5話 嫌々出陣
書けば書くほど先行きに不安が……えぇい、ままよ!ギャグを山盛り積んでやれい!
朝日が昇っていないうちから、レイヴァ魔導王国軍の本陣は既に活気が満ち溢れていた。ミリアルド国王が自ら敵に鉄槌を下すと宣言したのだから士気の上がり方は尋常ではない。
「聞いたか? ミリアルド陛下がとうとうヒューマンたちを滅ぼす気になったらしいぜ? 」
「なにせ陛下の先祖は神すら殺したらしいからな。本当にミリアルド様ならやってしまわれかねんよ」
まだ出陣前の訓示すら終わってないのに、兵卒たちはこの盛り上がりようである。その声は司令部テントまで届いていた。
「……陛下の人気は相変わらずですな」
「褒めるなオズワルド。ただでさえ二日酔いで頭が痛いのにこれでは意識が飛びかねん」
一方、軍大学在籍時代の昔話に華を咲かせ酒を飲みすぎたミリアルドは二日酔いで重くなった頭と体を引きずりながら鎧を着てテント奥の上座に待機していた。
「しかし若、この人気の高さはありがたいことではありませんか」
「余はこの馬鹿みたいに重いだけの鎧が嫌なのだ。兜が重すぎる」
「ま、まぁ既に三式戦闘服がすでに配備されてますからねぇ。それに陛下、我々しかいない場所では無理に『余』を使わなくても…… 」
テントの中にいる大半の者が牛革に鉄板を仕込んで作り上げた戦闘服を着用しているのに対し、ミリアルドだけが時代錯誤はなはだしい黒いフルプレート鎧を着ているのだ。確かに浮いていると言える。
「しかし陛下、その鎧はいつの時代の物です? 見たところ黒アダマンタイトのようですが」
「初代国王を讃えた竜人族の鍛冶職人が作ったそうだ。なにせ七晩通して鍛え上げた品らしくかなり硬い」
「しかも若の余剰魔力を使って防御力が上がる法陣が彫り込まれているから並の攻撃では傷付きませんわな」
ナハトが子供のように目を輝かせながらオズワルドに語る。ひとしきり会話が盛り上がったところで、ヘルメットと戦闘服に身を包んだ各部隊の隊長たちが続々とテントに現れ、オズワルドに敬礼した。
「魔装砲大隊、砲の準備完了しました」
「工兵大隊も整いました」
「歩兵連隊全15大隊、全隊整列完了しました」
「近衛騎兵隊、整列完了しました」
オズワルドが隊長たちに「了解した」と敬礼を返し、ミリアルドに正対する。
「陛下、訓示のお時間です」
「うむ、参ろうか」
各隊長はその言葉を受けて脱兎のごとくテントから飛び出した。ミリアルドも椅子から立ち上がり、ナハトたちとテントを離れた。
「ナハト」
「なんでしょう? 」
「頭が痛い」
「若、吐くのは訓示の後で頼みます」
─────────────────────
グラウンド中央に設置された演壇に上がったミリアルドを全兵士が見上げる。ミリアルドが登壇したことを確認して、台の横に控えていたオズワルドが号令をかける。
「国王陛下より訓示!!! 」
兵士たちが『気をつけ』の姿勢をとる。ミリアルドは兵士たちに『休め』の合図を送り、終結した兵士たちを見下ろす形で話し始めた。
「諸君、いよいよこの時がやって来た。我々の威を示すために余が直接出向かせてもらおう」
兵士たちが拳を振り上げて歓声を上げる。しばらくしてミリアルドが手を挙げると全員が一斉に『休め』の姿勢に戻る。
「では諸君には私の勇姿を見てもらう役目を果たしてもらう。最後の瞬間まで気を抜かずに任を果たしてれたまえ。以上」
オズワルドの『敬礼』の号令とともに総員が敬礼を捧げた。ミリアルドとこれに手を挙げて返し、兵士たちは持ち場へと散っていった。
「やれやれ、士気が高すぎるのも困りものだ」
ミリアルドが演壇を降りると、既に近衛騎士隊が列を組んで待機していた。
「陛下、本日は宜しくお願い致します」
「宜しく」
騎士隊はミリアルドと同じ全身鎧を装着し、槍を右手に携えている。ただその槍は魔法によってドリルのように回転する仕組みが組み込まれおり、攻撃力は普通の槍の比ではない。
「さて、私の馬車はどこかね? 」
「既に本陣の前に。我々は先に用意を整えておりますので、陛下はお好きな時にお越し下さい」
そう言うと騎士隊は一列になって基地の門の方へと行進を始める。彼らの背中が完全に見えなくなったことを確認して、ミリアルドは兜を脱いだ。
「ナハト! 」
「トイレはあちらに」
「すまん!! 」
ミリアルドは風より速くトイレへと駆け込んでいった。