第六十一幕 ナーシャとナンシェの出会い
第六十一幕(^ー^)ノ
ナーシャとナンシェの昔の話
しかし、自分の弓が、ナーシャを切り裂くことなく、すんでのところで止まっていた。
「な、何故、どうして、」
カタカタと自分の手が震えているのがわかる。何も遮るものがないにもかかわらず、自分の身体が言うことを聞かない。
「貴方、私に何をしたの」
ナンシェはヒカゲの方を見た。しかし、ヒカゲは首を振った。
「俺は何もしていない。それはお前の意思であり、心の表れだ」
ナンシェの弓はナンシェの胸のあたりに触れている。引けば切ることも出来るのに、引くことができない。身体の震えも抑えることができない。それどころか、腕の力が抜けていき、ガシャンと自分の武器を落としてしまった。
ナンシェはカクンと膝から崩れる。
それを見たヒカゲが、ナンシェにゆっくりと近づいた。
「それはお前自身がよくわかっているはずだ」
「私自身が?」
ナンシェはヒカゲを見上げた。
「お前も、あの時のこと、あの時の出来事のことを思い出さなければいけないはずだ。その時のことがあるから、今も君は苦しめられている」
「本当はわかっていたはずだ。ナーシャがいつか、記憶を取り戻してしまうことなんて」
ヒカゲのこの言葉にナンシェは言葉が出なかった。ヒカゲから目をそらすこともできなかった。
ナンシェはアストゥーク家の長女として生まれた。そして生まれた時から、ナンシェは一族の誰よりも強い攻撃魔法を持っていることがわかり、一族から期待されていた。
そのことにナンシェも誇りを持っていた。だからこそ、物心ついた時からナンシェは、この家にある誇りを胸に留め、誰よりも努力し続けた。そうすることで、立派な自分だけの主が見つかると信じた。
そんな中、ナンシェに妹が出来た。しかし、ナンシェが初めて妹を見たのは、何年か経った後。何故ならナンシェには、妹のことなど一切の興味も関心も持たなかったから。ナンシェにとって、妹という存在は、自分の脅威として邪魔な存在になると思っていた。
そして何年か経ったある日、ナンシェは一族が妹のことについて話し合っているのを聞いてしまった。
『おい聞いたか、あのこと』
『勿論だ。何でも今回生まれた子は、攻撃魔法が弱すぎて話にならないらしい』
『それどころか、立派な従者となる勉強を終わった後は、勝手にいなくなったりしているらしい』
『何故そんな出来損ないの者が生まれてしまったのだろうか』
『それでも、無駄なのに一生懸命にやっているのは、可哀相だな』
『姉のナンシェは立派なのに』
『ナンシェもあんな妹を持って可哀相に』
ナンシェはそんな話を聞いて、自分の妹とやらに興味を持った。そんな出来損ないがアストゥーク家に生まれると思っていなかったのだ。
早速、その出来損ないとやらを見に行こうと、庭に出て、散歩してみると、白い羽根を持った小さな女の子が、池を覗いていた。
『こんにちは』
声をかけると、女の子が振り向いた。女の子は不思議そうにナンシェを見た。
『お姉さんは、』
『初めまして。私はナンシェ、貴女の姉よ』
『姉様?』
『そうよ。今まで顔を見せられなくてごめんなさい』
申し訳なさそうに話しかけると、ナーシャは首を横に振った後、ナンシェに抱きついた。
その行動にはナンシェも驚いた。
『ううん、やっと会えました、ナンシェ姉様!』
嬉しそうな声を上げる自分の妹。もっと暗い子だと思っていたナンシェにとって、予想していなかった反応。
『やっと?』
『はい!いつもみんなの口からナンシェ姉様の話を聞いていました』
ナンシェはもしかしたら、そのことで何か文句を言われりのではないかと。しかし、そんなこととは全く違う答えが返ってきた。
『私はずっとナンシェ姉様に会える日を待ってたの!だってナンシェ姉様は私の、希望なんです!」
『貴女の、希望?』
ナンシェはその言葉と笑顔に惹きつけられた。
輝くほど美しく、純粋で、何も飾られていないその言葉と笑顔。それは、ナンシェには持っていない、何かだと、感じ取った。
『はい!だって、ナンシェ姉様の話をいつも聞いて、私は探して、遠くから見ていました。いつか会える家族を。だからこそ、努力をすれば、姉様が会いに来てくれるって信じてたから、私は頑張れたんです」
自分の妹は、顔も名前も知らない姉のことを周りから聞いただけで、信じていた。
そしてそのことを希望として、努力をしてきた妹をナンシェは初めて、正面から見ることになった。
これが、ナーシャとナンシェの始まりの話。




