第六十ニ幕 姉の過去
第六十ニ幕ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
姉の語りが続きます
それからナンシェは毎日のように、妹に会いに行った。一族のだれもが、両親さえ近づくなと制止の言葉を振り切って、会いに行った。
そして、もう1つわかったことは、妹には攻撃魔法ではなく、防御魔法が高いということ。
ナンシェが気まぐれで教えた、防御魔法は攻撃魔法とは違い、とても素晴らしい魔法力だった。
それから、ナンシェは攻撃魔法を教えながら、それと同時に防御魔法を教えた。
ナンシェは妹のその素質に気がついた。気がついたからこそ、認めたくないと思いながらも、そのことに対しては認めていた。
それから間もなくして、弟が生まれた。
ナーシャは弟を見て、一緒に守ろうと言ってくれた。その姿が、かつてナーシャを見つけた私のようだったことに、喜びを感じた。
しかしそのあとすぐに、自分のことが認められ、全能神様が開催する聖天使を決める大会に出場し、ナンシェは勝ち上がり、そしてその次の聖天使として選ばれた。
それを知ったナーシャは、少し寂しそうにしながらも、喜んでくれた。
それから、まだ聖天使になるには時間がかかるため、アストゥーク家で、残り少ない時間をナーシャとルガに当てていた。
そうして、ナンシェは家に帰らなくなったため、ナーシャといる時間がなくなったが、それでも帰った時は、必ずナーシャとルガといる時間を優先した。
そんなある日、ナーシャに攻撃魔法を教え宮殿に帰ろうとした時、母と父が話しているのが聞こえた。
『それにしても、あの出来損ないは攻撃魔法が弱いくせに、防御魔法だけは特化しているとは何と悲しいことか』
『ええ、防御魔法だけなんて臆病者の特権です。これでは盾ぐらいにしかならないですよ』
『だから、弟・ルガの盾として、姉のナンシェの影武者として育てていたが、よかったよ。それなら、たまたま死んだとしても、だれも気に留めない』
『そうですね。ナンシェも聖天使に選ばれたことですし、ルガもあの子よりずっと素晴らしい存在。次期当主としては申し分ありません』
『それに最近あの子、何処かによく出かけるので、その時にいなくなれば、面倒ごとはなくなるのですが、』
その二人の話を聞いて、ナンシェは目の前が暗くなった。
初めは、可哀相にと思った。
憐れに思って、話しかけようとした。
けれど、初めてあって、私にはないあの子の綺麗な心を見て、そんな考えが吹き飛んでしまった。そして、あの子を守りたい。私とは違い、幸せになって欲しいと思った。
だから私が家を出たら、次の当主はナーシャになるはずだったのに、両親はナーシャを元々必要としていなかった。それどころか、影武者としてしか、考えていなかった。
そのことがナンシェの心に重くのしかかった。
そんな時、ナンシェはとある人物と出会う。
『どうしたの?』
振り向くとその人物がいた。
『あなたは、✖︎✖︎✖︎』
『今日はお家に帰っているはず・・・。もしかして、妹さんのこと?』
その言葉にナンシェは目を見開き、詰め寄った。
『どうしてそれを、』
『実は見たんだ。ちょっと下に用事があって行ったんだけど、その時あなたの妹さんが人間族と一緒にいるところを』
『人間族と、一緒に?』
そこまでなら、ナンシェ自身がナーシャの様子を見に行くだけで済んだ。しかし、その言葉だけではなかった。
『そういえば、人間族の間では、天族は高く売れるんだって』
『何を言っている』
その人物は、両手でナンシェの顔を押さえて、真っ直ぐ目を見た。
『もしかしたら、その人間族もあなたの妹さんを捕まえて、売り払おうとしてるのかも、ね』
その瞬間、ナンシェは飛び立った。
いつものナンシェなら、もっと情報を探って、どうなっているのか冷静に調べなければならないのに、その時のナンシェはそういったことを一切せず、何も考えずに、行動をしていた。
それが、自分の意思だったのか、今も考えることがあるが、わからない。
思えば、ここが運命の分かれ道だったと、あとにナンシェは知ることとなる。
ナンシェは家の庭でもある森にナーシャが入っていくのを確認して、後を付けていく。
すると森の奥の方まで進み、ナーシャはある場所で止まって、何やら呟くと光とともに消えた。近づくと、簡易的な転移魔法の陣が書かれている場所があった。
『なるほど、 ここから下界へと向かっていたのか』
ナンシェは転移魔法の陣の上に乗り、先ほどのナーシャが呟いた言葉を口に出すと、同じように、光とともに姿を消した。
目を開くと、薄暗い部屋にたどり着いた。
ナンシェは急いで扉を開けながらも、慎重に音を立てないように進んでいくと、居間のようなところでナーシャの姿が目に入った。ナーシャの前には人間族らしき者と一緒にいた。
しかしその時の二人の表情がいけなかった。
そのとき、ナーシャは泣きながら両手を握りしめて、頭を下げていた。そんなナーシャを見て目の前の人間族は、穏やかな顔をして、ナーシャを見て、ポンポンと肩を叩いていた。
はたから見れば、慰めているやら、話を聞いているなどのように見えるのだが、ナンシェには違う風に写っていた。
あの人間族がナーシャを泣かせた。
脅されているのだろうか?
弱みを握られた?
貴女は泣くほど何をされた?
様々な考えが頭に浮かぶ。しかし、ナンシェが動いた一番の理由は、目の前でナーシャが泣いていることだった。
ナーシャの泣いている姿が、昔いじめられていた頃の幼いナーシャとかぶってしまった。
そして思い浮かんだのは、あの人物が言った言葉。
『そういえば、人間族の間では、天族は高く売れるんだって』
何故かその言葉が頭を支配し、それが引き金となった。
もうナンシェの頭には血が上っていて、冷静ではいられず、何も考えられたかった。
ナンシェは自分の《氷結せし純粋なる弓》を取り出して、人間族に切りかかった。
『姉様⁈』
普段ならナーシャの声に耳を傾けるはずなのに、ナンシェはナーシャを視界に入れることなく、襲いかかった。
弓矢を使おうとしたが、一刻も早くナーシャと離さなければと思い、人間族にむかって、振り下ろした。
ザシュッ‼︎




