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餌と怪物、檻の中

作者: 水上の魚

四畳半の小さな部屋の片隅で蠢く、奇妙な怪物を飼っている男が居た。名をヒロシと言うこの怪物の飼い主の趣味は世の中のねじれを正すこと。そのためには、この怪物が必要であった。



怪物を飼い始めたのは中学生の頃、それはまだみんながクラブ活動や因数分解に頭を悩ませていた時から、自分の部屋で家族にバレ無い様に、気付かれない様に、こっそりと餌を与えていたのだった。

(もっと、もっと大きくなれよ。)



高校に入って二年。以前にも増して、怪物はどんどん成長していった。

ヒロシはこの頃になって初めて怪物に名前をくれてやろうと考えた。

「お前にはどんな名前が似合うか。色んなキタナイモノやヨゴレタモノ、ケガレモノ。お前が檻の外に出るときは、今言ったようなものをキレイにしてくれよ。」

続けてこう語りかける。

「トータなんてのはどうだ。お前に合う最高の名前だと思うんだ。」

ヒロシはこの他に、タダシとかキョーセイというような名の候補にも考えていたが、それだけがこの怪物の目的では無いとも考えていたため、最終的に<淘汰>と付けたのだった。

(餌は足りてるか。少し大人になっただけで、こんなに多くの食い物にありつけるんだ。もう少ししたら外に出してやるからな。)



四畳半の小さな部屋の片隅で蠢く、奇妙な怪物。

小さなヒロシの心を住処にしていたトータはいよいよ外に出ようとしていた。

(いいぞ。これからこの体はお前のものだ。)

「なかなか、今までオモシロイ餌をくれたもんだなぁあ。中には耳を塞ぎたくなる様な強烈な人の悩みだとか、聞いた瞬間に首を吊りたくなるようなエグイ打ち明け話だとか…。そんな『エサ』でよくもこんなに大きく育ててくれたもんだぜぇええ。なぁあ、ヒロシ君よおぉ。」



間もなくして、ヒロシは犯罪者として、警察に逮捕された。

今、彼の精神鑑定が行われているところだ。

彼の友人、知人は口をそろえて、「とてもいい人でよく相談に乗ってもらった。」とか「クラスの誰より優しくて、中学の頃からよく頼りにしていた。」とか「人に言えないことも、彼にだけは話せた。」とかばかりで、最後に決まって、「そんなことする奴じゃない。きっと何かの間違いだ。」と述べるばかりで、警察やマスコミも<危険な人物>というような証言を未だ得られずにいる。



(悩みの無い人間なんていない。)

それはヒロシもおなじであった。

(逃げられない。逃げたくても、どうにもならない人間関係。)

決して不幸では無かったヒロシの最大の悩みは…

(悩みを打ち明けられない…)

ねじれ曲がっていく様々な感情を一番正して欲しかったのはきっとヒロシ自身だったのだろう。





読んでいただいてありがとうございました。


[補足] 初めのヒロシの趣味(世の中のゆがみを正すこと)は(友達の悩みを聞いてあげる)というような解釈をして頂ければと思います。


[あとがき] 私がこの話しで伝えたかったことは、すべての人は少なからず、犯罪者になる可能性があるということです。犯罪を犯すものだけが特別ではない。もしかすると、その周りに居た誰かの影響で犯罪に手を染めたのなら、周りに居た人だって共犯なのかもしれない。イジメも同じく。

一人でも多くの人に、人間の心理や犯罪というものを考えるきかっけになればと思います。


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