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メタボリックデブロード~豊食の世界の愉快な隣人たち~  作者: 深月 優
スラム街に巣食う別に悪くないギャング団
11/17

ホモノビッチ兄弟とホネロック兄弟

 オカマスキーは夜会で歯を噛んでいた。


「んもぅ、最近景気が悪いったらないわ。どこかにウマい話は落ちてないのかしら」


 都会に出てからというものどうもケチがつき始めていけない。それもこれもあのデブのせいだとオカマスキー・ホモノビッチは考えた。


 実際には、稼ぐ以上にファッションに金を使いすぎているのが原因なのだが。


「最近警戒されてんのか、まったく商売が上手くいかへんで」


 ゼニスキー・ゼニババロスはまったく同じことを考えていた。これはそろそろ何か新しい事業を考えなくてはいけない頃合いだ。


『って』


 二人は一瞬すれ違って、振り返った。


「あらまぁ!? ゼニスキー兄さん!!」


「お前はオカマスキーの弟やないか!?」


 周囲は、それを見て『うわぁ』と思った。


「最近見ないからくたばってたと思ったらお兄さんったら貴族になってたのね!? まぁ、この国の貴族も底が知れるわ!?」


「お前はんも貴族になったっちゅーことはこの貴族社会の品性もたかが知れとるな!」


『はっはっはっは!!』


 お互いに馬鹿笑いをして殴り合う。背が低すぎるゼニスキーはオカマスキーの腹を。背が高すぎるオカマスキーはゼニスキーの頭を殴った。


「おい、あれ……?」


「ロードフリフ関わらん方が身のためじゃぞい」


「まったくその通りだね」


 一部始終をデーブとロードフリフ、アイゼッツォンは見ていた。





 しばしして、二人は夜会で飲みあっていた。ワインの瓶を互いにかっさらって来ての直飲みである。


「しかし、気が付かなかったわ。兄さんが貴族になってるだなんて、名前どうしたのよ。ホモノビッチ姓はいなかったと思うけど」


「おう、今のわいはゼニババロスや。名前安かったんで買うたったんや。ホモノビッチなんて下品な名前わいには合わへんからな」


「そう? ホモノビッチ。悪くないじゃない」


「ホモノビッチ家はお前はんが継げばええやろ」


「やだぁ! 私子供なんて残す気ないわよ!! 男の子は欲しいけど!!」


 バンバンとオカマは小デブの背中をぶっ叩いた。小デブはワインを吹き出し空中にきらめく夜の虹を作る。汚い。


「なにすんねん、相変わらず暴力的なオカマやな!!」


「まぁまぁ、で、さ。アタシいまお金無いのよ。稼ぐ当てはあったんだけどフイになっちゃってさ」


「ケケケいい気味や。……せやかてわいかて景気の良い話は無くてなぁ。これから新しい事業起こそかと思ってたところやねん」


「なんだ。そっちも大して変わってはいないのね聞いて損しちゃったわ」


 互いに大きくため息を吐く。


「新しい事業始めようにも、この街の海運牛耳っとるデブに目をつけられてもうてるから、なかなか難しいねん」


「デブって、デーブ・デーブ? あら、あなたもそこで引っかかっちゃってるのね」


「かといって、勝ち目はありまへんで」


「……兄さんは早々に家を出て長らく経つけど、勝つだけがホモノビッチ家とは、違うくない?」


 二人は顔を合わせ、ニンマリと笑った。





 街にも、闇の部分はある。


 スリ、かっぱらい、泥棒に強盗に詐欺。食べるには困らないのだが、人はやはり上を見た時に安易な犯罪に頼ってしまうことも多い。


 そして、それらから汁をすする存在もある。


 ワンニャンコ・ギャングスター。裏社会のボス。


 この街の悪を治める実質の裏の支配者である。


「……その地位をかっさらっちゃおうってわけ? ちょっと大胆過ぎない?」


「わいも一人ならそんな計画立てまへんがな。けど、あんさんは似たようなことをしてた経験があるでやっしゃろ?」


 オカマスキーは唸って、渋い顔をしつつも頷く。


「まぁね、でも、私は田舎の大将よ? 都会のボスとは勝手が違うんでなくて?」


「その辺はブレインを雇い入れるねん。幸いそれくらいの資本金はおま。わいが金を出してあんさんが実働、どうでっしゃろ?」


「それ、兄さんは不労収入ってこと? 美味しすぎない?」


 ゼニスキーは手でお金のマークをジェスチャーすると言う。


「わいかて働かないわけやおまへん。その間のバックアップしまんがな。それにわいはそっちから美味しい仕事を貰ろうたらそれでええ、っちゅーことでどないや?」


「そうねぇ、ガーリック、エロッス」


「呼んだガリか?」


「いーっひっひ、なんですかね」


 デコボココンビが現れる、一時は生死が危ぶまれた怪我は完治したらしい。


「お前たちワンニャンコについてどれくらい知ってるの?」


「ひっひ、あっしらはモグリのワルですからそれほどは知りませんが、それでも圧力がかかってくる程度の大物で間違いないですよ」


「結構嫌がらせとかされるガリね」


 オカマスキーは扇を口元に当てて、少し考えた。


「何か思いついたでっか?」


「そうね、あのデブ。今度は利用してくれやがりましょう?」


「そうでんな」


 二人でニヤニヤと笑っている様を見てデコボココンビはなんとなく嫌な予感がした。





「もぐもぐ、旨いな、フライドチキン」


「私はもう、流石にいっぱいです……」


 最近デーブはフライドチキンにはまっていてそれにニノンも付き合っていた。今日も朝から食べ歩いていて、もう胸焼けがする。マイヤーさんではないが健康にも気を使ってほしいとニノンは思う。


「そう言えば、フランティスカの実家が近いな」


「ええ、そう言えばレストランでしたっけ?」


 ニノンはなんか嫌な予感がした。


「ランチが近いし食べて行こう」


「ランチを食べるんですかっ!?」


 手元のフライドチキンを飲み込み、油にまみれた指をしゃぶりながらデーブは答える。


「うむ、あそこのトンカツとステーキのセットを食いたい気分じゃ。こうも朝からフライドチキンばっかりではな」


「肉を全種一日で制覇する気ですか!?」


「何か問題があるかの?」


 ニノンはなるほどと思いマイヤーの気苦労を知った。デーブはいつまでたっても健康のけの字も気にしないのだ。


「あんまり大盛りはなしですよ? 少し食べていきましょう」


 ただ、マイヤーと違うところは、ニノンはデーブに甘いのだった。





「な、なんじゃこりゃーーーーーー!?」


 デーブは絶叫した。レストランはボコボコに荒らされており、今まさに暴漢の暴行が主人に及ぼうとしていたところなのであった。


「ヒャッハー! ワンニャンコ様に金を納めないとこうなるんだ!! 見せしめに腕を折ってやるぜーーー!!」


「止めんかバカモーン!!!」


 バチコーンと叩くとゴロツキは星になった。


「逃げろ逃げろ!!」


「これ以上は割に合わねぇぜ!!」


 届かないところで乱暴をしていたゴロツキたちもわらわらと逃げていく。


「くそっ、顔覚えたからあとで見とれよ」


 デーブは悪態をつきながら、店主を助け起こした。


「一体、どうしたんですか?」


 ニノンは助け起こした店主に話を伺う。


「いや、どうしたもこうしたも。『ワンニャンコ・ギャングスター様に金を払わないとぶち壊すぜー!』っていきなり壊し始めたんだ。今までそんなことは言われなかったし、金を払う準備もしたのにさ。これじゃ営業できないよ」


「ワシのカツは!? ステーキは!?」


「無理だよ、かまどは真っ先に壊されちゃった」


 店主の言葉にデーブは激しいショックを受けた。


「な、なな、なんじゃとーーーーー!!!」


 ダッシュで壁から走り去っていくデーブ。


「あ、また壊れた。これはもう建て替えたほうが早いかなぁ?」


「あはは、すいません……」


 苦笑いするニノン。そこに、フランティスカが声をかける。デート帰りだろうか、バラの花束を壊れかけのテーブルに置いた。


「ねぇ、酷いことになってるんだけど、どんな化け物が喧嘩したの? あ、あら、ニノンちゃんこんにちはー」


「こんにちは、ええと」


「良いの良いの、店の前で大体の話は聞いたから……で、思ったんだけど、ちょっと都合が良すぎない?」


 え? とニノンは首を傾げた。





 ワンニャンコ・ギャングスターのアジト。


「どうした、騒々しい。うちの子たちが怯えているだろうが」


 浅黒い肌にスキンヘッド、そして膝には猫三匹犬二匹。


 名前の通りワンニャンコは動物愛好家であった。犬猫を埋もれるように飼っている。悪の道に足を突っ込んだのも、すべては彼らのエサ代を稼ぐためだった。


「へぇ、なんか物凄い速度でデブが、いえ、デーブ・デーブが向かってきているんです。何か手下が刺激したんではねぇかと」


「なんだと? スラムの飲食店にはあれほど手を出すなと言っただろう? 誰か破ったやつがいるのか?」


 ワンニャンコは基本的に飲食店には手を出さない。なぜならその関係でデーブに殴りこまれ、壊滅しかかったことが何度かあったからだ。


「今すぐ手出しした奴を調べて、デーブの前に送り付けろ。あとは俺が行こう」


「親分!?」


「何、誠意を持って謝れば許してくれるさ」


「親分!!」


 案外、仁義に篤いのだった。





「あらぁ? アジトからデーブが出てきたわね、壊滅するまで暴れまわると思ったのだけど。妙に上機嫌ね」


「そうやな。これは、まずいんとちゃいまっか?」


「お前ら、ここで何をしてんだ?」


「そそそ、そうだ、俺達はそいつらに雇われたんだ!」


 二人は、すでにゴロツキたちに囲まれていた。


「なんか、絶体絶命っぽい感じがするんだけどぉ?」


 絶体絶命だった。





「と言うわけでの。たっぷりごちそうになってきたわい。そうじゃ、レストランの修繕費用も貰って来たぞい。ほい、使い込むなよ」


「あたしもそこまで親不孝じゃないわよ。んで、それでまだ食べてるんだ」


「カレーはドリンクじゃ」


 ずぞぞぞーと飲み干すデーブ。ニノンも呆れている。


「後でマイヤーさんに怒ってもらいます」


「怖いこと言わんでくれ。好きなもん食べて良いから」


 ニノンは口元を押さえて断った。


「もう食べ物は良いです。というよりデーブさんと同じ胃袋持った人なんてそうそういませんよ」


「はい、レモンスカッシュどうぞ。さっぱりしますよ」


「ああ、物知りのロミオさんありがとうございます」


「まぁ、俺達骨だからもう胸焼けどころか物が食べられないんだけどな!!」


 ホネロックのスケルトン自虐ギャグが炸裂したところで扉を激しく開けて二人の男が入ってきた。


「ひっひぃっ!! す、すまねぇ、デーブさん助けてくれ!!」


「お、親分が大ピンチでガリよ!!」


 駆け込んできたのはエロッスとガーリックであった。


「……誰じゃ?」


「ああっ、しまったでガリ!?」


「ひぃっ!? 直接の面識がない!?」


「あ、あんたたちは!?」


 ホネロックが慌ててカウンターを飛び越えて二人に駆け寄る。


「エロッス兄さんにガーリック兄さん!?」


『お前誰!?』


「そりゃそうじゃろう」


「そりゃそうよね」


「骨ですものね」


 人間組は辛辣だった。





「つまり、この二人はホネロックの兄弟というわけね」


 一応の自己紹介を受けて、うんざりした顔でフランティスカが言う。


「エロッス、ガーリック、ホネロック」


 ニノンが難しそうな顔をして指折って数える。


「なんか親にコロッケとか居そうな勢いじゃな」


 デーブはコロッケカレーを食べていた。


「いーっひっひ、ホネロック、お前、スケルトンになっちまったのかぁ!!」


「ガリガリキャラの俺のキャラとか吹っ飛んでしまいそうな勢いでガリね!」


「おう、俺もスケルトンになるとは思わなくてなぁ! 物知りのロミオ、兄さんたちだぞ!!」


「なんじゃ、物知りのロミオも関係者なのか?」


 隅っこでガタガタ震えているロミオがいた。


「ご、ごめんなさい、俺、エロッスさん苦手で」


「ん? 物知りのロミオ、なんでなんだ?」


 いちいちカチャカチャ骨ポージングをしながら言うホネロック。


「だって、エロッスさん会うたびにセクハラするから」


「いーっひっひ、だって、お前、良いケツしてるじゃねぇか。あのケツ無くなっちまったのはもったいないな、もうセクハラしねぇよ」


「いや、骨じゃからな。……って、物知りのロミオ、お前さん女じゃったのかーーー!?」


『えええええっ!?』


 付き合いの浅い人間は、物凄く驚くのだった。




「驚愕の事実が多すぎるがそろそろ本題に入らんか?」


 揃ってお汁粉を飲みつつ、全員がはっと気が付いた。家族の話題で盛り上がっている場合ではない。


「ひっひいっ、そんな場合ではない!!」


「そうだったガリ! 親分が大変なんだガリ!」


 いやな予感を感じつつデーブはお汁粉を飲み干した。吹きたくないのだ。


「親分って誰じゃ?」


「お、オカマスキーの親分でガリ!」


 デーブは渋い顔をする。


「やっぱりオカマスキーかい」


「いーっひっひ、兄貴のゼニスキーもピンチなんでさぁ」


 フランティスカも渋い顔になった。


 ニノンだけがハラハラと心配している。


「まぁ、そいつらが死んでも……」


「ワシら的には、案外……」


 辛辣な二人に子分二人が泣きつく。


「そ、そんなこと言わないでガリ―!!」


「お、オカマスキーさんがいなかったら、いっひっひ、ヤ、やわらけぇ」


「どさくさに紛れて触るな! 金取るわよ!!」


 エロッスは蹴り飛ばされる。


「お願いでガリ、頼る人がいないでガリよー」


「デーブさん、ちょっとかわいそうですよ?」


 ニノンが言うと、デーブは大きなため息をついて言った。


「しょうがないのぉ、話を聞いてやらんでもないぞ」





 数分後、ホネロックとロミオは震えていた。ガチャガチャと骨の鳴る音が響く。


 ニノンも(これはどうしたらいいんでしょう)って顔で一歩引いている。


「……と、言うわけでさぁ」


 話は完全な自業自得であった。というか、話を聞く限りではデーブとフランティスカは完全に被害者である。放って置かれても仕方がない。


「これは……助け出してやらんといかんのぉ」


「そうねぇ、ほんとうにねぇ」


 しかし、二人は燃えていた。ニノンは言わなければよかったと思った。


 助け出す動機が紛れもなく私怨だったからだ。




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