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アイビー  作者: 青木りよこ
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再会

私が高校生になりファミレスでバイトするようになったのは単純にお金が欲しかったからだ。

伯父さんがおこずかいをくれないからとかそういうことではなく、趣味にお金がかかるためだった。

私はアイドル育成ゲームにはまっていて、ゲームへの課金ももちろんあるが、グッズや同人誌が買いたかった。

私は部活にも入らないで毎日学校帰りにせっせとファミレスに通った。

土日も勿論働いた。

夫はある日お客さんとしてやって来た。

確か日曜日に一人で。


夫は私を見ても驚かなかった。

大きくなったねとも言わなかった。

あれから八年も経っているのに、病室で会ったのが昨日のような柔らかさで目に表情を付けた。


「俺のこと憶えてない、かな。八年前に君のご両親を・・・」


ご両親を助けられなかった小野雪葉だよとでも夫は言うつもりだったのだろうか。

私は言わせたくなかった。

もうこの男と記憶を共有するのはごめんだとこの時思った。

この男を、この気安さを拒絶しなければならないそう全身が言っていた。

だからすぐに言った。

憶えています、と。

夫は嬉しそうに私を見上げた。

私は視線を逸らした。

こんな顔見てなんかいられない。


夫は仕事は何時に終わるのかと聞いた。

私は正直に答えた。

夫はファミレスの前にある本屋で待っていると言った。

それからの三十分私はずっと落ち着かなかった。

本屋に行き夜ご飯を食べないかと言われたけど家で食べるからと断った。

結局どこにも寄らず伯父さんの家まで送ってくれた。

何も話さなかった。

ただ私の自転車を挟んで並んで歩いた。


次は平日に来た。

また特に何も話さず家まで送ってくれた。

その後もあまりにも頻繁に来るので特殊部隊って暇なんですかと聞いた。

出動ないと演習してるだけだからと言われた。

そして夏葉ちゃんはいつ休みなのと聞かれた。

何故ちゃん付けなのかと思った。

だからと言って名字で呼んでくださいとわざわざ言うのは過剰な気がしてやめておいた。

出来るだけ会話を繋げたくないと思った。

顔は相変わらず見なかったけど、隣の男は例え世界の果てにいても私に呼びかけることができるように思えた。

そうしているうちに季節は変わっていき、時間だけは過ぎていき、私は高校二年生になった。

彼は相変わらず私のバイト先に頻繁に現れた。

私達は連絡先を交換していたが、彼からかけてくることもなければ、私からすることもなかった。

バイトのシフトを毎月彼には見せていたが、休みが重なっても外で会ったりはしなかった。

彼が何をしに来ているのかまるでわからなかったが、聞こうとも思わなかった。

私は彼のことを何も知らなかった。

夫になった今でも知らない。

でも、それでいい。

何も知りたくない。

目の前にいる夫さえ持て余しているのに、これ以上はもう無理だ。

手の届く範囲すら私には荷が重い。

夫は私の全てを知っていると言うのに。

違う。

知ってるのではない。

把握だ。

彼は私の全てを手中に収めているのだ。

それは指の隙間から零れ落ちたりしない。

彼に掴めないものなど何もない。

彼が手に入れたものの中で私が一番小さいだろう。

違う。

彼はすでに持っていた。

だから手に入れたなんて言うのは可笑しいのだ。














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