月下の想い
僕の背後に立っていた春風さんはどこかイタズラが成功した様な笑顔で僕を見ていた。
いつもの大人びた感じは鳴りを潜め、年相応な笑顔。自分の体温が上がるのを感じながら視線を逸らし、指先で頬を掻く。
「えっと、何で春風さんが此処に?」
自分の事を棚に上げながら疑問を口にする。そんな僕に春風さんは咎める様な、でも本気では怒っていないと分かる顔で言った。
「私は学級委員長だもの。クラスの誰かさんが部屋を出ているのを見たら安全を確認する必要性があるでしょう?それに、私の台詞でも在るのよ?」
ごもっともで…。
僕は降参の意思を示す為に両手を上げる。
「それで?誰かさんは此処にどうして来たのかしら?」
いつもの様な大人びた感じに戻った春風さんは言及してくる。この人に優しく聞かれて反発出来る人はうちのクラスには殆どいない。
だから僕は隠さずに言った。
「これからどうしようかなと思ってね。ほら、僕って無能だから肉壁にすらならないかもしれない。」
言ってて虚しくなった。やると決めたらやり通すがポリシーでもある僕にとってこの無能のスキルは本当に辛い。今までの成果すら奪われているのだから…。
「そう?じゃあ私と付き合わない?」
こてんと首を傾けて、人差し指を自身の唇に当てた春風さんはどこか可愛らしく、大人びていた。
「………何処に?」
その仕草を何故いましたのか分からずに同じ様に首を傾げる。
ピキリと、音が鳴った気がした。
「ふ、ふふ、そうよね。貴方はもっと分かりやすく言わないとダメよね?何回アプローチしたことか忘れた訳じゃないもの…。今のは私のミス。」
一瞬固まった春風さんはすぐ様振り返りぶつぶつと呟いている。いつもの落ち着きは何処かに行った様だ。
「コホン、改めて……斗真くん………………。あぅ。」
振り返った彼女は何時もの雰囲気に戻り咳払いをすると言い澱み、何故か真っ赤になって止まった。
「えっと春風さん?」
「ひゃあ⁈ちょ、ちょっと待って頂戴!今深呼吸をするから。スー、ハー。」
声を掛けると慌て出す春風さん。どうしよう、凄く可愛い。
「スー、ハー。……よし。」
漸く落ち着いた春風さんはじっと僕を見る。
「斗真くん。私と交際……いいえ、結婚を前提に私と交際してくれないかしら?」