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アイビー  作者: 青木りよこ
2/19

十一年前

夫と出逢ったのは十一年前、私が八歳の時だった。

私は当時横浜に住んでいて、あの日はゾンビ発生警報がついに横浜にも出て両親と三人で避難所に向かっていた。

最初何が起きたのかわからなかった。

けたたましい爆音の後、気が付いたら車から引きずり出されていて、お父さんが倒れていて、お母さんが私に覆いかぶさっていた。

意識を失う前に見たこともない美しい金色の髪を見た。

未だにあの色を超える閃光が私にはない。

それが本当に自分の見た景色なのか時々わからなくなるほど。


目が覚めると病院だった。

父も母もどこにもいなかった。

看護師さんに連れられ夫が病室に入って来た。

私は頭に包帯を巻かれていた。

頬にはガーゼ。

右手は包帯でぐるぐる巻きだった。

夫は当たり前のように無傷だった。

白い頬が目に痛いくらいだった。

看護師さんはこの人が助けてくれたのよと言った。

私は夫を見た。

夫の顔をしっかりと見たのは恐らくこの時が最初で最後だ。

夫は私に大丈夫?と聞いた。

私は大丈夫ですと言った。

私と夫は十歳違いだから当時の夫は今の私と同じ年、夫は一月二十一日生まれの早生まれだから十八歳だった。

看護師さんが出て行くと夫は椅子に座り私の目を見て言った。


「俺がもう少し早く来ていたら君のご両親を助けられた。本当に済まない」


夫は子供の私に頭を下げた。

私は、夫が言うまでそんなこと気づきもしなかった。

気づかせた目の前の男に怒りが湧いた。

そんなこと言わないでくれたら良かった。

そうしたら自分だけ助かったと思わずに済んだのに。


退院すると綾瀬の伯父さんの家に引き取られ養女になった。

伯父さんには娘さんが二人いたがわけ隔てなく大事にして貰えた。

私は一人っ子だったから年上の従妹たちは姉が出来たようで嬉しく、父と母のことを忘れたことはなかったが時は穏やかに過ぎていった。

それから二年ほどたち、男のことを忘れて暮らしていたがある日偶然にも見てしまった。

テレビで。

ゾンビ討伐特殊部隊のイケメン隊員としてテレビに出てきたのだ。

一度しか会ったことはなかったが、すぐにわかった。

小野雪葉という名であることもその時知った。

病室で名乗ったのかもしれないが忘れていた。

男は相変わらず美しく、彼がこの世において特殊部隊にいようがいまいが特別な人間であると言うことを嫌でも子供の自分に痛感させた。

それから彼は従姉が買ってくるような若い女性向けの雑誌に頻繁に登場した。

私は何度も彼のインタビュー記事をそれこそ一字一句覚え込むまで何度でも読んだ。

そうしなければいけないと思った。

私には彼を知る権利があるし、義務があると思った。

子供だったからだと今では恥ずかしくってたまらないが、彼を追いかけることが無残に亡くなった父と母のためなのだと勝手に思っていた。

彼がゾンビを倒す動画は何度見たかわからない。

彼の動きは華麗で流麗で明朗で正確で的確で何でもないことに見えた。

そのたびにどうしてもう少しだけ早く来てくれなかったのだと思い、あの時病室で詰ってやれば良かったと思った。

もう二度と会うことなどないのだから。

彼を他人が称賛すれば、でも私の両親は助けてくれなかった無能だと言ってやりたくなった。

そうしている間に私は高校生になり夫は再び私の前に現れた。













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