第六十六幕 とけた誤解
「ぱぱ!」
扉を閉めると、ティナはヒカゲに飛びついた。ヒカゲは難なく受け止め、ティナを抱きかかえる。ヒスイは当たり前のように肩によじ登り、ふんぬとこちらを威嚇する。そしてフィロスはヒカゲたちと全能神の間に入り込み、睨みつける。
「さて」
ヒカゲは全能神の方に向き直った。
「彼女たちは今そっとしておくとして、俺たちのことはどうする?」
全能神は顎に手を当て考えていると、バサリと翼の羽ばたく音が外から聞こえた。見ると紫の翼を持った聖天使の二人の少年少女が神の前に跪いた。
「《慎重》を司る聖天使が一人、エペメリス・カウトス」
「《忠実》を司る聖天使が一人、
「「ただいま戻りました、全能神様」」
「勇者たちの動きがありましたため、ご報告をいたします」
「このような場所での報告をお許しください」
「構いません、勇者のことならここにおりますので」
その言葉に、二人は顔を見合わせる。
「ですが、私たちは人間国・グロールアから旅立った四人の勇者の情報をお伝えしに来たのですが」
全能神は目を見開き、ぎこちなくヒカゲのほうを見た。
「だから言っただろう?俺は勇者ではないと」
ヒカゲは顔色一つ変えず、ポツリと呟いた。
「すみませんでした」
神の間に戻り、頭をさげる全能神と聖天使たち。
「いや、構わない」
ヒカゲはどうでもよさそうに返事をする。
ちなみにヒスイ、ティナはヒカゲの後ろに控えているが、フィロスは依頼主に依頼完了の知らせをしに向かわせている。
「しかし、そうなると貴方は何者なのですか?」
全能神はベールの向こうで不思議そうな声を出す。それは聖天使たちも気になったところだった。全能神が間違えるはずがないと考えていた聖天使たちは、どこで歪みが生じたのか、その問いに耳を傾けた。
「確かに俺は異世界から来た。それは確かだ」
「ならば・・・」
「ただし、“元”がつく」
「“元”?どういうことですか?」
ヒカゲは事情を説明しようか迷ったが、まだ余り言わないほうがいいだろうと言葉を濁すことにした。
「それに関しては色々あって、事情を説明することはできないが、元・異世界者になっていることは確かだ。それと、魔力に関してだが」
言葉を濁したことについて、全能神は特に気にすることなく、聞いてはこないことに内心安心するヒカゲ。それから自分のステータスカードを出す。透明のステータスカードを見て、全員が目を見開いた。
「なるほど、見えないわけです。それは無属性と魔力なしに該当するカードですね」
最高神は納得したように頷く。
「信じられない。まさか魔力なしに遅れをとるなど」
《真実》は信じられないような顔をしてヒカゲを見る。
「なるほど、だからあの魔法が効かなかったんだね」
《勇気》は面白そうにニヤニヤする。
「ほう、魔力がないがしっかりとその他のもので補っておる」
《知識》は感心したような声を上げる。
「「・・・」」
《慎重》と《忠実》は興味なさそうにしている。
それぞれの反応にヒカゲは何も答えることなく、カードをしまった。
「わかりました。貴方の事情はわかりませんが、何らかの理由があることを知ることができました。今はそれで良しといたしましょう」
全能神は心の中の疑問を口にしたかったが、今は急ぐ時ではないと蓋をした。
「誤解が解けたなら俺は構わない。依頼人を待たせているしな」
「はい、こちらの勘違いで本当に申し訳ありません。何か私にできることはありませんか?」
ヒカゲは顎に手を当てて考えた。
「ひとつだけ、お願いしたいことがある」
「それはどんなお願いですか?」
「実はもう一つ依頼を受けている」
そう言うともう一つの依頼の内容を話した。
全能神はコクリと快く引き受けてもらえたことでヒカゲはお礼を言う。
「《愛》、この方を下町までお見送りを」
《愛》は跪き頷いた後、そして嬉しそうにヒカゲの手を引いて神の間を出て行った。
それでと全能神は《忠実》と《慎重》の方を向き、口を開く。
「勇者たちの情報を教えてください」
二人は顔を見合わせ、それぞれ口を開いた。




