8話 異世界からの訪問者その2
我ながらなかなかに情けない勇者にしてしまったな、とは思いますが今後のギャグのために必要なのでためらいはしません(キリッ)
ユウヤとミリアルドは同時に足を踏み込んで拳を振り抜いた。間合いの真ん中でぶつかった2つの拳が鈍い音を立てながら軋む。
「ほう、骨はあるわけか」
「こっちのセリフだ! 」
ユウヤが膝蹴りを打とうとするが、ミリアルドはユウヤに体当たりしてこれを封じる。
「ちっ! 」
「噴ッ!」
続け様にミリアルドが細かい拳打を浴びせるが、ユウヤはそれら全てを回避した。
「なぜこれほどまで綺麗に避けられる? 先程までとは別人のようだ…… 」
「驚いたか? これこそ神から与えられた加護の力! 所詮貴様などでは俺に一緒攻撃を当てれんわ!! 」
ミリアルドはまたしても納得させられた。人型の構造をしている生き物では回避できないような角度からのフックも、死角から繰り出す蹴りですら回避するユウヤの動きは全て『神が与えた予知能力』であると結論付けられたからだ。
(なるほど、確かにこの鎧を着たままでは全て読まれているというわけか…… )
ミリアルドは少しの思案を挟み、ユウヤに対して「待った」を宣言した。
「降伏する気になったかミリアルド? 」
「馬鹿を言え。ハンデをくれてやるだけだ」
ミリアルドが指をパチンと鳴らすと彼の身体を包んでいた鎧が虚空へとかき消え、燕尾服を纏った身軽な姿が顕となる。
「これで防御力の差は必然…… いいハンデになるだろう? 」
「余裕をアピールするってか? つまらない…… 一撃で終わらせてやるよ!! 」
意気込んだユウヤが芝生を土ごとめくり上げながら突進をかける。そして勢いを乗せた拳を繰り出すもその拳はミリアルドの眼前でピタリと止まり、拳圧で軽いつむじ風を生み出した。
「なっ!? 」
「一度捕まえてしまえば避けようにも動けないからな……さぁ、しっかりと踏ん張るがよい」
ミリアルドの黒い目が一転して赤くなる。低い唸りと高い風切り音を伴って放たれたミリアルドのアッパーはユウヤの鎧に命中し、それを粉々に吹き飛ばした。
短いうめき声を上げてユウヤが地面に崩れ落ちる。ミリアルドは赤い目のままユウヤを見下ろして口を開いた。
「よくこれで勇者を名乗ったものだ。まだ私は全力の一割も出していないというのに…… 」
ユウヤの目の色が変わった。そして何かを覚悟したかのように口をへの字に結ぶと即座に立ち上がり、殴られた辺りをさすりながら後退した。
「ならばせめて本気を出させてから死なせてもらう! 」
そう言うとユウヤは魔法の詠唱を開始する。使う魔法は基本的な炎の攻撃魔法『焔の矢』のようだ。
「いけっ!! 」
ユウヤの手を離れた火球がミリアルドを直撃する。しかしミリアルドはピクリとも動くことなく、また服は少しも燃えていなかった。
「全く、本当に学習能力がないと言うか…… 」
異世界からの訪問者なのにこんな体たらくで構わないのだろうか? ミリアルドは思案を挟みながらも即座に対魔法障壁を展開しながらユウヤの魔法を全て弾き返していく。
「ま、まだだ!まだ…… 」
既にミリアルドは怒りを腹に溜めていたのだが、相手のあまりの物分かりの悪さにここで堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減気付かんか! 貴様では勝てぬ!! 」
ミリアルドが一喝する。元々理屈が通らない事が嫌いな性分なゆえにその怒号は一際大きかった。
「ここまで戦って身をもって感じられないか? 」
「い、いや…… 」
「ならさっさと引き上げろ! 貴様はそれでも最高戦士長なのだろうが!! まともな指揮能力がないなら前線ででしゃばるな!!!! 」
地面を割るかのような怒号を受け、ユウヤは飛ぶようにその場を去っていった。ミリアルドは長めのため息をつき、敵軍に語りかけた。
「我は疲れた…… 追撃はせんと約束するゆえさっさと立ち去れ。今去らねば皆殺しにするぞ? 」
その言葉を最後にミリアルドに敵意を見せる相手はいなくなり、敵軍は各兵が出せる最高の速度でミリアルドの前から走り去っていった。