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後編

警察まで夜道を行く。片田舎だから山や野原に囲まれたアスファルトがあるだけの道だ。

だけど、ああ……怪異が見たこともない数いる。20か、30か。


「イヒヒ……色子ダ。オイシソウダナア」

「今までヤラレタンダ。今度ハコッチガ狩ッテヤル!」

「奉りダ!奉りの夜ダ!平坂様ニ栄光アレ!」


町の方や遠くにはもっといる。100か、1000か。星のように怪異の嫌な色がまたたいている。

覚悟を決めろ。逃げてきたんだ。そして皆を助けるんだ。もうこれ以上逃げることはできない。


「青空、歩ける?」

「なんとか歩けるさー」

「じゃあ、僕が怪異を倒す。ついてきて!」


最短で走り抜ける!立ちふさがる怪異は倒す!

心を振るわせ、僕自身の灰色を広げる。


「ギャアッ!」

「ハイイロ、ハイイロハマズイ……!」


灰色は不変の色。何を混ぜても同じ灰色に戻る色。だから、この灰色は怪異の色を塗りつぶして元の自然現象やモノに戻してしまう。

色の否定ともいえる色だ。生命の否定、死の否定。だからただのモノになってしまえ。


「ダガ、マダマダ我らはイルゾ!」

「ソウダ!平坂様の改造ヲウケテ、我らハ強クナッタ!」


たしかにまずい。怪異は普通形をとるのでやっとだ。何かにとりついてようやく人を襲う程度に強くなる。

抜群に強いレア個体で色が形を成した鬼になる。

だけど、あれは……鬼が何体も、とりついてるのが元より戦闘用のロボットや戦車みたいな奴が沢山だ。

戦闘用ロボットって本当にいたんだ……と思いながら僕は心を灰色に染め上げる。


「それでも、僕は戦う。それしかない」


心を灰色にさせて、恐怖も苦痛も忘れる。世界一鈍感な男になる。そして戦う。戦って生き延びる!



わずか100mが大陸横断よりもきつかった。

僕の灰色は他の色の影響を受けない、元に戻す、という相手が色を使う前提の色だ。

戦闘用ロボットみたいな物理攻撃主体のは死の黒で殺していくしかない。

しかしそれも当たればの事。物理攻撃に強いテツやヒマワリが抜けたのが本当に痛い。つらい。


「体も鍛えておけばよかったなあ……」


ぼくは息を切らして足が止まってしまう。

疲労も灰色で鈍化させてるはずなんだけどな……もうMPである生命力そのものが減っているのか。

こんだけの連戦を一人でやるなんてはじめてだもの。


「タケちゃん……」

「青空?」


青空がくいくいと袖をひっぱった。顔をあげた表情はまだまともに見えた。


「夜空モードをやるさー。黒をちょうだい。指出して」


青空は名前の通り青を使える。だけど空のようにその青は黒にも白にも寄る。僕と同じ灰色に近い。

だけど、沈静の青に死の黒を混ぜたらどうなるか。効果は眠りを引き起こす。

ぼくの灰を黒に近づけ、その黒を摂取することで青空は敵を眠らせる夜空モードとなる。


「……わかった」


自分の中の死への憧憬を集め、黒い雫にする。

指先から伝うそれを青空が口を開いて受ける。オイルのような黒を舐める青空の姿は僕の性癖にそれは多大な影響をおよぼしたものだ。


「みんな、夜は眠るさー」


青空の色は空のように広く広がる。ロボットみたいなやつらが皆、気を失ったように眠る。


「いこう青空。警察まで行けば、少なくとも銃はあるはずだから」

「……タケちゃん、その銃でどうするつもりさー」

「平坂を撃ってでも止める。大丈夫、日本の銃は小さいから死ににくいって聞いた」

「……」


僕等はそれ以上何も言えなくってただ警察署に急いだ。



警察署はピンクに染められていた。ピンク色のマネキンがミニスカポリスの格好でうろついている。

その胸はゴムボールを入れたかのようにはち切れそうだ。

全裸に警官帽の猿がおっ、おっと低い声を出しながら白いモノをびゅるびゅる出している。


「やあ、遅かったではないか。もう少しがんばってくれると思ったが……」


四つん這いになった警官だったものに腰掛けて、銃を手に弄びながら笑った。

僕等は腰から崩れ落ちそうになった。もう駄目だ。全ておしまいだ……


「戦意喪失かね?そうだな、もう少しやる気を出してもらうために君たちの処遇を言っておこうか。

君たちはさまざまな薬を打たれ、永劫苦しみながら色と怪異を生み出す苗床となってもらう。

協力的であれば麻薬の類いを打ってこのような色を出して快楽に浸っているだけで良い。破格の条件だろう?」


悪意を持ってフハハハと笑う平坂。そうだ、このまま倒れてちゃいけない。死んでもこいつは倒さなきゃいけない!

全てを黒に染めて、弾丸として撃ち放つ。


「させるか!そんなこと!」

「ふむ、黒の弾丸か。効率的だ。だがこの程度で我々を倒せると思うのであれば甘い」


なんてことだろう。平坂は手からおぞましい灰色。まさに全ての醜い色が混ざり合った末のどどめ色を発して僕の黒の弾丸を消し去ってしまった。

そしてゆっくりと余裕の笑みで警官の銃を使った。破裂音がして僕の足に穴が空いた。


「青空……逃げて」

「……立ち向かうさー、絶対、絶対、こんな色に街を染めさせないさ!」


青空は立ち上がった。鎮静の青と僕の灰色を吸って精一杯心を落ち着かせて、それでも震えながら立ち上がった。


「ほう、私の素の色を見ただけで震えていた小娘が何ができるのかね。ぜひ見せてくれ。眠らせるだけかね?」


青空は首から提げたお守りに手を当て、祝詞を唱える。


『振るべ、ゆらゆらと振るべ。ひふみよ、いむなや、ここの、たりて。

神の息吹は我が息吹なり。御息をもって吹けば穢れは在らじ。ふきすさべ……』


それは禁忌のお守り。色災でどうしようもなくなったとき、すべての色を吹き飛ばすための命を引き替えにした最終手段。


「おっとさせんよ。その手の技は出が遅い。敵を前にして詠唱かね?あいにくと、世界はそんなお行儀の良い物ばかりではない」


銃声。青空の足も撃たれた。自分も撃たれているから解る。急所だけは外されていると。

終わりだろうか。これで、終わりなんだろうか。

黒い、何もかもが……炎で燃えているかのように赤く、黒い……


「よう、小僧共。遅れたな、悪い」


それは黒かった。黒いテンガロンハットに黒いロングコート。手には金槌。

炎のような憎悪と闘争の赤。そして濃密な殺意と死の黒。死と炎を背負った怪人。

ああ、彼が狩人。青空が見た余所者。


「遅かったではないかね?それにしても不動明王の呪をここまで広げるとは、なかなか粋な演出をしてくれたものだ」


そこら中から、それこそ僕等の倒れている地面からも赤く黒い炎が立ち上っている。

でもそれは「色」に近い。物質じゃなくエネルギーだ。

赤黒の炎からは限りない憎悪とそれによってわき上がる立ち向かうための闘志がわいてくる。


「やかましいわ!お前がばらまいてたバケモンとお前の部下をぶち殺して、挙げ句おめえが浚った人らを保護してたらこの時間になるんだよ!

言っとくけどおめえの家にもガサ入れしてるかんな!もう退路はどこにもねえ。ここでおめえをぶち殺す」


金槌にも赤々と炎がともっている。それは空気すら浸食して物理的な熱を持っているのが解る。


「彼らを救う?色が存在するならば色を見るための技術なり道具なりが開発されてるとも思わない。

そして、そんなものが存在するならばどうして自らの色をごまかす技術がないと思えるのか。

だから彼らは度しがたい。自らの優位性にあぐらをかいて足下を見ない。故にこうして狩られるのだよ。自然の道理だろう?それを、救うと?」


長口舌の間も彼らは息を切らさず銃を撃ち合い、金槌を振り回し、それを避ける。


「オウ、俺も別に能力者がどうなろうと知らねえよ。だけどお前らは嫌いだから殺す。

そんないいもん作ってるのに表に出せねえのはおめえらがアホやらかしまくるからだろうが。自業自得だ。

お行儀良くしろボケが!せめて刃傷沙汰はつつしめよ技術者だろ。技術に申し訳ないと思わないの?謝罪しろよ自分の技術に謝れ!」


黒い狩人の金槌が白い研究者の手に触れてひじまで燃やして炭化させる。

研究者は眉一つ動かさずに残った片手で銃を狩人の腹に押し当てて2発撃った。

二人はそのまま離れあってゲラゲラ笑う。


「すばらしい威力だ!それでこそ私が憎み、私が倒す狩人というもの。戦いとはこうでなくてはいかん」

「おめーは研究者なり技術者だろうがよ!戦いに喜びを見いだすのは俺たち狩人の仕事だろうが!そういう半端な所ほんと嫌い」


それぞれ注射を自分の首筋に押し当てたり、何かの栄養ドリンクみたいなものを飲んだりしている。

それだけで銃で撃たれた跡や炭化した腕が治っていく。おぞましい光景だ。


「科学の力、見るが良い!」

「科学をそんなもんに使うなよ科学者の恥さらしがよ!狩りの時間だボケナス!」


科学者が治った手でポケットからスマートフォンがくっついた銃と機械のついたナイフを取り出す。

狩人は腰から大型拳銃を抜いた。


「『死の光』よ!」


青い放射能みたいなおぞまし光が科学者の銃から放たれ、無数の光弾になって狩人に向かう。

狩人は前に猛然と突き進んで被弾しながら科学者の頭めがけて金槌を振り下ろした。

科学者が避ける。しかしニ撃目までは避けきれなかった。科学者の肩が燃え尽きる。銃が落ちる。


「すばらしい、狩人よ!だがまだ負けん!我らを誰も捕らえられんのだ!」

「やかましいわ!『三昧真火』借り受けるとの大誓願なり!アビラウンケン!」


狩人の金槌に炎、科学者のナイフに死の光が集まる。

だけど、それ以上に二人の闘争と憎悪の赤、血の色が目に入る。


すべてが燃え落ちる中で怪しい二人組が死闘をしている。

血塗れで、笑いながら。そのおぞましい夜を見て、僕はなぜか彼らを美しいと思ったのだ。

よりによって、このろくでもない奴らのどちらが勝つかでこの町の存亡がかかっているのに。


それはこのおぞましい夜こそが、きっと彼らの一番輝く舞台だからだ。


ああ、そろそろ決着だ。この恐ろしい光景に目が離せない。


二人はすばやく近づきあい、ナイフと金槌が交錯した。

死の光と闘争の炎はせめぎ合い、やがて狩人の金槌が研究者の頭を割った。


「ハ、ハ、ハ、ハ……何も変わらない、そういうことかね……」

「変わらねえのはお前みたいな馬鹿がいるせいだろうがボケ。

だから俺たちが変える。お前らを駆逐する」


研究者は最後まで笑いながら死んだ。

ああ、狩人が近づいてくる。


「よう、遅くなって悪かったな。落ち着け、俺は味方だ」


僕はその言葉を聞いて、緊張の糸が切れてどっと倒れ伏した。


エピローグ部分はまたこんど

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