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愛の狂戦士

「こじれたのぉ」


「こじれましたねぇ」


「こじれたわねぇ」


 デーブとニノン、フランティスカの三人は顔を突っつき合わせていた。ここはデーブに与えられたメイクルームである。隣に女性用の部屋もあるがとりあえずこちらに集合していた。


「こじれたじゃないよっおいっ!!」


 扉を蹴破って現れたのはアイゼッツォンだ。


「どうするんだよこれ!!」


「だからと言ってもあたしにゃどうしようもないわよ。あんなの対処できないわ」


 フランティスカに威圧され、少し後ずさるアイゼッツォン。


「な、なんかだいぶ印象が違いますね」


「まぁ、彼女スラムの泥棒じゃからのぉ」


「……なんで泥棒を連れてきたんだ?」


 フランティスカは髪をかき上げて煙草を吸っている。デーブが咳をしながら言う。


「こいつは、貴族専門の泥棒でな。パーティーやパブに紛れ込んで酔っぱらってる紳士から財布をちょろまかすのを主な仕事にしとるんじゃ」


「詐欺もたまにやるわよ。前、デーブさん狙ったらこれが見事に取り押さえられてね。足が遅いと思って財布を抜いたらこれが馬車より早いの、怖かったわー」


 互いにはははと笑う。アイゼッツォンはため息をつき。


「まぁ、人選はどうでもいいよ、確かに説得力はあったし」


「おう、演技巧いじゃろ? お前さんと違って」


「あの大根はないわねーはっはっは」


「あ、あの、そういう問題では……」


 笑う二人とアイゼッツォンをニノンはおたおた見ている。


「そう、問題は……」


「まぁ、こじれたが一応流れはしたんじゃろう? 時間は稼いだじゃないか」


「む、む、むぅ」


 アイゼッツォンは得心のいかない顔で渋々頷いた。


「まぁ、なんだ、彼女の言い分は非常におかしかったからな。一次的なショックだろうと言うことで医者は流していたが……普通に断るよりも妹に恥をかかした気がする」


「このままスキャンダルにして、ほとぼりが冷めたころに別れたことにして時間に解決させる作戦じゃったからのぉ。まぁ、普通に断るには理由がいるじゃろう、これ。相手が相手じゃぞ?」


 デーブの言葉にアイゼッツォンは頷く。公爵の娘は王家の血筋ということだ。アイゼッツォンは男爵家出身で侯爵の位を賜っているほどに出世はしているが、少し相手が悪すぎる。


「……で、どうしたらいいと思う?」


「相手側がなんかおかしいのは分かっとるからの、フルリラに後をつけさせてみた。散々ごねられたがの。……正直、頼る相手を間違えとるような気がせんでもないが」


「あたしはどうする?」


 フランティスカは紫煙をくゆらせながら言う。


「窮屈な真似までさせてもらってすまんの。もう少し醜聞に付き合ってもらってええかの?」


「まぁ、あたしは本当に貴族の身分にまでしてもらったから別に構わないけど、仕事しやすくなるし」


「……仕事はもうしなくてええんとちゃうかの」


「そんなことまでしたのか?」


 驚くアイゼッツォンにデーブはその辺にあったコーラをすすりながら言う。


「ああ、調べられたらことじゃからの。借金で首の回らなくなった男爵に金を掴ませて養女にしてもらっておる」


「そ、お金ももらってるし、あたしとしてはそのまま嫁いでしまってもかまわないんだけどさ」


「それは御免被るよ。さ、夜も遅くなったし馬車を出そう」


「む、時間が遅くなったのか。せっかくじゃし焼肉屋にでも寄ろうと思ったのじゃが……」


 ニノンが、苦笑いを浮かべながら答える。


「ドレスで焼肉はちょっと……マイヤーさんに怒られます」


「む、怒られるかのぉ」


「どこかに怒られない理由があったかい、今の?」


 アイゼッツォンが突っ込んだ。どことなく、いつもの調子を取り戻しつつあるようだとデーブは思った。





 フルリラが豪奢な廊下を羽ばたいている。


「まったく、なんであたしがこんなことしなくちゃいけないのかしら。マイヤーさんに言い付けてやるんだから」


 パタパタと羽音を立てて進んでいくと、メイドさんとすれ違った。


「やっほー」


「……こらっ! どこから入ってきたの!!」


「に゛ゃっ!?」


 箒とちりとりを持ってメイドさんが追いかけてきた。





「び、びっくりした、私ゴキブリじゃないよっ!? 女神さまの使いなんだからね!? もっと大事にしてよもうっ」


 外の世界を知らない妖精だから無理もないが、こういう場所ではそれ相応の扱いを受けるのだ。知性ある生き物の侵入など、泥棒と疑われても仕方がない。


「慎重に行こう、ヌキアーシ、サシアーシ、シノビアーシ」


 パタパタ飛びながら進んでいく。


「というか、デーブの屋敷も広いけど、ここもめちゃくちゃ広いわね。どこがどこだかさっぱりだわ」


 飛んでいくと、ひとつの豪奢な扉から、フルリラは謎のオーラを感じた。


「……ここにいるような気がする」


 ゴゴゴゴと音が鳴りそうな威圧感を感じながら、フルリラは扉に手をかける。


「重いっ! そうだ、私扉なんて開けられない!?」


 妖精は基本力が弱い。重い扉など開けられるはずがない。


「冷蔵庫の扉くらいは抜けられるんだけど、ここの扉と壁は、ぶ厚そうだなぁ。まったく、なんで壁ってやつはこんなにぶ厚いのかしら」


 もちろん、妖精が壁抜けしないためである。高級な建築物は基本そう作ってある。多分窓に回っても窓も厚いだろう。


 そして、ガチャッと音がした。


「ガチャ?」


 勢いよく扉がフルリラに迫ってくる。次の瞬間、扉が壁に激突した。ずいぶん立て付けの良い扉だったようだ。


「……気のせいですわね。寒い、少しおトイレに行ってきましょう」


 トリートリシアは夜着を着て廊下をペタペタと歩いていく。寝る前だったようだ。


「きゅぅ」


 地面にぺたりと落ちるフルリラ。鼻が潰されている。


「ん、もう。やだ……あ、開いてる」


 中に入ると、案外普通の部屋だった。


「なんだ、面白くない。確かに豪華っぽいけど人間の部屋ってベーコンもチーズもないのよね。勝手にジュースも飲めないし。……デーブは『なんか怪しそうなこと聞いて来い』って言ってたけど。本人がいないんじゃねぇ」


 仕方なしに、目に入ったテーブルに向かう。


「インクを乾かしてるのね。何か書いてたのかしら」


 目を通すこと数秒、フルリラは頷いた。


「絵がない……」


 フルリラは文字が読めない。妖精だから当然と言えば当然だが。


「うーん、つまんないなー」


 そこで、ふと振り返ると、鬼の形相をしたトリートリシアがいた。


「そこな妖精。一体、私の日記に何をしてらっしゃるんですか?」


「ふにゃっ!?」


 思わず、後ずさるフルリラ。その一歩手前に、手斧が刺さる。


「避けたな?」


 ずるり、とクローゼットから斧を取り出すトリートリシア。


「に゛ゃーーーーーーっ!?」


「生かして帰さでおくべきかーーーーーー!!!!」


 掴んだ本を盾にしながら、フルリラはよたよたと逃げていった。





「にゃー、にゃーっ!」


「そこで、猫化してしまったのがこの冷蔵庫の隅でうずくまってるフルリラです」


 マイヤーが冷蔵庫前で解説した。他の氷妖精が心配で撫でている。


「……ま、妖精じゃしそのうち忘れるじゃろう」


「なんかちょっと気の毒ですね」


 ニノンが撫でようとすると、威嚇してきたのでやめた、今は人間が怖いらしい。


「……で、これが命がけで取ってきた他人様の日記じゃな。ばれたら首が飛びかねんのぉ、おい」


 デーブが手を伸ばすと、マイヤーが声をかけた。


「お読みになるのですか?」


「いまさら読んだところで罪状は変わらんじゃろう。……これは日記というよりはアイゼッツォン白書じゃな。ほぅ、アイゼッツォンに監視をつけておるのか。間者はよほどの腕じゃのぉ、あいつ一流の剣士じゃぞ」


 中には、乙女チックなつぶやきとともにアイゼッツォンの一挙手一投足が書かれていた。


「いえ、間者を使ってるにしては……その、時折細かすぎませんか?」


「そういえばそうじゃの。三日に一回くらいめちゃくちゃ長いページがあって、コーヒーカップの持ち方からワシへの突っ込みまで詳しく書いてあるぞ」


 マイヤーとデーブは頷く。


「信じがたいですがこれ、見ているのは本人ですね」


「アイゼッツォンがイスミア嬢に思いを寄せているのも、当然ながら気がついておるようじゃの。やれやれとんだ仮面友達じゃ」


「……あの、これ、最後のページ」


 恐る恐るインク染みで汚れたページを指さすニノン。


「あまりホラーは子供の読むものじゃないぞい」


「あの、私が殺すって書いてあるんですけど、誰をでしょう? フランティスカさんをですか?」


 デーブも一つ汗をかいてそのページを読み込む。そのページは書いている途中だったようで判別は難しい。


「いや、フランティスカは、偽の恋人であるということはトリートリシア嬢は分かっておった。そうなると……」


「デーブ! デーブはいるかい!? 僕だよロードフリフだ!!」


「あ、なんかすごい嫌な予感がするぞい」


 みんな頷いた。





「お茶は良い、話を聞いてくれ。実はアイゼ」


「アイゼッツォンの妹であるイスミア嬢が何者かにさらわれたんじゃな?」


 話を聞くと、ロードフリフは目を丸くした。


「耳が早いな、僕だってさっき警察から聞いたばかりだぞ?」


「なんとなく想像がついたんじゃ、死体で発見されてなくて安心したわい」


「何を不謹慎なことを言うんだ!! それで一緒にいたアイゼッツォンの奴が……」


 ロードフリフの言葉をまた遮って、デーブが言う。


「お前さんの制止を振り切って探しに行ったんじゃな?」


「だからなんで知ってるんだ!?」


「そこまで聞けば妖精だって想像がつくわい!? そしてそれが一大事だってこともじゃ!?」


 ロードフリフに怒鳴り返してデーブは頭を押さえた。


「で、アイゼッツォンは帯剣しておったか?」


「ああ、だから彼は無事だと思うんだが、妹さんを」


「こうなったらイスミア嬢よりトリートリシア嬢の方が心配じゃわい。アイゼッツォンが見つける前に行くぞい」


「おい、どうやって見つけるんだよ!?」


 そう言ったロードフリフにデーブは言った。


「日記に大体書いてあるわい!!」


 ロードフリフはちんぷんかんぷんだった。





 一方そのころ、アイゼッツォンはすでにアジトを突き止めていた。


「イスミアッ!!! いすみあああああああああああ!!!」


 愛の力だった。


「なっ、誰だおまっ!? うわっ!?」


「なっ!?」


「うわっ!?」


 三人いた見張りは、アイゼッツォンがすれ違うと全員剣がバラバラになってしまう。別にいきなりバラバラになるような悪い鉄など使っていない。そう、訳が分からないが目にも留まらぬ速さで斬られたのだ。


『や、やべぇ、逃げろ!!』


 アイゼッツォンは逃げるものは追わない。アジトは一つの屋敷だった、入り口の扉は固い樫の木で作られているが。


「ふっ!!」


 アイゼッツォンにしてみれば一息だった。抜剣一閃、扉がバラバラに切り裂かれる。半端ではない剣術の腕前だった。


「!?」


 アイゼッツォンは不意に首を後ろにずらし剣を構える、そこにナイフ……にしてはおかしなものが当たり地面に刺さった。


「ほぉ、拙者の手裏剣を躱すか」


 影からゆらりと現れたのは一人の男だ。異様な服装に異形の曲刀を二本持っている。


「東方のサムライか……!!」


「如何にも、拙者、綾鷹井衛門之介と申す。一手手合わせ願いたい」


「私は急いでいるんだが」


 アイゼッツォンは剣の柄に指先をかける。井衛門は二刀を抜いた。アイゼッツォンにも目の前のサムライが強敵だというのは分かる。


「そうそう急くな。まだまだ、雇い主は準備を整えている。刻限まで通すなというのが拙者の役目だ」


「ゾンビになりたいと見える」


「死してなお戦えるのなら修羅にもなろう」


 その決別が合図だった。アイゼッツォンは抜剣一閃。それを井衛門は受け止める。剣と刀の間に火花が散った。


「中々の抜刀術! “疾風剣”のアイゼッツォン流石の使い手と見える!」


「その名を知って挑むとは愚か者だな」


 左の刀で突きかかる井衛門。そこに返す剣でアイゼッツォンは弾き返した。


「ぬっ!!」


 さらに返す剣が井衛門の刀を打つ。井衛門は無理やり刀を引き戻してアイゼッツォンの胴に両方の刀で切りかかった。


 火花が散る。両方の刀がほとんど同時に跳ね上がる。


「ぬぉっ!? 一刀で二刀に速度で勝るか!?」


「速きこと風の如く。疾風一刀流は伊達ではない!!」


 追撃するように次々の剣戟の雨を降らせるアイゼッツォン、言葉の通り疾い剣で井衛門を圧倒した。


「グッ……ならば、芸を見せてくれよう」


 その言葉を共に袖を振ると中から手裏剣が複数飛び出す。アイゼッツォンはそれを慌てて打ち落とす。


 そこに二重の斬撃が来た。転がりそれを避けるアイゼッツォン。


「流石にこの手数には一本では応じきれなかったようだな。手数で勝ったほうが勝つのは条理である」


 アイゼッツォンは頬の傷を撫でる。一筋傷がついていた。


「なるほど、理にかなっている、確かにその通りだと思うよ」


 剣を構える。小細工はなし、正眼に真っすぐと構えた。


「迷いがあるようには見えぬな、よかろう、この綾鷹井衛門之介、受けて立つ」


 どんな技が来るかは予想もつかない。ひょっとしたら神術の類か、あるいは魔術妖術の類かもしれぬが、それでも打ち倒す自信が井衛門にはあった。


(手裏剣はまだ四十五本、今は五本投げしたが十本投げもできる。先ほどは対応できてなかった、串刺しにしてくれるわ)


 投げつけようと、腕を振り上げた瞬間に、アイゼッツォンは動いた。


 先を取ろうとする井衛門の隙をついての先の先。アイゼッツォンは振りかぶる。


「このっ……!!」


 井衛門は辛うじて十の手裏剣を投げつける。それと同時に二刀を振りかざした。


(振りかぶって相打ちの構えか!?)


 だが、アイゼッツォンの剣は浅くその場で振り下ろされ。


 十の金属音、速すぎて一回にしか聞こえない。手裏剣は全て弾き飛ばされ千々に飛んで行った。


 さらにアイゼッツォンは止まらない。嵐のような斬撃は井衛門の刀を何十回も打ちつけ、それを跳ね上げ、弾き飛ばした。


 床に井衛門の二刀が刺さる。


「同感だ。手数は正義。小細工を弄する暇があるのなら、剣を何十回も振ればいい」


「見事、これが頭に超が付く剣鬼か。疾風などという可愛い呼び名は似合わぬ、嵐、いや竜巻のようじゃの」


 井衛門は、諸手を上げて降参した。





「で、妹はどこだ?」


「地下だ。地下で縊り殺すと言っていた」


「雇い主は?」


「名は知らぬ、女の貴族であったよ」


 アイゼッツォンはここでトリートリシアを思い出す。なるほど得心が行った。


「斬るのか?」


「場合によれば」


 井衛門より地下の鍵を受け取ったその時、地下から声が聞こえる。


「嫌ああああああああ!!」


「あの声は、イスミア―――――!!!」


 アイゼッツォンは地下への扉をぶった切って進んだ。





 地下は、おどろおどろしい雰囲気に包まれていた、邪魔するものは切り倒しアイゼッツォンは進む。


 その奥から、ひたひたと素足で歩いてくる音と鉄錆の臭いがした。


 血に塗れたトリートリシアだ。


「アイゼッツォン様、お待ちしておりましたわ」


 ニコリと笑う不気味な少女、手には斧を持っている。


 その状況は、アイゼッツォンを激高させるのには十分だった。


「きさ……」


「どすこーーーーーーーい!!!!!」


 頭を突き出して直立の姿勢のまま水平に飛んで来る巨漢。そう、それは人間砲弾のごとく突き進んでくるデーブだった!! どうやって飛んでいるかはいまいちわからない!!


「なっ!?」


 突然のデーブの襲来にアイゼッツォンは体当たりを食らい剣を取り落とす。


「ふぅ、間に合ったわい、ギリギリ。全くロードフリフのやつが途中で腹を壊さなければ……馬車から蹴り落としてやったんじゃが」


 汗を拭うデーブは空中から落ちてきた剣を取る。


「何を邪魔するんだデーブ!」


「何もカニもあるかい。アイゼッツォン、お嬢ちゃんをよく見てみろ。返り血なんぞ浴びてないじゃろう」


「……は?」


「ふふふ、デーブさん。私、アイゼッツォン様になら殺されてもよろしいと思いましたのに、邪魔をなさるのですわね、ふ、ふふ、」


 ふらりと、倒れるトリートリシア。思わずアイゼッツォンは駆け寄る。


「……あ、頭が割れてる」


 つまり、トリートリシアは怪我をしてフラフラの状態でやっとの思いで歩いてきたようだ。元より血の気の少ない彼女だ。倒れるのも無理はない。


「死にはせんじゃろう。あとから人も来る、一応イスミア嬢も見て来よう」


「そうだ、イスミアが心配だ!! イスミアああああああ!!!」


「そんな走らんでも、ひぃ、ひぃ」


 どすどすと、デーブも追いかけていった。





 イスミアは、凄惨な血にまみれた部屋で、倒れる男たちの中。腕に枷をはめて気を失っていた。辺りにはなぜか複数の男たちが、ほとんど瀕死で倒れていた。


「イスミア、無事会、ああ私の可愛いイスミア!! 無事だった!!」


「やれやれ、人死には出なかったか。なんとかなったわい」


 デーブは、失ったカロリーをどこで取得しようか考えた。





「……それで、結局何がどうなったんですか?」


 ニノンは菓子皿からクッキーをひと摘みして首を傾げる。


「そうよそうよ、その辺さっぱりだわ」


 フルリラは角砂糖を齧っていた。


「フルリラ、お前さん本当に一晩で忘れたのぉ」


「なんのこと?」


 ポテトチップをざらざらと口に入れ、紅茶で流し込んでデーブは言う。


「まぁええわい。ワシの予想じゃと、こうじゃな」


 デーブは自分の言葉で当時の状況を解説した。





 枷を嵌められたイスミアは地下牢で顔を上げた。


「フフフ、どう縊り殺してあげようかしら」


「そ、そんな、トリートリシアさん、なんであなたが……」


「あら、そんなことを気にしていたのかしら? 良いのよ、私はあなたを殺してあの人に殺されるの。きっと許されないでしょうけど、それで良いのですわ。あなたがゾンビとして復活しないように、奇麗にバラバラにしてさし上げますわ」


「イヤァアアアアアアアア!!!」


 怪鳥のような奇声を上げて枷を嵌めたままのイスミアが立ち上がる。


「なっ! 取り押さえて!!」


「はいっ! うぎゃあっ!!」


 男の一人が顎を蹴られダウン。


「くそっ、囲め囲め!! ぎゃっ!!」


 次の一人が返す脚で鼻を蹴られ悶絶。


「ぎゃっ!」


 今蹴られたのが頭を蹴られ気絶。


「足だ、足を押さえ!! ぎゃっ!?」


 次のが手枷で殴りつけられ気絶。


「な、なんですの一体!? このっ!!」


 トリートリシアが斧を構えようとするが、それより早くかかと落としが脳天に決まり……。





「って、とこじゃと思う。イスミア嬢がめっちゃ強いのはアイゼッツォンだけ知らないんじゃよな」


 デーブは皿を傾けると、ポテトチップの欠片を飲み込んだ。


「はぁ……見た限り奇麗な方でしたのに、怖いんですねぇ」


「見た目が奇麗な方が何倍も怖いわい。それにもう本人も一切覚えてないようじゃし、未遂じゃし無罪でもええんじゃないかな? 結婚の話はアイゼッツォン観察日記でなくなりそうじゃし。マイヤーや、ポテチのお代わり貰えるかな?」


「お茶のお代わりは何杯でも差し上げますけどポテトチップはそれだけです。クッキーならもうちょっと差し上げますよ」


「ちぇー、んじゃ、それで」


「なんというか……」


 フルリラがニノンと目を合わせる、ニノンは頷いた。


「物凄い話ですねぇ」


 一人と一匹は真冬の恐怖体験を一つしたような気分だった。



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