第六十四幕 ナーシャ思い出す
ナーシャがついに思いだします
振り返るとそこには一人の人間族のおばあさんがいた。
警戒するナーシャ。しかし、羽根が引っかかって動けない。
動かないナーシャを不思議そうに見た老人はナーシャの羽根が引っかかっていることに気がついた。
『あら大変、ちょっと待ってて』
そう言うとおばあさんはナーシャに近づいていった。ナーシャは後ずさりしようとする。それを見たおばあさんはナーシャと同じ目線までしゃがんだ。
『大丈夫よ。貴女に危害を与えるつもりはないわ』
ナーシャは訝しげにおばあさんを見て、動きを止めた。そして老人はゆっくり近づき、葉をゆっくり撫でていく。
『この枝は“びっくり草”といって、驚くと葉を閉じてしまい、枝が鋭くなるの。だから葉を一枚一枚ゆっくり撫でていくと次第にはの閉じる力が弱くなり、枝も元に戻っていくの』
おばあさんは羽根を一枚一枚丁寧にとっていく。
いつの間にか夕方になり、辺りを赤く染める。
『出来た』
やっと最後の一枚を取ることができ、ナーシャは動くことができるようになった。ナーシャは改めておばあさんを見る。おばあさんはまるで自分のことのように嬉しそうに笑っていた。しかし手を見ると取る時に枝で傷つけてしまったのか、傷だらけだった。
『その、ありがとうございます』
ナーシャが申し訳なさそうに手を見ていることに気がついたおばあさんは手を振る。
『これくらい大したことないわ。それよりも早く帰らなければ両親が心配するから、早くおかえり』
ナーシャは家まで送るといったが、おばあさんにやんわりと断られ、仕方なく一旦帰っていった。
これがナーシャとナーシャが初めて出会った人間族との出会い。
次の日、ナーシャは中央国・ケントルメを歩いていた。本当は飛ぶほうが良かったが、目立ってしまうため、仕方なく歩いていると、ガラの悪そうな人間族の男にぶつかった。男は訳がわからない理由をいって、ナーシャの腕を掴んで無理やりどこかへと連れて行こうとした。ナーシャが自分が使える簡単な攻撃魔法を使おうとした時、男が何かの衝撃によって吹き飛ばされた。
『なにをやっているのかね。男がお嬢さんに乱暴をして』
後ろには杖をついたあの時のおばあさんがいた。男は悪態をついて、どこかへと走っていった。
『全く近頃の若い者は礼儀がなっていないと思わんかね』
おばあさんがこちらを見た。
『おや、昨日のお嬢さん。あんまり一人で出歩くものじゃないよ』
ナーシャは声を掛けられ、気を取り直し、頭を下げた。
『一度だけでなく、二度も助けていただき、ありがとうございました』
『いいのよ。ただの物好きなおばあさんのお節介だから』
ナーシャは一旦頭を上げて、おばあさんにお菓子の詰め合わせと、治癒の魔法が混ぜられているハンドクリームを差し出した。
『あの、この間のお礼と、怪我をした手に』
ナーシャは包帯が巻かれている手を見て答えた。
『あら、こんなに』
ナーシャはもう一度頭を下げ、帰ろうとした時、おばあさんに呼び止められた。
『もしよければ、私のお家に来ない?』
『え?』
ナーシャは目を見開く。
『実は一人で暮らしていてね、こんなに一人じゃ食べきることができないから。一緒にお茶して欲しいの』
『しかし、』
ナーシャは助けていだだいただけでなく、家に招待までしてもらうのは、図々しいのではと考えていた。その考えを感じたのか、おばあさんはナーシャの手を引いた。
『それに一人で食べても美味しくないわ。私の我儘だと思って、ね』
そういったおばあさん。ナーシャの断るという選択肢はなくなった。
それから何回もおばあさんの家へ行き、お茶をするようになったナーシャ。
しかしそのあと、自分の首にかけていたペンダントがなくなっていたことに気がついたナーシャはおばあさんに会いに行くついでに探し回った。
おばあさんにあっていることは家族からは反対されると思い、隠れながら通っていった。ペンダントのことも黙っていた。
こうしてナーシャは、おばあさんはたくさんの旅の話や薬草の話、おばあさんの魔法から色んな魔法をそして家族の話の話をしてくれた。
おばあさんには息子がいるが、息子は亜人族の娘と恋に落ちた。おばあさんは反対するつもりがなく、了承しようとした。しかし、息子は人間族の差別の考えがわかっていたため、結局家を飛び出すように出て行ってしまった。
『私はね、息子が幸せだったらそれでいいと考えていたの。そしたらそのあと、何年かして、息子が孫と奥さんを連れて帰ってきたわ。勝手に出て行ってごめんって。だから一緒に住まないかって』
『それでは、』
しかしおばあさんは首を振った。
『私もね、一緒に住みたいのだけれど、この家はあの人との思いがたくさん込められている大切な場所。簡単に捨てられるものではないの。だからもう少しだけ、ここにいたいの』
ナーシャはおばあさんの話を聞いて、あの家だけ自分の世界ではないことを知った。だからこそ、もっと自分の世界を広げたい、自分の目で見たいと思うようになっていた。旅することによって、自分は姉様に、一族に認められるのではないかとも考えた。しかし、一族は決して自分を離すことなく、あの家に縛り付けることはわかっていた。だからこそ、悲しくもあり、おばあさんの家族が羨ましくもあった。
そんなある日、一族に人間族とあっていることがばれそうになっていた。一族はナーシャの行動が怪しいと家に閉じ込めたり、監視をもした。それでもナーシャは毎日何とか、一族の監視を掻い潜り、おばあさんの元へと通い詰めた。
しかしついに、一族に通いつめていることがばれ、捕まってしまった。さらに、首にかけていた一族の当主である証のペンダントをなくしてしまったこともバレ、そのことで家から追い出され、見つけてくるまで帰ることを禁じられた。
ナーシャはその日もペンダントを探した。魔物に襲われたときに落としてしまったんだろうと考え、その場所をくまなく探した。
そうして何日も探していたとき、肩を掴まれた。振り返るとおばあさんが心配そうにして、ナーシャを見ていた。どうやらナーシャが来なくなったことが気になり、探しに来たという。その暖かさにナーシャはおばあさんにしがみついて泣いた。おばあさんは何も聞くことなく、ナーシャの背中を撫でた。
一旦ナーシャはおばあさんの家に入り、事情を話した。一族のことも、姉のことも、自分のことも、ペンダントのことも。
おばあさんは静かにナーシャの話しに耳を傾け聞いていた。
そうして、ナーシャは話し終えたあと、疲れていたのだろう。いつの間にか、眠ってしまっていた。
目がさめると、知らない天井が目に入る。ナーシャは昨日、話し疲れて寝てしまったことを思い出して、慌てて飛び起き外に出るとおばあさんが庭のベンチに座っていた。
『おばあさん?』
おばあさんはちょいちょいとナーシャに手招きをする。ナーシャが近づくと、隣に座るように催促する。ナーシャが座り、しばらく静かなときが流れる。
『お嬢ちゃん』
先に口を開いたのはおばあさんだった。そしてナーシャの前に手を出すと、おばあさんの手の上には、自分が必死になって探したペンダントがあった。
『これ、』
ナーシャは戸惑いながらおばあさんを見る。おばあさんはすまなそうな表情を浮かべる。
『このペンダントは、お嬢ちゃんと初めて出会ったあそこで見つけたものなんだよ。あのとき、お嬢ちゃんに返すべきだったんだけど、あまりにも急いでいたから返し忘れてしまってね』
『だから見つからなかった』
おばあさんがコクリと頷く。
『そのあとお前さんとまたあって嬉しかったんだよ。あの時、私はお前さんにこういったね、我儘だと』
ナーシャはジッとおばあさんを見つめる。
『この家は古すぎてもう直ぐ取り壊さなければならなくなってね。息子と一緒に住めることは嬉しかったのだけれど、この家を手放したくないと思ったことも事実なんだよ。そんなとき、お前さんと出会った。そして、お前さんが毎日来てくれることが楽しみになっていったんだよ。しかしこのペンダントを見たとき思ってしまったんだ。このペンダントが見つかってしまったら、もうここにきてはくれないのではないかってね。だから返すに返すことができなくなってしまったの。だけどお前さんが必死にペンダントを探していることに気づいて、自分が恥ずかしくなってしまったのさ』
おばあさんはナーシャの手にペンダントを握らせた。
『お前さんは確かに一族に嫌われているかもしれない。しかし、お前さんの周りには本当に嫌っている人たちだけだったかい?いつの間にか自分から壁を作ってしまっていないかい?』
ナーシャはペンダントに目線を落とす。
『このペンダントを必死になって探していたのは、誰のためだい?少し周りを見れば直ぐに答えたは見つかるさ』
『しかし、』
そんなナーシャの手をおばあさんが包み込む。
『大丈夫さ。お前さんの思いはきっと通じるはずよ』
思い出したナーシャ
姉と妹のこれからは・・・