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オカマの悪だくみ

「あぁ~もう、ロードフリフちゃんを利用して一儲けする計画がパアだわ」


 ピンク総一色の部屋。オカマスキーの部屋である。


「オカマスキー様は失言する癖があるでガリからね、エロッス兄さん」


「そうだよなガーリックよ、いーっひっひ」


 手にしたワインを振り回しながらオカマスキーが言う。


「アンタらに言われたくないわよデコボコ兄弟!! まぁ、ああなっちゃったロードフリフちゃんから稼ぐのは無理ね。きっと議案が通っても予算をしっかり監視してるに違いないわ。ワタクシはもっと偉くなりたいのよ」


「いーっひっひ、男爵まで金で買って、そこで金が尽きたんですよね」


「うるさいわよ。だから早急にお金を稼いで甘い汁の吸える役職に就かなきゃいけないの。今まで通りのゆすりやかっぱらいの頭領なんてやってたんじゃ何万年かかるかわかったもんじゃないわ」


 オカマスキーはグイッとワインを煽った。


「アンタたち、下調べは済んだでしょうね?」


「バッチリでガリ」


「でも良いんで? 俺たちゃ仕事はしますけど、そのロールフリルとか言うのからは金は取れないんでしょう?」


 オカマスキーはため息を一つ付き、またグラスにワインを注いだ。


「アンタたち馬鹿ね。今取れなくても恩は売っておくのよ。相手は一応お偉いさんで議員よ? どこで甘い汁が吸えるか分からないんだから」


「いーっひっひ、そりゃそうか、やっぱりオカマスキー様はお悪い」


「当たり前のことよ、さっさと報告しなさい、あんたら臭いわ」


「へぇ、おい、ガーリック、地図を出せ」


「はい、エロッス兄さん」


 ガーリックはテーブルに藁紙に描いた地図を取り出す。麦の藁紙は容易に手に入るが、品質では木材の紙に大変劣った。


「やっぱ、この真ん中のでかいのが無理ですぜ。景観無視という理由で撤去しようにも住んでるのが貴族です。無理かもしれやせんねぇ、ひっひ」


「嫌がらせに生ごみでも撒いてくるでガリか?」


「屋敷、こんなところに屋敷ねぇ。住んでるのは? どうせ変わり者のエセ貴族でしょう? 何とかならないのかしら」


 オカマスキーは、手入れを欠かしていないマニキュアを塗った長い爪でその地図をトントンと叩く。


「へぇ、それは聞きこみました。ひっひ。デーブとか言う貴族ですぜ」


「なんでもスラムじゃ絶大な支持があるとかガリで」


「なんですって!?」


 オカマスキーはそれを聞いて、少し思案し、ニヤリと笑う。


「あ、エロッス兄さん、オカマスキー様が悪いこと思いついたみたいでガリ」


「そうみたいだなガーリック、いーっひっひ」


「ええ、思いついたわよぉ。アンタたち、この家強盗しちゃいなさい。どうせスラム街だから警察が来るのも遅れるわ。何とかなるでしょう?」


 デコボココンビはしばし相談して、結論付けた。


「行けると思いますぜ、いーっひっひ。良い女でもいるとなお良いんだけどなぁ」


「あくまで目的はお金よ。噂によるとデーブ・デーブはそれはもうとてつもない金額を貯め込んでいるって噂よ。それを奪い取ってしまえば侯爵も夢じゃないわね! ホーッホッホッホ!」


 オカマスキーは大口を開け、その中にワインの残りをすべて放り込んで大笑いを上げた。


 当然だが、直後にむせて吐いた。





 汗ばんだ上着をマイヤーに渡しつつ、デーブは一息つく。


「おかえりなさいませ、旦那様。パーティーではお召し上がりになれましたか?」


「あまりに食えなかったんでアイゼッツォンの家で食事会をしたんじゃが、あいつの家の物は食っても腹に溜まらん」


「そう言うと思いまして、軽くパンケーキなど作って置きました」


「アイスクリーム付き?」


「はい、ホイップクリームもつけました。特別ですよ?」


 鼻を鳴らしたところで、体についた異臭が気になり、デーブはしかめっ面をした。


「先に風呂に入れるかの。あのホモノビッチとか言うの、すさまじい異臭を放っていての、そりゃもう大変じゃった」


「……確かにこれは匂いますわね。では、そのように致します。……それからもう一件」


 マイヤーがほんの少し言い淀んだことから、デーブは物凄く嫌な予感を感じつつ先を促す。


「なんじゃ、言うてみてくれ」


「そのホモノビッチ様から会食のお誘いが来ています」


 デーブは物凄く嫌な顔をした。





「あんらまぁ!! 可愛らしいお嬢さんも連れて、お子さんかしら?」


「ここ、ショッキングピンクで目が痛い」


 ショッキングピンクの食堂に通され。これまたどうやって作ったか逆に問いたいショッキングピンクの食器を前にデーブは困惑していた。


 一人では嫌だったので連れてきたニノンは臭さで鼻をハンカチで抑えている


「まぁ、似たようなものじゃ」


「お鼻を抑えているけど、風邪か何かかしら? お薬を用意させようかしら」


「いいえ、飲んできたのでご安心を。申し訳ありませんホモノビッチ様」


 立ち上がり奇麗にスカートの端を持ち上げる、カーテシーと呼ばれる挨拶を行う。この辺りの礼儀作法はもうすでに叩き込まれていた。


「あんらまぁ、本当に可愛らしい! 食べちゃいたいくらい」


「食べると無くなってしまうじゃろう、我慢してくれ」


「デーブ男爵は冗談もお上手で!!」


「お主ほどでは無いわい」


 うるさく笑うオカマスキーに、呆れた様子で言い捨てる。ショッキングピンクの椅子に座ると椅子が軋んだ。


「さぁ、しばしの間ご歓談を、私はシェフの方に特別な料理を作らせてまいりますので! 美食家で名高いデーブ男爵のお口に合うかはわかりませんけど、ウフフ」


 オカマスキーが姿を消すと、互いに息を吐いた。


「すまんの、突き合わせて、一人じゃあれの相手無理じゃ」


「パワフルなお方ですねぇ。それにしても、デーブ様って美食家だったんですね」


「いんや、全然。ワシはB級グルメ専門じゃ。アイゼッツォンやロードフリフの方がよっぽど美食家じゃわい。ワシが各国からの調味料や名産品の取引をしとるから噂が先行しておるんじゃろうな」


 デーブは頬杖を突いてため息を吐いた。





 一方そのころデーブ邸前。


「いーっひっひ。この中にはメイドさんが一人って話らしいぜ。腕と腰が鳴るじゃねぇか」


 エロッスがバールを片手に腰をコキコキと鳴らす。


「エロッス兄さんの独壇場だガリね」


 ガーリックも棍棒を素振りしている。


 それを館から見るマイヤーさん。眼鏡を一つ上げて。


「まぁ、どうしましょう」


 と呟いた。





 魚を目の前にして、デーブは唸っていた。


「さぁ、お召し上がりになって! メインの舌平目のムニエルでしてよ!」


 オカマスキーを一つ睨んで、首に巻いてたエプロンを外す。デーブの方を見ていたニノンもそれに倣う。


「あらら? 何かお気に召さないことが合って?」


「ワシ、魚食えん」


 オカマスキーは慌てて手を叩き、ギャルソンに指示する。


「ちょ、ちょっと待ってくださいな。ほ、ほら、次は七面鳥のローストが来ますから……デザートには珍しいハーブのゼリーも用意しててよ?」


 そこで、デーブは初めて怒りを露にし、テーブルを叩いた。舌平目が宙を舞い、そのまま皿に落下する。


「いくらワシがバカ舌でもこの臭い空間で淡白な七面鳥やハーブの香りが楽しめるかー!?」


 そう言い捨てると、デーブは立ち去ろうとする。


「ああん、待って、まだ、まだあとちょっと……お、お酒はどうかしら? とっておきの四十年物がありましてよ?」


(まずい、まずいわ。今帰っちゃうとあいつらこの人に鉢合わせしちゃう。いくらデブだからってかつての戦争の英雄よ、勝てる訳無いわ!)


「じゃからこの場でなければ、というかお主とでなければ何とでも楽しめるものじゃが……もう気分が悪い」


「そそそ、それならサロンでお休みになっては! 何なら寝室も用意なさいますわよ!」


「ショッキングピンクの部屋じゃ眠れんのぉ」


 ニノンも、ずっと相槌を打っている、初めて嗅ぐ強烈な香水の匂いにそろそろ気持ちが悪いのだ。


「そろそろ帰ろうかの、途中で何か食べて帰ろう」


「え!? 寄り道してくださるの!?」


 数秒、沈黙。


「ワシらがまっすぐ帰ったら都合の悪いことでもあるのかの?」


「いいえ、無いわ無いわ、ぜひゆっくり寄り道して帰ってちょうだい! 一時間くらいとっぷりと!」


 オカマスキーはハンカチを振る。もちろん、気が付かないわけがなかった。





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