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アイビー  作者: 青木りよこ
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感情

「毎日いっぱい作ってくれるね」


夫が食卓に並ぶ料理を見て言う。


「私が食べたいから」


そうだ、別に夫のために作っているのではない。

鯖の味噌煮が食べたいと思ったし、酢豚も食べたいと思った。

きんぴらごぼうに蓮根を入れたのも私が蓮根が好きだからで別に夫に食べさせたいと思ったわけじゃない。

そら豆のポテトサラダも私が好きだからだし、粕汁も私が好きだからだ。

全部私の好きなものばかりで、夫のために作った品など一品たりともない。

大体私は毎日そんなにすることなどないのだ。

アカデミーが用意してくれた家は二人で住むには広すぎて掃除が面倒だったが時間を潰すには最適だった。

お庭に夫が花を植えたので草むしりもしなくてはならないし、水やりもしなくてはならないが、そんなに時間は取られない。

洗濯だって二人分だからたかが知れている。


暇だ。

これはいけないと思う。

結婚してから身体を使って生きていないとつくづく思う。

身体より心ばかり忙しい。

感情で生きている。

だから考えてしまうのだ。

目の前にいない夫のことを。

せっかく夫と離れているのに考えてしまうとはつくづく忌々しい。

だから私はひたすらアイドル育成ゲームに打ち込む。

日本一のアイドルになるという目標にひたすら突き進む彼女達は美しい。

夫のせいか私は同世代の男の子にも二次元の男の子にも興味が持てなかった。

中学に入り配信が始まった女の子のアイドルを育成するゲームにはまり、その中でも幼馴染な二人のカップリングに見事にはまってしまって以来私が興味を持つのはいつも女性同士のカップリングだった。

これは絶対夫のせいだと思う。

あの男が私をこうしたんだ。

でも気づいてしまった。

カップリングの片割れ金髪碧眼の穏やかな皆のリーダー折原桜。

私は彼女に夫を見ていたんじゃないのか。

それに今唐突に気づいた。

こんなところまで彼は侵略していたのだ。

私を。

もはやこれは汚染だ。

私は自分が思っている以上に夫に全身を漬け込まれているのだ。

最早この世のどこにも夫を思わせないものなどない。

夫は私を何処までも狭くし辺境の地へ追いやるのだ。

私は再会前から夫の面影を二次元に見出していたのか。

喜々として懸命に働いたお金で潜在意識の夫に近い少女が恋愛する同人誌を買っていたのか。

居たたまれない。

私は桜の相手の繭に自己投影していたのだろうか。

ああ、嫌だ。

もうさくまゆ同人誌見れない。


「寒くなって来たね」

「貴方も寒いの?」

「寒いよ。普通に生きてるんだから」

「そう」


向かい合っているが私は決して夫を見ない。

苦手なものは苦手だ。

克服すべきとも思わない。

私は自分に甘いのだ。

無理なことはしない。

出来ないものはできないのだから。

だから愛さなくたっていい。

愛していてもいなくても生活は続き結婚は成り立つ。

そう、死が二人を分かつまで。













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