決戦~後編~
「いーっひっひ!! 加勢が来た程度ではこの武器のパワーはひっくり返らないようだな!! メイドさんを引きずり倒していんぐいもんぐりしてやる!!」
「やるでガリ!! 棍棒でぶん殴るでガリ!!」
すっかりハイになっている二人が暴れ回る。ホネロックが何とか防戦に回るが、聖なる鍋がボコボコだ。冷気も炎も目つぶしも武器で吹き散らされてしまう。
そこに、扉を大きく音を立てて開け、ニノンが外に出てきた。
「ニノンさん!?」
「お嬢ちゃん、いけねぇ!?」
皆が声をかける中、ニノンは、息を一つ吸い。
「女神さまぁ――――――!!!!」
大きく叫んだ。女神は『また?』って顔をしたがニノンが大きく頷くと。
慣れた構えで、ステゴロの体制を取った。
これ以上何の逆転が起こるわけでもなく、二人はボコボコに粉砕された、生きていたのは奇跡である。
部屋の中に豪風が吹く。
もはや比喩ではなく竜巻と化したアイゼッツォンが火花を散らしながら怒涛の攻撃をしているからだ。
剣戟の音は一つに繋がり、さながら嵐の豪雨のような音となっていた。
「がああああああああっ!?」
無言でただ素振りのように剣を振り続けるアイゼッツォンに対して、腕の筋肉を断裂させながら井衛門は追う。ひとえに生きた剣である妖刀の本能であった。
「凄いっすねぇ、これ」
攻勢妖精ももはや手伝いはしない。これほどの速度となるともはや手の出しようがないのだ。
一撃一撃は軽い剣であろうとも、何万、何十万と振られるうちに変化が起きた。
ビシビシと妖刀が音を立て始めたのだ。
「もうじき終わるな」
「解せぬ!! 解せぬぞ!! なんで貴様の剣は折れぬ!? 魔術か!? 加護か!?」
「いや、この剣はそんな生易しいものではない」
アイゼッツォンは、淡々と述べる。
「この剣は名工が名剣を名剣で折り、それを繰り返して作った剣だ。そんな剣が折れるなどということはあり得ない。この剣は、勝ちぬいた、勝者の剣だ。貴様のような敗者の剣とは違う」
アイゼッツォンはここで初めて笑った。
「敗者の剣は、折れて鍛え直されるが良い」
ついに、暴風は妖刀を粉々に砕き、勝負はついた。
終わってみれば完全勝利である。
「さて、チェックじゃ。おとなしく女神の加護を開放してもらおう」
異界の魔術師は、肩を震わせて言う。
「く、くくく、何を言うのかと思ったら。まだこちらにはすべてをひっくり返す切り札がある。召喚などというケチなことには使わん。私自身を強化し、反抗勢力をすべて殺しつくしてくれよう」
嗤うと、異界の魔術師はピンク色の結晶体を掲げた。
「おい、やめ」
デーブが止めようとするが間に合わない。
「さぁ、蒐集神よ!! この力を持っていくが良い!! そして我に力を!!」
そして一瞬の静寂ののち。
「じゃから恥ずかしい真似は辞めろと言ったのに」
何も起こらなかった。
「ば、馬鹿な!? これほどの力だぞ!? なぜ、、なぜ何も起こらぬ、私ほどの魔術師が術式を間違えたとでもいうのか!?」
「違うんじゃ。お前さん魔術師の割には色々勉強不足じゃのぉ」
デーブの言葉に異界の魔術師は振り向き言う。
「私の何が間違っているのだというのだ!?」
「前提じゃな」
デーブはズバリと言った。
「そもそも蒐集神は価値のあるものを集めているんじゃなく、『自分にとって価値のあるもの』を集めておる。まぁ、色々と変なものも集めとるようじゃがの。んで、その、神の力というやつは、人間から見たらそれはもう物凄いかもしれんが」
そこまで言うと、異界の魔術師は青ざめた。
「その力、神にとってはなんか物凄いありふれた無価値な物らしいんじゃよ。昔似たようなことをした奴はおっての。まぁ、異界から来たお主には分からんじゃろうが」
「な、ななな……なな」
わなわなと震える異界の魔術師を見ながら、オカマスキーは呟いた。
(あら? 旗色が悪そうね。これはマズいんじゃないかしら、このまま私たち捕まったら……)
(どど、どないするんですねん!?)
ゼニババロスにオカマスキーは言う。
「ええい、オカマは度胸よ!」
オカマスキーは立ち上がった。
「じゃから、投降して……」
「デーブ様! 助太刀するわん! 喰らえーーーっ!!!」
バカ口開けながらサーベルを構えオカマスキーが飛び掛かってくる。
「なっ!?」
異界の魔術師は思わずピンク色の結晶をいつもの調子で投げつけ、当然消えずにオカマスキーのバカ口の中に入った。
ごっくん。
「の、飲んだ」
「飲み込みおった」
愕然とする二人にオカマスキーはきょとんとして。
「あら、私、何を飲んだおべろぶろぼぼぼぼぼぉぉおおおおおお!?」
口から光を放ちつつ、オカマスキーが肥大していく。
「おい、何が起こっとるんじゃ!?」
「た、多分女神の加護が物凄い勢いで暴走してるんじゃなかろうかと……!?」
「なんじゃとーーーっ!?」
オカマスキーは膨らみ、さらに膨らみパンパンになった手はサーベルを持てず落とし、デーブより、デーブの三倍くらい大きくなって部屋につっかえて止まった。
「ぬぅあにが起こったってのよぉー」
でかい声でオカマスキーが喋る。
「な、なんというか、あれはもうオカマスキー・デラックスじゃな」
「な、なんかすごい怖い」
呆れるデーブに怯える異界の魔術師、オカマスキー・デラックスは吠える。
「ぬぁんか、物凄く調子が良いわー! これならアタクシ世界征服くらいできちゃいそうよぉ!!」
「とんでもないこと言いだしおったぞオカマ、というか……」
デーブが頭を抱えて叫んだ。
「ラスボスがオカマか――――――い!?」
「あんら、しっつれぇねぇ。あなたからやっちゃうわぁ」
オカマスキーは髪の毛を触手状にしてデーブに放つ、デーブは間一髪これを避けたが、床を貫いた触手は建物全体を揺らした。
「よ~け~た~わ~ね~」
「な、なんじゃあれ!? どうなっとるんじゃ!?」
「多分、女神の加護を体内に取り込んだことにより、体内が活性化して異常暴走してるんだと思う。の、飲んでもすぐ消化するわけじゃないから凄まじい事にはまだならないとは思うんだが」
「お、お主、結魂晶は!? なんか盾を出せ!」
「さ、さっきので最後だ」
「役に立たん奴じゃのぉ!?」
デーブは異界の魔術師を抱えて走り出した。
「やっとられるかーーーーっ!?」
デーブが壁をぶち破って現れると、アイゼッツォンが声をかけた。
「おい、デーブ君、今の音は何なんだ?」
「それは後じゃ!? おい、おい、ロードフリフ!? 聞こえとるか!?」
(やだなぁ、フランティスカ。はっはっは)
「女とイチャコラしとる場合かーーーーーっ!?」
(すすす、すまない!! ど、どうしたんだ!?)
慌ててロードフリフが言いなおすとデーブは事情を説明した。
「……というわけでオカマスキー・デラックスが加護を飲み込んだんじゃ! お前さん神術にも明るいじゃろう!? 何か分かるか?」
(た、多分、そのまま放っておくと、オカマスキーがどんどん大きくなって、この街が潰れる……)
総員、物凄い静かになった。
「やるしかないんかーーーーっ!?」
「うわーっ!? 俺は置いて行ってくれ―――!!」
「置いとけるかボケ――!!!」
そのまま魔術師を抱えたまま、三人は元の部屋へ向かう。
「う、うわ、これはひどいな」
アイゼッツォンが汚物でも見るようにオカマスキー・デラックスを見ている。
「アイゼッツォン。いけるか?」
「一応、やってみる」
アイゼッツォンはオカマスキー・デラックスの胴部をやたらめったらに切り裂き始めた。
「あぶらららああああああああっ痛いいいいいいいいいっ!?」
オカマスキー・デラックスは聞くのも堪えない叫び声を上げ、びしゃびしゃと体液を散らす。
「うわ、きちゃない」
「……あのな」
だが、服を含めた全てが、うぞうぞとすぐ再生した。
「これ、これをどうにかせんといかんのか?」
「……攻勢妖精を貸す。デーブ、もうあれをやるしかないんじゃないか?」
アイゼッツォンの言葉に、デーブは頷いた。
「そうじゃな?」
「あの金貨の魔術か? あの程度じゃはっきり言って無駄だぞ。言えたことじゃないがあの再生力は異常だ。もう手が付けられない」
魔術師の言葉にデーブは首を振る。
「分かっとるわい。金貨なんぞワシは価値があるとは思っとらん、あれは予備の手段じゃ」
「ほ、ほかに何を捧げると言うんだ?」
そう言われると、デーブは前へ一歩進み出た。
「なぁにをしても無駄よぉ。アタクシは無敵、すべてを蹂躙してぇ、良い男と楽園を作るのぉ」
「ふん、オカマスキーもこの際犠牲者じゃ。助けてやるとするかの」
デーブは腕を捲った。
「ワシが捧げる!! ワシの大事な!!」
デーブの全身が一瞬だけ、肥大化した気がした。デーブの服は魔法のフリーサイズなので破れたりはしない。
「脂肪!!」
デーブが少し痩せた気がした。
「えっ?」
異界の魔術師が驚く。
「体重!! コレステロール!! 血中糖度などなど!!」
めきめきとデーブが音を立てて変化していく。異界の魔術師が驚きのあまり声を上げる。
「あ、あああ、デブが、デブが……どんどん美男子になっていく!?」
デーブにさらりとした髪の毛が生えすらりとした筋肉質の体が見える。デーブの服は魔法のフリーサイズなので、脱げることは無い。
「な゛なな……なんで、髪の毛まで生えるのよぉーーーーーーっ!?」
とうとうオカマスキー・デラックスまでツッコミを入れた。
「ワシが知ったことか―――――いっ!!!」
デーブがオカマスキー・デラックスの鳩尾に張り手をぶち込む。するとオカマスキーの体が浮き、悶絶する。そのまま勢いよく口からピンク色の結晶体が吐き出され、それが空中で割れ街に一斉に物凄い春が訪れるのだった。
オカマスキーは急激にしぼんで倒れる。
「な、なんで、なんでこの加護に価値がなくて……デブの脂肪に価値があるんだ」
「それは私にも分からない」
アイゼッツォンは遠い目をして穴の開いた部屋から空を見るのだった。




