7話 異世界からの訪問者 その1
うーむ、文章書くって難しいなぁ……
敵軍から一気に戦意が消滅した。ある兵は右往左往しながら我先に陣地を向いて走りだし、また別の兵は両手を組んで天に祈り始めた。
「もう一度告げる。これはまだ警告の段階でしかない! 兵をまとめて引き上げよ! 我らは追撃の意思はない!! 」
ミリアルドが追い討ちの警告を叫ぶ。敵兵は揃って武器を捨て始めたが、なにやら敵陣の方からこの混沌を突き破って駆けてくる影があった。
「……あれは何だ? 」
ミリアルドが目を凝らすと、それは栗毛の馬に乗った一人の騎士であることが分かった。それは自分を狙った突進であることも瞬時に理解し、地面に突き刺した剣を引き抜いて応戦する。
「せいやァ!! 」
「ヌンッ!! 」
乾いた秋晴れの空に金属のぶつかり合う音が木霊する。お互いに相手の剣を弾き、引き下がる。騎士は馬から降りて剣を振り上げ、大声を上げた。
「俺の名はカネシロ=ユウヤ! セントガーデン王国最高戦士長である!! 俺は今この場でミリアルド=レイヴァ魔導王に一騎討ちを申し込む!!! 」
その声を聞いた敵兵は何故か一様に手を叩き、騎士の名前を叫びながら舞い上がる。一方のミリアルドはその光景に薄気味悪さを感じながらも、別の点に引っかかっていた。
(カネシロ? ユウヤ? そんな名前の付け方の国がこの世界に存在したか?…… )
ミリアルドの考え事などつゆ知らず、カネシロ=ユウヤと名乗る騎士はミリアルドに剣を突きつける。
「さぁ構えろミリアルド! 貴様の悪事を俺がここで正そう!! 」
「はぁ、ここまで阿呆だと逆に相手が疲れる」
ミリアルドも渋々剣を担ぎ上げて臨戦態勢に入る。しかしユウヤの口上は止まらない。
「この剣は聖剣グランキャリバー! 貴様の悪を切り払う物だ!! 」
淡く赤い刃とその名前を聞いて、ミリアルドはあることを思い出す。
(あぁ、神が異界の住民をここへ引きずり込んだのか。しかし古文書にしか記述がないグランキャリバーの実物を拝めるとは…… )
この時点でミリアルドは勝負よりも彼への興味の方が思考の競り合いに勝ち、頭の中を占拠していた。故にユウヤが喋る言葉に一切耳を傾けず、ひたすら物思いにふけった。
「……さぁ、今ここで貴様の命運は尽きる! いざ尋常に勝負!! 」
ユウヤが先に攻撃を仕掛ける。考え事のせいでワンテンポ動きが遅れたミリアルドは仕方なく最初の一撃を右手の大剣で受け止めた。
(うん? えらく軽い一撃だな…… )
間髪を入れずにユウヤの剣戟は火を吹き続けた。胴薙ぎ、正面打ち、袈裟斬り、ありとあらゆる斬撃が乱れ飛ぶ。しかしミリアルドもこれを寸分違わず大剣を片手で振り回しながら受け止めた。
「これでどうだ!! 」
再度大きく剣を振り上げるユウヤ。ミリアルドは即座に間合いを潰しながら突進し、ユウヤの胴に蹴りを入れる。
ユウヤは痛みに唸りながら後退する。ミリアルドは彼が立ち上がるのを待ちながら剣をゆっくりと振り上げた。
「次はこちらの番だな───」
10ランドはあった間合いを一歩で埋め、ミリアルドが剣を振り下ろす。ユウヤはこれを両手で受け止めるが、あまりの威力に競り負け、芝の上を毬のように跳ねながら吹き飛ばされる。
「なるほど、このグランキャリバーという剣はオルハリコン製なのか。まさかわたしのイビルファングとかち合って折れないとは…… 」
「あ、あぁ…… オルハリコンに込められた魔力によってこの剣が折れることはない! 」
ユウヤが再びまっすぐに突っ込んでいく。ミリアルドは何かを悟ったのか無造作に大剣を振り抜いた。
「へ? 」
「ガキン」という鈍い音を立ててグランキャリバーの刃が砕けた。ミリアルドは大剣の柄でユウヤの兜を叩き、距離を取った。
「オルハリコンは確かに強度はあるが、アダマンタイトと違って脆い。故に剣には向いていないのだ。対して私が持つこのイビルファングはアダマンタイト製、武器としての強度はこちらの方が上だ」
ユウヤが呆然と剣の残骸を拾い上げる。ミリアルドは全く表情を変えずに続けた。
「そもそもオルハリコンに魔力を込めるには相当な量が必要だ。神々の金属の知識の乏しさを呪うんだな」
しかしユウヤの心は折れていないらしく、剣を捨てて拳を握りしめた。
「まだ終わってないぞミリアルド! 」
この瞬間、ミリアルドは今目の前にいる戦士が自分がもっとも嫌いとする『脳みそまで筋肉たっぷり』な人種であることを理解した。そしてそういうタイプに効率よく現実を教える方法を思い出した。
「はぁ〜、実に実に面倒だ」
ミリアルドも渋々拳を握り、ユウヤに「現実を教えるため」構えた。