあるだろう。


「じゃあ、なんで行くんだ?」

「それ言っちゃいけない言葉だろーがよ」

「言われるとムカつくな。……あ、大方。合法的に小学校に入れるから、その隙に体操着とかリコーダーとか狙う魂胆じゃないだろうな?犯罪者に近いあんたに投票権があろうと、犯罪行為は許さん」

「バーカ、そんなことするわけないだろ!女子更衣室に監視カメラ付けに行くだけだっつーの!」

「余計やべぇーよ!お前は選挙に行くな!仕事は山ほどあるぞ!!」



候補者達、その応援者達が頑張っているというのに……。有権者達の大半は、こーも。なんとなくの一票が多くて困ったものだ。




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