16.武器と防具を買いに行こう(後編)
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そして次の日、俺たちは再びアリサさんの店を訪れた。先に雑貨屋で昨日買ったものと注文しておいた樽を引き取ってきたが、武器のほうはもう完成しているのだろうか?
「おう、来たか。昨日頼まれたものはちゃんとできているぞ」
「おお、さすがに早い。じゃあ、さっそく見せてもらいますね」
ウキウキ気分で店内に入ると、カウンターの上に俺が注文した2種類の武器と、それを腰に装着するためのホルスター付きベルトが置かれていた。
2種類のうちの1つは『トンファー』。俺の肘から指の先までよりも少し長いぐらいの棒で、全体の1/4ほどの場所から取っ手となる横棒が突き出ている。
もう1つは『釵』という武器で、その名のとおりギリシャ文字の『Ψ』のような形状をしている。江戸時代の日本で使われていたという、警棒の原形ともいえる十手の先端を鋭くしたような感じだ。
どちらも沖縄の空手に伝わる武器だが、古流空手を学んだ人間であればこれらの武器の扱いも身に付けている者は多い。本来は素手で行う『型』の稽古にも、これらを持った状態で行う別バージョンがちゃんと存在しているほどだ。
「トウマさん、これってどうやって使うんですか? フォークみたいなやつは敵を刺すためのものだろうってことは分かりますけど、もう1つのほうは棍棒にしては変なところに取っ手がついてますし……」
「フォークって……。じゃあ、ちょっと見せてやろうか。まずはこの『トンファー』って武器だが……」
俺はホルスター付きベルトを締めると、2本1組のトンファーを両手に持ち、腰のあたりに構えた。そして軽く振ってみて、仮想敵の顔面を横から殴ったあたりでピタリと止める。
「基本的にはこんな感じで、振るときの遠心力を利用して敵を打ち据える武器だ。けど、それだけじゃなくて……」
―― ブン! ブン! ブブン! ブォン! ――
今度はトンファーをクルクルと振り回しながら、棒の長いほうが自分の拳よりも前に突き出たところで止めてみたり、逆に長いほうが腕に沿った状態で止めてみたりする。
「こうして長いほうを腕に沿わせることで、敵の攻撃を防ぐこともできるんだ。さらにこのまま腕を突き出せば、短いほうの先端で敵を突くこともできる」
本来のトンファーはどちらの先端も真っ直ぐカットされた平面になっているが、これは俺がアリサさんに頼んで短いほうの先端を円錐のトゲ状にしてある。これならトレントのような木の怪物にも刺さるだろうし、鎧でも鉄板が薄ければ貫けるかもしれない。
「多分そうやって振り回す武器だと思ったから、少し先調子(※ 重心が長いほうの先端寄り)にしておいたぞ」
「さっすがアリサさん、分かってる。軽くて振り回しやすいのに、敵をブン殴る部分にはしっかり重量感があるから使い心地がいいですよ」
トンファーを拳銃のように回しながら腰の横にぶら下げたホルスターに収める。こうしておけば普段から太ももへの打撃を防いでくれるので、防具としての効果も見込めるだろう。
「さて、もう1つの武器だが……これは『釵』といってな、お前の言うとおり敵を刺すための武器だ。ただ、これにも別の使い方が2つある」
「別の使い方?」
「アル、お前の剣でちょっと俺に打ち込んできてみろ」
「は、はい」
トンファーと同じく2本で1対の釵を両手に持ち、フェンシングの剣士が試合前にやるように片方を顔の前に掲げる。
「行きますっ!」
アルが上段から剣を振り下ろしてくる。俺は顔の前で構えていた左手の釵を横にしてそれを受け止めると、もう1本の三叉に分かれた部分にアルの剣を引っ掛けた。
「あっ!?」
動きの止まった剣に横から力を加え、時計回りにぐるりと捻りつつ床に押さえ込む。するとアルは下から斬り上げるような体勢のまま、ぴくりとも剣を動かせなくなった。
「こうやって敵の武器を絡めとり、軌道を逸らして押さえ込んだり手から落とさせたりするのがまず1つ」
そう言いつつ、最初に剣を止めたほうの釵をアルの首筋に突きつける。
「うっ……」
「そしてもう1つは……こうだ」
手の中で釵をくるりと半回転させ、三叉に分かれた部分の中心をわし掴みにする。そして今まで持っていた柄のほうが拳から突き出る形にすると、俺は柄の先でアルの鳩尾をツンと小突いた。
「この部分は石突きといってな、文字通り石を突けば砕けるってぐらいの威力があるんだが……ここを使って敵の急所を突くことで、相手を殺さずに倒すことができるんだ。まあ、尖った先端で刺すよりはマシって程度の手加減だけどな」
「な、なるほど……」
「どうだトウマとやら、気に入ったか?」
「ええ、最高ですよ。軽い剣とはいえ、モロに受け止めたのに毛筋ほどの傷も入ってない」
ベルトの後ろにある2本の筒に釵を横向きに挿し込んで収め、動いても落ちないようボタンのついたバンドでパチンと留める。うん、収納もばっちりだな。
「ありがとうございますアリサさん。どっちも俺の注文どおり……いえ、それ以上の完璧な出来ですよ」
「はっはっは、そうだろうそうだろう! よし、オマケとしてそこの下取り品から剣も1本つけてやろう。持っていけ」
この人、意外とおだてに弱いのか? 今のは素直に褒めただけなのだが……。まあいい、くれるというならもらっておこう。
俺は店の隅っこに置いてあった木箱に近づき、無造作に放り込まれていたいくつもの剣を物色し始めた。下取り品というだけあって傷んだものが多いが、中にはまだそれほど使われていなさそうなものもある。
「うん、これがいいかな」
俺が選び出したのは、盗賊や海賊が使いそうな片手剣だった。日本刀のように反り返った片刃だが幅が広く、剣というよりは鉈のような感じだ。これなら短くて扱いやすいし、切れ味や威力は重さでカバーできる。いざとなったら手裏剣のように投げつ
けることもできるだろうし、何より俺はこういう汎用性の高そうな武器が好きなのだ。
「よし、トウマくんの武器も揃ったことだし、これでいよいよ本格的な冒険を始められるわね」
「ですね。それじゃあ改めて……アル、ティナ、それにフリージアさん、これからもよろしく!」
「はいっ」
「はい、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくね」
「ちょっとちょっと! 私は?」
「ああ、もちろんリーリアもな」
「もう! 私はティナのおまけじゃないんだから、忘れないでよね」
「はいはい、悪かったよ」
「おいトウマよ、盛り上がってるところ悪いんだが……そもそもお前はなんで冒険者なんかになろうとしてるんだ? わざわざ危険な旅などしなくても、この世界でボーっと暮らしていくという生き方だってあるだろうに」
新たな門出を祝して皆に挨拶していると、俺が冒険者として旅をすることになった経緯についてアリサさんが訊ねてきた。そうだな、もしかすると客から情報を集めてもらえるかもしれないし、彼女にも事情を説明しておこう。
「実は……」
俺はカウンターの向かいにある椅子にちょこんと座ったアリサさんのほうを振り向くと、自分が元の世界に帰るために『アウラの涙』を探していることを話し始めた。
2
「なるほど、そういうわけか……」
俺の話を聞き終わったアリサさんが花魁のようにキセルを咥え、ため息混じりに煙を吐き出す。仮にここが俺の世界でも彼女は成人しているので問題ないはずなのだが、この容姿だと少々犯罪臭のする光景だ。
「まるで雲を掴むような話だな。それで、何か当てはあるのか?」
「それが全く」
「だろうな。魔族の連中が何やら嗅ぎ回っているという噂は聞くが、具体的な話となるとさっぱりだ」
「お客さんの間でもそういう話が?」
「まあ、定期的に探すやつらが出てくるお宝だからな。何年かごとの風物詩みたいなものだ。しかし逆に考えれば、今はいいタイミングかもしれんぞ。探す者が多いということは、それだけ情報が増えるということでもある」
「そうですね」
「アリサさんのほうでは何か噂を聞いてないの?」
「だから具体的な話はさっぱりだと言っただろう。ただ……」
「ただ?」
「私自身が『そこにあるんじゃないか』と思っている場所ならある」
「ええっ!? そ、それって?」
「フリージア、お前も冒険者なら知っているだろう。黄金都市エルグランドだよ」
「あ……」
フリージアさんが口に手を当て、何か思い当たることがあるような顔をする。
「フリージアさん、エルグランドって?」
「この町からはるか東、歩いて2週間ほどの場所に大きな台地があるの。その上には古代から続く黄金の都市があって、世にも珍しい財宝で溢れかえっていると言われているのよ」
「なんか……お伽噺を通り越して胡散臭い話ですね」
「いえ、その都市のことなら私もお祖母ちゃんから聞いたことがあります」
「ティナも?」
「はい。そこの王様はなんらかの方法で永遠の命を得て、何百年もかけて世界中から財宝を集めたという話です」
「ちょっと待ってくれ。そんなお宝だらけの場所なら、どっかの国に攻め落とされたりしないのか? そもそも冒険者でなくても、盗賊とかが放っておかない気がするんだが」
「もちろん昔はそういう国や人も後を絶たなかったようです。けど、その都市に入った人は誰も戻ってこないらしくて……」
「そこでの暮らしが幸せすぎて永住したくなるとか、仕掛けられた罠にかかって全員死んだとか?」
「どちらの説もありますね。帰ってきた人がいない以上、真相は分かりませんが……」
「要はそういう噂が広まって以来、その都市に近づこうなんて物好きは余程の命知らずか馬鹿だけって話だ」
「行ったっきり誰も帰ってこない黄金の都市……か」
異世界人の俺にとっては信じろというほうが無理なぐらい嘘っぽい話だが、この世界では俺の常識が意味を成さないことはもう十分に体験している。それに冒険者たちの噂だけならともかく、ティナのお祖母ちゃんまでが言っているのなら本当かもしれ
ない。
「トウマくん、どうする? 危険を承知で行ってみる?」
「そうですね……」
元の世界に帰るのが目的の俺にとって金銀財宝はそれほど興味をそそられないが、ティナの言った『なんらかの方法で永遠の命を得た』という部分が気にかかる。もしやその王様というのは、『アウラの涙』を使ったんじゃないだろうか?
「行ってみましょう。他に手がかりもないんだし、危険な場所だからって敬遠してたらハズレの場所を堂々巡りするだけだ」
「つまり、しらみ潰しってわけですね」
「アルだって親父さんを探すなら、色んな場所を回れたほうがいいだろう?」
「それもそうですね」
「じゃあ、次の目的地は決まったな。行こう、黄金都市エルグランド!」
「ええ、行きましょう」
「はい」
「おーっ!」
「ふふ、まあ頑張れ。私が武器を作ってやったんだ、簡単に死んだりするんじゃないぞ」
「はい。アリサさん、どうもありがとうございました」
この世界で冒険者として生きていくならば、またワーウルフやあの人形のような魔物たちと何度も戦うことになるのだろう。アリサさんの言うとおり、これからは一層気を引き締めて、なんとしても元の世界に帰り着くまで生き抜かなくては。
俺は自分の両手を胸の前に持ち上げると、決意を込めてぎゅっと拳を握り締めた。
今回は技の解説はありませんが、武器と防具についてちょっと補足説明。
トンファーは基本的に木製のものが多く、海外の警察などで使われているのも特殊な強化樹脂製などです。金属製のものも一応存在しますが、その多くは多段式警棒のように伸び縮みするタイプで、中がスカスカの軽いものですね。
この作品では重い刃物や魔物の攻撃を受け止めることが多くなるだろうという点と、そのほうが破壊力も増すだろうということで金属製にしました。本来なら木製のものをそのまま金属製にしても重くて扱いづらいだろうとは思うのですが、そこはアリサさんが重量のバランスを上手く調整してくれたということで辻褄合わせ。
釵のほうは元々金属製ですが、これを使った刃物捌きの技や型はマジで存在します。クロムメッキされた釵をクルクル回しながらの型演舞はキラキラ光ってカッコいいですよ。
防具を胸当てと肩当て、あとは手足だけにしたのは作中で書いたとおり動きやすさ重視です。胴体用の防具は空手以外の格闘技でも練習などで使いますが、実際身につけてみると腋が閉まらなかったり足が上げづらいのでかなり動きにくい。それを革の鎧で同じような感覚を味わったということにして、主人公がゴツい鎧の類を選ばない理由付けにしました。
次に籠手ですが、これに付いているナックルガードの存在はかなり大きいです。硬いものを叩いたときの反作用に耐えるにはどれだけ拳を鍛えようと骨の強度上限界がありますが、これがあれば反作用のダメージを吸収して全力の攻撃を打ち込めるようになりますので。
作者はいつもグローブなしでパンチを打つときは30~40パーセントぐらい力をセーブしているのですが、これからは主人公の攻撃もそれぐらいパワーアップするかも?




