第七幕 死と願い
ついに、7幕目。
長かった…。
それからヒカゲは日を追って衰弱していった。なぜなら今まで勇者たちと幼なじみだからと自重していた兵士たちが監視という名目でヒカゲに暴力を振るったり、暴言を吐いたりして、制裁とは名ばかりのストレス発散としていたからである。しかも食事をワザと出さなかったり、水すらもワザとヒカゲにかけたりしていた。ヒカゲの扱いは、目を見張るようなものだった。しかし、罪を犯したと思い込んでいる者たちは、その行為を咎めるものがいなかった。
(寒い・・・ここに入れられてどれ位経ったかわからないが、まだ生きているのが不思議だ。)
ヒカゲの体は寒さと痛みで感覚を失って、見るからにボロボロだった。ヒカゲはもう声を出す気力がなく、それ以上にマサシたちに見放されて信じてくれなかったことに生きる意味を失っていた。ヒカゲが壁にもたれかかって、俯いていると
『おい、』
いきなり若い男の声が牢屋に響いた。ヒカゲはビクリと体を揺らし、ゆっくりと声が聞こえた方へ顔を向けた。そこには緑の丸い光がふよふよ浮いていた。
『おい、聞こえてんのか?』
ずいぶん口は悪いが。
「き、こえてる。お前は、」
久しぶりに声を出したので、掠れて微かにしか音はでなかったが、相手は気にすることなく
『それはあとでいい。にしてもスッゲー傷だらけ。よく死なないな』
「かんけい、ないだろ」
丸い光はヒカゲの周りをくるくる飛び、
『逃げたいか?』
と聞いてきた。ヒカゲは目を見開いたが、首を横に振った。
『何でた?』
「・・・おれはあいつらにたくさんの迷惑をかけた。今だっておれが余計なことをしなければ、こうしてマサシたちに迷惑をかけることもなく、悲しませることもなかった。あいつらが信じてくれなくても、せめてこれ以上迷惑をかけずに死にたい。」
『ならその命、最後くらい役立ててみろよ』
「どういうことだ?」
『俺は昔、運悪く人間族に捕まり、無理矢理あるところに縛り付けられた。今だからこそ、少し力が弱まって一部を出すことが出来たが、あそこに一人は退屈だ。だからある場所に行って俺を解放してほしい」
「だが、俺は動くことが出来ない」
丸い光が、ヒカゲの左手の枷に触れたとき、パキンと割れた。
『それで、どうする?』
ヒカゲはしばらく考え、ゆっくりと頷いた。
ヒカゲは久しぶりの日の光の余りの眩しさに目を細めた。
『モタモタすんな。行くぞ』
ヒカゲはどんどん進んでいく丸い光を体の悲鳴を無視しながらついていく。しばらくすると城の裏側にある暗い森の前にいた。
『ここは人間族すら余り近寄らない、死の谷。この先に目的地がある。』
ヒカゲがその森に入ろうとしたとき、後ろから飛んできた何かが顔を掠め、木に刺さった。見るとそれは鋭い氷の塊だった。後ろをみると、パルノ王女とクスィパス王、マサシたち、キノレとキノフ、そして何人かの兵士が手を構えていた。多分氷魔法を飛ばしてきたのだろう。
『チッ。もう見つかったか』
ヒカゲはマサシたちと向き合う。
「・・・ヒカゲ、やっぱり逃げるんだな」
「私たちは罪を認めてくれるって最後のほんの少しだけ信じていたのに。」
「クスィパスさんとパルノさんに頼んで、ヒカゲくんが逃げたら僕たちが捕まえると言いました」
「もうヒカゲくんは犯罪者なんだね。だからわたしはヒカゲくんを信じることができないよ」
ヒカゲはユメの言葉を聞いて、丸い光に向き直る。
『どうすんだ、このままだと・・・』
「緑の光、このまま真っ直ぐ森の中を進めばいいのか?」
『そうだが、』
ヒカゲは緑の光を手で包み、走り出した。彼らはまさか逃げるとは思わず、一瞬遅れたが「あの罪人を捕らえなさい!」
彼らはヒカゲの後を追い、マサシたちとキノフ、キノエが先に、何人かの兵士はクスィパスとパルノを守りながら進んだ。
『おい何しやがる⁉︎俺を離せ!』
しかしヒカゲは丸い光のこえを無視して、ヒカゲはからだを引きずりながら走った。例え後ろから氷の矢や他の魔法を体に掠めたりしながら、体を動かすことすらもう限界なのに、素足で森を走っているため足の裏が地だらけになろうとも、ヒカゲは走り続けた。
丸い光はヒカゲがこれほど一生懸命走っている姿に疑問を抱いた。
『何でそこまでする?俺とお前はさっき知り合ったばかりだ。何でそこまで一生懸命はしる?』
ヒカゲは木々を避けながら、
「あいつらはもう俺のことは気にすることはない。なら今俺は自分で考えて、自分の意思で出来ることをやるだけだ。例えそれがあいつらにとって裏切りになるとしても。
それに、」
丸い光が手の隙間から見たヒカゲの顔は淡く輝いていた。
「おまえが俺を頼った来たんだ。絶対頑張るさ」
『テメエはそれでいいのか』
「最後にお前の役に立てるなら、いいじゃないか」
『ちげぇ。あの国をあのままにしていいのか?』
「なにが?」
『は?』
ヒカゲは本当に何を言っているかわからない顔をした。
『恨んでないのか?』
「だってそれは俺が悪かったんだ。信用されず、役立たずで、運すらダメなら誰でも愛想を尽かす。それに恨んでる時間がもったいない。
丸い光は下(?)を向く。
「それに、あいつらといたことは嘘じゃなく楽しかったから」
それから会話なく走った。丸いひかりは今までうるさい位が騒いでいたのに黙ったまま、ヒカゲはこれ以上体力を奪われないように口を閉じた。
「もうすぐだ」
暗い森のなかに少しづつ光が射し込んできた。うしろからは巻いたのか、攻撃してこない。ヒカゲが森から出るとそこは断崖絶壁だった。
『この下に目的の場所がある』
〈居たぞ‼︎〉
「やばい見つかった」
ヒカゲが振り返ったそのとき、
ザクッ、ドスッ
「え?」
なんとヒカゲの右目に氷の矢が当たり、さらに後ろから剣を刺されていた。ゆっくり振り返ると後ろにはマサシがいて、剣を握っていた。
「ガフッ、ガハッ」
剣が抜かれ、よろける。
『おいどうした!』
丸い光は手から飛び出し、ヒカゲを見ると右目に短い氷が刺さり、胸が真っ赤に染まり、口からは血を吐いていた。
『お前・・・』
ヒカゲはよろめき、後ろに下がる。しかしそこに地面はなく、ヒカゲが最期に見たのは幼なじみたちが無表情で自分を見ている姿と丸い光が慌ただしく飛んでいる姿だった。
あぁ、死ぬんだな。
まさか、あいつらに殺されるとは思わなかった。
死んでも別にいいやって思っていたのに。
どうして、視界がぼやけるんだろう。
どうして、涙が出るんだろう。
信じて欲しかったのに。
大丈夫だよって言って欲しかったのに。
俺には、誰も本当に信じてくれる人は誰一人いなかったんだ。
これで最期なんだから願ってもいいかな。
もし、もし叶うなら・・・
「家族が欲しいなぁ。血が繋がってなくても信じ続けてくれる家族が。それで家族とたくさん旅をして、色んなものを見てみたいなぁ」
ヒカゲはそう言って、目を閉じた。
『その願い、俺が叶えてやる』
心苦しくも、死なせてしまったヒカゲ
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