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作者が初めて書いた作品なのでお目汚しになるかもしれませんが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
ある時、文明の進歩が進んだ世界は気付いた。“魔法”を使えるものの存在に。
それが精霊達である。
そして発見した。人類が魔法を使う方法を。
それから“魔法”は一般に普及していく。
これはその普及する前の魔法を一番はじめに発見した国のお話。
❁❁❁
魔法とか…嘘であって欲しかった…。
あら、皆さんごきげんよう。私の名前はクリスティーナ・オーリィ。
伯爵令嬢である。5歳だ。
まどろっこしいのは私の得意分野ではないので、結論から言おう、私には前世の記憶がある。いわゆる転生というやつだ。確か私の前世ではこの世界は、確か二次元とか、ファンタジーとか言うものであったはずだ。
私がそれを思い出したのは5年前、つまり生まれたばかりの頃。
前世では現役女子高生だった私は仲の良い両親も、彼氏も友達もいて順風満帆な生活を送っていた。のだが、友達に勧められてハマった乙女ゲームをプレイ中に興奮してキャーとかワーとなかなか変人と思われていそうなことを言っていると急に歩道に車が突っ込んできて私はあっさりと死んでしまった。あっけなさすぎて私もびっくりしたよ、うん。
それで目を開けると、私の視界は美形のドアップでうまってて悲鳴あげそうになったんだけど私が目を開けたとわかるとその人はすぐに顔を離して後ろを振り向く。
「父様、母様、クリスティーナが目を開けたよ!!」
「生まれたばかりなのに泣きもせずずっと眠ったままでもうダメかと思ったが良かった。アレン、お前ももう兄になったのだぞ。はしゃぐんじゃない。」
「あらあら、そういうあなたの声も弾んでますけれど。」
「うるさいっ気のせいだ気のせい!」
その一連の会話を聞いて分かったがそこにいる2人は両親でさっきのドアップ美形はお兄様だったのか。それにしても、皆さん美形ぞろいで。ハニーブロンドの美しいさらっさらの髪に、透き通るような青色の瞳はみんなお揃いのようだ。それはお揃いなのだが、お母様は、ふわふわした感じの綺麗というより可愛い感じの美形だがお父様は迫力のある美形で威圧感がある。お兄様は言うまでもなく2人の良いところを受け継ぎ、もう王子様オーラがすごい。まさに理想!完璧だわ!神様ありがとう!
おっと、話が逸れてしまった。ということでこの日は私が生まれた日であり、前世の記憶を取り戻した日でもあったのだ。取り戻したというのは少し間違っているような気もするが気にしない気にしない。
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そんなこんなで今ここにいる私だが、改めて自分の部屋で自分の容姿をまじまじと姿見で眺める。家族みんなとお揃いのハニーブロンドの髪に、青い目なのだが、お父様に似てつり目であるため、お母様のような愛らしい雰囲気は全くなく、キリッとした印象だ。美形であることは否定しないが、目はお母様に似たかったな…と少し残念だ。だってこの顔もう少し成長すれば、よく乙女ゲームの当て馬で出てくる悪役令嬢にいそうな顔なのだ。できればヒロインのような顔が良かった…無念。
まあまだ5歳だ。子供の可愛らしさはあるのでまあ良しとしよう。今から10年以上も先のことなんか考えたくなんかないしね。と納得して考えるのをやめると、今更ながら鏡の前でうーんと唸ったり名案だと言うようにぽんっと手を叩いたりしている私はただの変人だと気づく。しかし、着替えを手伝ってくれている侍女には何の反応もない。さすが。
そう思いながら着替え終わると
「お嬢様」
と声が聞こえてきた。声が聞こえた方を向くと、侍女のアンナが立っていた。子供の頃からずっと姉のように慕っていて、私の教育係も兼ねているので、いつも一緒にいるはずなのに今朝は姿を見ないなと思っていたところだ。
「どうしたの?」
「旦那様から、お嬢様にこれを、と。」
そう言ってアンナが私に渡したのは、この国の言葉で書かれた本だった。その本は、前々からお父様に頼んでいた初等部のものだ。この国では7歳になると魔法に関する知識を学ぶために学園に行かなければならないのだがその時に買うのがこの本だ。簡単に言うと、魔法入門の本みたいな感じ。
あっそうそうこの世界には魔法があるのだ。けどまだ小さい私はまだよく知らないので、この本をお父様におねだりした次第である。初等部のものはまだ早いんじゃないかって?その心配はご無用だ。前世の記憶があるので高校の問題をいきなり解いて天才に…とは、前世と文字も何もかも違うため、ならなかったが、元々の頭が良かったらしく色んな知識を周りの想像以上に次々と吸収していった。
そして最近少し余裕が出てきたので専属の家庭教師に教えてもらっていない初等部から習い始める魔法のことだけを少し早めに学ぶことにしたのだ。この本のことを話したのは昨日の夜なのにお父様早すぎだわ。もらったら早く読みたくなってきたので、午前のレッスンを猛スピードで終わらせる。いつもなら完璧にこなすはずのマナーのレッスンも先生が心配するくらいそわそわしていたらしい。
すれ違うお母様に
「いつになくそわそわしているわね。誰か想い人でも待っているのかしら?」
と言われ、謎の誤解を生んでいる気がするが、まあこの際どうでもいい。こんなに急ぐのは、早く読みたいというのもあるが、早く読んで分からないところをお兄様に聞くという名目で会いに行きたいという方が大きい。
お兄様は次期当主としての教育を叩き込まれているので、8歳なのにそこらの貴族の教育よりはるかに厳しいと聞いている。だから会いたくても会えないのだ。しかし、お兄様に勉強を教えてもらうという名目があれば先生も時間をあけてくれるのだ。このように下心満載で本を読み始めた私だが、次第にその本にひきこまれていった。そして2時間くらいでその本を読みきる。どうやら入門編だけあってわかりやすくまとめられていたので分からないところなどないのだが、なんとか理由をつけてお兄様に会いに行くとしよう。
善は急げだと私は思い立ち、アンナにお兄様の予定を確認してもらう。その間私はほかの侍女が用意した紅茶を飲みながら次は何の本を頼もうかしらと考えていた。ちょうど次は物語の本にしようと区切りをつけて紅茶を飲み終わる頃にアンナが帰ってきて、
「アレン様がマナーのレッスンをなくさせ…ごほんっなくしてもらってお嬢様にお会いになさるそうです。」
なんか権力が見え隠れしているが何したんだお兄様。さっきも私が迷惑かけたし、マナーの先生災難だな。申し訳ない。まあそれは置いておいて許可が出たので、いそいそと準備をしてお兄様の部屋に向かう。コンコン、と扉をノックするとお兄様が扉を開けて出迎えてくれた。
「クリス、待ってたよ!最近会えなくてごめんね。」
「お兄様、会いたかったですわ!お兄様が忙しいのは知っていますから気に病まないで下さいな。」
「クリス、なんていい子なんだ!自慢の妹だよ!」
「お兄様も私の自慢の兄ですわ。」
というお前らは恋人かというような会話をして軽くハグしてから部屋に入る。しかしそんな会話は私たち2人には日常茶飯事なのではじめは注意していた使用人たちももう見守ることにしたらしい。苦笑を浮かべているだけだ。
もう皆さんお気づきだろうが私はブラコンである。初めて見た時は理想のタイプすぎて発狂しそうになったほどだ。そして幼女の特権を生かしてお兄様、お兄様とあとを追い大好きと抱きついたりしていた。そして、ずっとその名残でご覧の通りこんな感じなので、今では家族にはお兄様と結婚する!と公言している。そして、お兄様も妹ができたことが嬉しいらしく、相当のシスコンに育ってしまったので私のブラコンは矯正する機会を失ってしまった。まあ誰ももう何も言わないからいいよね!
気を取り直してお兄様との話に集中する。始めは真面目に質問しようかと思ったが、侍女もみんな忙しそうにしていて二人の会話など聞こえないだろうと思ってやめた。けど一応魔法の話をしておこうかと思い、口を開く。
「お兄様はどの精霊の加護を受けたの?」
魔法は元々精霊が使えるものなのだが、その精霊から加護を受けることで人間も魔法を使えるようになる。火、水、風、土の四種類の精霊がいるが、ごく稀にその4人の精霊4人に加護を受けた子は光の魔法を使うことが出来る。その加護は8歳の時に受けられるものなので7歳で早めに学園で学んでおくのだ。そしてお兄様は先月8歳の誕生日を迎えている。
そう思ってその話を振ると、お兄様はうーんと微妙な顔をし、
「僕はね、風と水と土だって。中途半端だよねぇ…。」
と言う。何を言っているんだこの人は。2種類以上の加護を受けられるのは学年に5人いていい方なのに3種類で中途半端とは。さすがお兄様。目標が高くていらっしゃる。なんとも言えない顔で見ているとお兄様がそれに気づき慌てて
「あれ?なんかおかしいこと言った?友人にも似たような顔をされたんだけど。」
お兄様、無自覚。こんな感じで学園で大丈夫なのだろうか。心配になってきた。まあお兄様から少しぬけているのも可愛らしいから大丈夫かしら。と変に安心し、何でもないわと話をそらす。そしてその後他愛もない会話をして、部屋を後にする。
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お兄様と話して癒されたわーと先ほどの会話を思い出してほっこりしていると、アンナが近づいてきて
「お嬢様、旦那様がお呼びです。」
嫌な予感がする。基本的にうちの家は重要な話でもわりと食事のみんなが集まっている時に話す。だから、呼び出しということはお母様やお兄様に聞かれたくない話ということだ。
嫌な予感がしすぎて心なしか寒くなってきたような?うーむ。行きたくないが本を買ってもらった手前行かなければなるまい。とてもやる気が感じられないトロトロとした歩き方でお父様の部屋に向かう。
ノックをすると入室の許可が出たので遠慮なく部屋に入る。すると目の前には椅子に座った威圧感満載のお父様。謎の緊張感に包まれた(そう感じてるのは私だけだが)中でお父様がしばしの沈黙のあと口を開く。
「クリスティーナ、お前の婚約者が決まった。」
「えっ嫌です。」
婚約者が誰かも聞かず即答する。しかしその反応はお父様も秘書のルイも分かっていたようで、はーっとため息をつく。
「アレンが好きなのはわかるが、うちにとってもクリスティーナにとってもいい相手なんだ。この国の第1王子だぞ。会ってみたらどうだ。」
苦々しい顔で話を聞いていた私は第1王子という言葉に反応する。第1王子…?生粋の王子様…?もしかしたらお兄様を超える王子様かもしれないわ…!それなら目の保養のためにお近づきになっておかなくちゃ!
と考えた私はもう答えていた。
「会いたいです。第1王子に!」
急に乗り気になった娘にお父様はびっくりしたようだが、まあいいかと気にしないことにしたらしい。
「そうか。ではまた日程は後で伝える。」
「はい。分かりました。失礼します。」
そうして私はルンルンと来た時と正反対の気分で部屋をあとにした。