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57.レーザーソードは男の憧れ


 ―― ガキン! ガキン! ガギィン! ――

 ―― ジジッ…………ジジジッ…………ギィィィィィィィ…………! ――


 魔道具研究所の所長だという爺さんにいざなわれ、俺とリーリアは王立図書館の2階へと足を踏み入れた。

 長い廊下の左右にある無数の部屋からは何やら金属を叩く音や石を削るような音が聞こえてきて、なんだか町工場のようだ。きっと中も魔法の研究所というよりは工作室のような感じで、魔女が薬を作るときに使う大鍋があったり、魔法陣が床にたくさん描いてあるといった俺のイメージからはかけ離れているのかもしれない。


「さあ、ここがワシの部屋じゃ。ちょっと散らかっているが気にせんでくれ」


 廊下の一番奥にあったのは、ドアの上に『所長室』と書かれた10畳ほどの部屋だった。だが中にはあちこちに木箱や工具などが散乱していて、とてもじゃないが執務のための部屋という感じではない。

 入ってすぐの場所には元々来客用だったと思われるソファもあるのだが、資料らしき本や書類の束が山のように積んであるせいでもはや本来の用途を成していなかった。


「って、散らかってるなんてもんじゃねえだろこれ。ガラクタだらけじゃねえか」


「ガラクタとはなんじゃ! この中には世界のことわりをひっくり返しかねない大発明もあるんじゃぞ。まあ……大半は失敗作じゃがな」


「失敗作ならいつまでも置いとかないで処分しろよ……」


「何を言うか。これらは全て失敗を恐れずに挑戦した証、そして新たな発想の種であり卵じゃ」


「まあ、俺の世界にも『失敗は成功の母』って格言があるけどさ」


「そうじゃな……まずは失敗作が新たな発想に繋がったいい例を見せてやろうか」


 エリオット爺さんはそう言うと、部屋の壁際に置かれた木箱の1つを開けてゴソゴソとあさり始めた。そして中から真っ赤な石で作られた『く』の字型の棒や足首の部分に羽根のついたブーツ、さらに怪しげな鏡などが放り出されてたちまち床に散らばっていく。


「おいおい、これ以上散らかしてどうすんだよ。つーかなんだこりゃ? 形はブーメランっぽいけど……」


「ああ、それは死んだドラゴンの化石から舌の部分だけを削り出して作ったものでな、その名も『炎のブーメラン』じゃ。投げれば炎をき散らしながら、それこそドラゴンが火を噴くかのように飛んでゆく」


「いやいや、回転しながら飛んでいくものにそんな機能を付けんなよ。どう考えても危ねえだろ」


「うむ、草原などで使えばあっという間に辺り一面が火の海になるからのう。もちろん街中でも使えんし、かといって草木も生えん荒地で使ってもいまいち効果が薄い。つまりは使いどころが難しすぎてお蔵入りになったというわけよ」


「元が化石だけあって強度もそれほどないだろうし、硬い魔物なんかに直接当てたら割れそうだしなぁ。武器としては欠陥品ってわけか」


「そっちのブーツは風の精霊の力を借りて、履いた人間の体重を羽根のように軽くするというものじゃ」


「走るスピードやジャンプ力が上がったりするのか?」


「ワシもそれを期待して作ったのじゃがな、逆にフワフワしすぎて夢の中みたいに走りにくいと不評じゃった。おまけにちょっと強い風が吹いただけでタンポポの綿毛のように飛ばされてしまうので、それも危険ということでお蔵入りになったわい」


「そんなんばっかじゃねえか」


「いやいや、本当に見せたかったのはこれじゃよ」


「んん?」


 ニヤリと笑いながらこちらを向いたエリオット爺さんが俺に渡してきたものは、刀身のない剣の柄だった。


「なんなのこれ? 剣の柄だけじゃない」


 リーリアが俺の手の中にあるものを見て拍子抜けしたような声でつぶやく。口には出していないものの、俺自身も彼女と全く同じ感想だった。


「かつて兵士たちのために魔法の力をまとった武具を作れと国王陛下に命じられたことがあってな。結局は無理だという結論になったのじゃが、そこからさらに試行錯誤を加えて作ったのがそれよ」


「どうして無理だったんだ? さっきのブーメランみたいに精霊の力や魔力が宿った物質を使えば簡単そうに思えるけどな。あとはほら、無機物に仕込むと魔物化させられる魔石とかさ」


「そう、まさに君の言うとおりじゃよ。魔族やエルフと違って本来魔力を持たない人間が魔法の力を使おうと思ったら、精霊と契約してその力を借りるか、元々魔力の宿ったものを用いるしかない。だがこれまた君がさっき言ったとおり、そういった材質はえてしてもろいのじゃ。そんなものを剣の柄元や十字槍の中心にはめ込んでみたところで、敵の武器と数合打ち合えばすぐに壊れてしまう」


「そういうことか……。そういや前に剣で魔石を叩き割ったことがあるけど、あれも結構簡単に砕けたからな」


「無論、女神アウラが創りたもうたと言われる武器や魔女の杖にはまっておる宝玉のような例外もあるがのう。あれとて彼女たちがそれで敵を殴ったりはしないからこそ成り立つものにすぎん」


「なるほど、魔石なんかを武器に仕込んでも実戦での使用に耐えられないってのはよく分かったよ。で、こいつはそれとどう違うんだい?」


「知っておるかね? 動物であろうと植物であろうと、生物には生命エネルギーというものがある。これに関しては秘めている量に若干の個人差こそあれど、種族による優劣はない」


「なんかいきなり話の方向性が変わってきたような気がするけど……それって俺の世界でいう『気』とか『オーラ』ってやつかな?」


「ふむ、君の世界ではそう呼ぶのかね? ともあれ、そういったエネルギーは種族を問わず誰もが持っておるのじゃ。ただ普段は生命活動の維持にしか使われておらんので、可視化されることはないがのう」


「なあ爺さん、もしかしてこれって……」


「ふふ、察しがいいのう。そう、それは人間が持つ生命エネルギーそのものを刀身に変える剣なのじゃよ。そうじゃな……君の世界の言葉を借りて『練気剣オーラブレード』とでも名付けようか」


「おお、それ俺の世界にも似たようなのがあるよ。といっても実際に存在するわけじゃなくて、あくまで空想の産物だけどな」


「ならば是非使ってみたいのではないかね?」


「うんうん!」


 オーラで形作られる剣と聞いて、俺はすっかりテンションが上がってしまった。某宇宙戦争に出てくる光の剣といい昔の特撮ヒーローが持つレーザーソードといい、なんだかよく分からないエネルギーをまとって光る剣というのは、男の子にとって永遠の憧れなのだ。


「よし、ではそれを握って刀身の形や長さを思い浮かべるといい。それは使い手のイメージによって自在に姿を変える剣じゃからな」


「へえ、使い方はわりと簡単なんだな」


「トゲのついた棒や針のようにすることも可能じゃが、できるだけ薄い刃を思い浮かべることをお勧めする。そのほうが切れ味が増すし、普通の剣のように強度のことを考える必要はないからのう」


「よーし、それじゃあ……」


 両手で剣の柄を握り、爺さんに言われたとおり刀身を思い浮かべてみる。とりあえずイメージしたのはこの世界でも使われている真っ直ぐな剣だ。


 ―― ヴィシュン! ――


「おおっ!?」


 映画やアニメなんかで使われていた効果音とほぼ同じような音とともに、俺の手元から黄色い光が伸びて剣を形作った。なんだか手持ち式の花火のようだが、その火がそのまま俺のイメージした形に固定されているみたいだ。


「す、すっげぇ……本当にオーラの剣だよ」


 こんな中世風ファンタジーのような世界に来て、まさかSF界の代表みたいな武器にお目にかかるとは。まさしくTVの特撮ヒーローになったような気分で、俺はさっきから胸のワクワクが止まらなかった。


「どうかね感想は」


「最高だよ爺さん。いや、これからはあんたのことを敬意を込めて“博士ドク”と呼ばせてくれ」


「はっはっは! 気に入ってもらえたようで何よりじゃ。ものはついでじゃ、試しにこれでも斬ってみるかね?」


 賛辞を送られてすっかり機嫌を良くしたのか、博士ドクが机の上に散乱していた書類を払い落として代わりに何かを置く。それは、この国の軍で制式採用されている鉄兜だった。


「いいのかい?」


「ああ、元々武器の威力を試すために支給してもらったものじゃからな。遠慮なくスパっといってやれい」


「よし、そこまで言うなら斬ってやろうじゃないの。行くぜぇ……テーレーレーレーテーレーレーレ♪ テーレーレーレーテーレーレーレ♪」


「何よその変な歌?」


「馬鹿、これは俺の世界のヒーローがこの武器でフィニッシュ決めるときのBGMだよ。いいから黙って見てろ」


「トウマってば、まーた変なスイッチが入っちゃってる……」


「テー、テレッテテッテー♪ テー、テレッテテー……『ジャスティバン・デストロイ』!!」


 大昔の特撮ヒーローのフィニッシュシーンを再現し、必殺技の名前を叫びながらオーラの剣を斜め45度に振り下ろす。すると次の瞬間――


 ―― しゅいん! ――


 布切りバサミを閉じたときのような音がして、鉄兜の上半分がずるりと机の上に滑り落ちた。それどころか勢い余って机の角まで斬ってしまい、4本ある脚のうち左前の1本が本体から離れて床に転がる。


「な、なんだこの切れ味!? ド鋭いってレベルじゃねえぞ!」


「そりゃそうじゃろう、なんせオーラは光みたいなものじゃからな。それこそ剃刀カミソリよりも薄くて鋭い刃を形成することができる。しかも実体がないからなんの抵抗も感じることなく、滑るような感覚であらゆる物体を切断できるというわけじゃ」


「おいおい、これがあったら他の武器なんていらないんじゃねえの? いや、それどころか世界中の武器屋が店を閉めなきゃいけなくなるぞ。なんでこれが軍で制式採用されなかったんだよ」


「それが……その武器にも1つだけ問題があってのう」


「問題だって? 俺にはそんなものがあるようには見えないけど……って、あ……あれ?」


 爺さんに向かって興奮気味にまくしたてていると、急に視界がぐらりと傾いた。あごを打ち抜かれて脳が揺れたときのような感覚だが、それよりもなお意識が朦朧もうろうとしてくる。


「うわっ?」


 不意にバランスを崩したせいで、俺は大量の書類が散らばった床にばったりと倒れ込んでしまった。慌てて受身をとったので顔から突っ込んだりはしなかったが、肘を打ちつけたのでちょっと痛い。


「トウマ、どうしたの!?」


 リーリアが心配した様子で俺の前に飛んでくる。体を起こして大丈夫だと言おうとしたが、腕どころか全身に力が入らない。


「はぁっ……はぁ…………な、なんだ? 頭がふらついて……」


 力を振り絞ってなんとか床にいつくばったものの、まだ頭がふらふらする。これは熱があるときのような気だるさにも似ているが、一番近いのは長距離を無理なペースで走ってヘトヘトになったときの感覚だ。


「それがその剣の唯一の欠点なのじゃよ。そいつは人間の精気を吸い取るという樹の魔物の枝から削り出したものなんじゃが、刀身に変換するために吸い取るエネルギーの量が調節できなくてな、使用者が1分ともたずにブッ倒れてしまうのじゃ」


「唯一の欠点って、その1つが致命的すぎるだろうが!」


「大丈夫じゃ、ただ疲れておるだけなので少し休めば回復するわい。だがこういうわけで、結局それもお蔵入りになってしまった」


「あんたさっき失敗作から新たな発想が生まれたなんて言ってたけど、要は欠陥品から欠陥品が生まれただけじゃねえか。ったく、褒めて損したわ」


「待て待て、これだって一瞬だけ刃を出して敵を仕留めるような、例えば暗殺に使うのならなんの問題もなかろう? どんな道具も要は使いようなんじゃ」


「そりゃまあ……刀身のない柄だけなら、武器を持ってないかチェックされても見逃される可能性はあるけどさ」


「そうじゃろう。なあトウマくん、君の発想でこれらの道具の使い道を考えてやってくれんか? 絶対何かに使えるはずなんじゃ」


「うーん、そう言われてもなぁ。ってか爺さん、その口ぶりだとなんか焦ってるのかい? そもそもあんたみたいにいい歳した大人が、俺みたいなガキに意見を求めること自体不自然な気がするんだが」


「う、うむ……今年は君のおかげで研究費が増額されることになったとはいえ、この研究所は何年も目立った功績を上げられずにおってな。このままでは近いうちに閉鎖されてしまうかもしれんのじゃ」


「ええー、じゃあなおさら無理だわ。適当な感想や思いつきならいくらでも言えるけどさ、ここの命運がかかってるなんて重い話にはさすがに付き合いかねるぜ」


「そんな冷たいことを言わずに協力してもらえんか。ワシも歳のせいか、最近はなかなか柔軟な発想ができなくてのう」


「そうしてやりたい気持ちはあるけど、俺もそんな都合のいいアイデアはポンポン出てこないからなぁ。むしろ発想は悪くないんだから、無理に使い道を変えようとするより機能の欠点を改良することに力を入れたほうがいいんじゃねえの?」


「むう……やはりそれしかないのかのう……」


 この爺さんと研究所が置かれた状況には同情しなくもないが、実際これらの道具を上手く利用する方法などすぐには思いつかない。それに異世界人である俺の助言でこの世界の技術に妙なブレイクスルーが起きるのもあまり良いこととは思えないので、やはりこういったことは彼が自分で考えるべきだろう。


「あー……力になれなくて悪いな爺さん。俺たちとりあえず今日のところは帰るから、女神アウラに関してはまた次の機会に話を聞かせてくれ」


 エリオット爺さんは渋い顔で肩を落とし、傍目はためにも分かるほど落ち込んでいる。そんな彼にこっちだけ有意義な情報を聞かせてもらうのも悪い気がしたので、俺はこのまま話を切り上げてガラクタだらけの部屋から出て行こうと思った。そのとき――


 ―― バァン! ――


「ひゃあぁっ!?」


 部屋のドアが勢いよく開いて、大きな木箱を抱えた何者かが飛び込んできた。部屋に入ってきたというよりは、荷物の重さを支えきれずに突っ込んできたという感じだ。事実そいつは自分が持ってきた箱を床に落とすと同時に、目の前にあったソファに向かって勢いよくダイブした。


 ―― どさっ! バサバサッ! ――


 ソファの上に積まれていた本と書類の山が崩れ、もの凄いほこりを立てながら周囲に散らばる。ああ、もうこの部屋を掃除するのは諦めたほうがいいなこりゃ。


「げほっ、げほっ……す、すいません師匠せんせぇ……」


 艶やか――というよりは油でコテコテになった象牙色の髪をばさばさと振り乱し、闖入者ちんにゅうしゃが立ち上がる。そうして舞い上がったほこりの中から出てきたのは、まん丸な眼鏡をかけた可愛い女の子だった。

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