第七十幕 ナーシャは決意する2
今少し、猶予があるため、なるべく更新していきたいと思っております
よろしくお願いします
そこにいたのは、ロングスカートのメイド服を着た、ナーシャだった。
本来アストゥーク家では、メイド服を着るということは、召使える主人が見つかったということ。
家族総出でお祝いしうるほど、喜ばしいこと。
しかし・・・
「なんの冗談だ」
父と母の目は怒りに満ちていた。
「冗談などではありません」
ナーシャは驚くほど、冷静に2人を見据えていた。
「貴女は今、自分が何をしているのかわかっているのですか!」
「この服の重みは充分承知しております」
「では、アストゥーク家に泥を塗ると?」
「違います」
「では、私たちに対する嫌がらせかしら?」
「違います」
「では一体なんなんだ‼︎」
ナーシャは目を閉じて、手を胸の上に置いた。
自分でも驚くほど、冷静になっている。
けれど心臓の音がうるさい。
体が震える。
2人の怒気に、足がすくむ。
今までは怖くて、何も考えずに、従った。
でも、それじゃあダメだって気づいた。
だから、だからこそ私はここに来た。
自分の思いを伝えるために。
目を開け、両親を真っ直ぐに見据える。
「私は、とても素晴らしい主を見つけました」
「彼の方の側にお仕えするために、旅をしたいと思います」
「今までありがとうございました。どんなことがあろうと、私はこの家から去ります」
「これは、私の覚悟です」
今こそ、思いをぶつけ合う時。
さあ、存分に話し合いましょう?
しかし、彼らの心にナーシャの想いは届かない。
「やはり、貴女は自分の立場を理解していませんね」
母親は吐き捨てるように言葉を吐き出す。
父は深いため息をついて、言葉を続ける。
「お前はただでさえ、一族の中で弱いのに、更に攻撃魔法が使えず、弱いものたちが使う防御魔法しか使えなくなってしまった。仕方なく、ルガの影武者として、今まで育ててきた。その恩を忘れて、アストゥーク家から出て、泥を塗るだと?」
ガンッと拳を机に打ち付け、立ち上がる父親。その顔はアストゥーク家の当主してでもなく、父としてもなく、怒り狂った男がそこにいるだけだった。
「「父様‼︎」」
あまりにも話を聞こうとしない父親を見かねたルガとナンシェは止めに入ろうとするが、母が間に入る。
「なぜ止めるのですか!」
「そうです!早くお父様を止めないと、」
しかし母は、この場に不釣り合いなほど!穏やかな笑顔を二人に向けていた。
「良いのですよ」
「何を言って、!」
「あの子は些か、我が儘が過ぎます。主人を見つけたなんて狂言を吐くなんて。貴方達はあの子ののために、気を遣わなくて良いのですよ」
「我が儘って、」
何を言っているのかわからなかった。
ただ、ナーシャの想いが何も届いていないことに気づいたナンシェは、ナーシャのために立ち向かおうとする。ルガもナンシェの側に行こうとするが、足が動かない。見ると、緑の沼に足を沈めていた。
「《沼地獄》」
母が魔法を使う。
「母様!」
「何も心配いりません。お父様が納めてくれます」
「今すぐにその言葉を撤回しなさい」
「父様!話を聞いてください!」
「聞くことなど何もないぞ。戒め持ちなぞ、家から出すわけにはいかない」
「ですから、主を・・・」
「お前の狂言に惑わされる私ではない!」
「狂言ではありません!本当に見つけたのです!」
「まだいうか!」
父は近づいて、ナーシャの腕を掴む。
「父様!」
「外の世界へと行くから無駄な知識を身につける。お前に必要なのは、影武者としての知識だけだ。今後、この家から出ることは許さん!」
「離して!」
無理矢理腕を引っ張り、部屋から出て行こうとする父親。
「ナーシャ!」
「ナーシャ姉様!」
ナンシェは実の親であるからこそ、二人にナーシャの想いが通じると思っていた。
しかし、いくら話しても、二人はナーシャを影武者としか見ていない。
魔法でナンシェとルガを足止めするほどだ。
二人は何がなんでも、ナーシャを家から出さない気でいる。
「ならば、父様、母様であろうと」
ナンシェが《氷結せし純粋なる弓》を取り出そうとした時だった。
ガシャーンッッッ‼︎
広間の奥にある窓が割れた。
バザバザとカーテンが揺れ、月夜の光にとともに誰かが立っていた。
「何者だ!ここがアストゥーク家と知っているのか!」
父はナーシャの腕を離し、侵入者の方へ向きを変える。
パキリ、パキリと割れた窓ガラスを踏みつけ、広間へと入ってくる。
「下がりなさい」
母も警戒をし、ナンシェとルガを守るように前へと出る。
「知っている。だからこそ、ここへ来た」
その声に、ナンシェとルガは安堵のため息を。
そしてナーシャは驚きに息を呑む。
そこにいたのは、
「ナーシャ」
ナーシャが、心の底から主になってほしいと願う、人間族。
ヒカゲがいた。