第五十九幕 ナーシャの思い2
第五十九幕(*^◯^*)
引き続きナーシャの思いとは?
「ふざけるな」
その場はヒカゲにより支配された。
だれもが、空気が変わったことに気づき、一旦動きを止めた。
「これは、」
ナーシャのことしか見ていなかったナンシェもこの時初めて、ヒカゲを目に捕らえた。
フィロスはヒカゲをチラリと見て、嬉しそうに笑う。
いつの間に立ち上がっていたヒカゲをナーシャは見上げる。
ヒカゲのルビーのような左目は爛々と煌めき、空を思わせる右目のは暗いにもかかわらず、鮮やかに輝く。
風が銀の髪をもてあそぶ。
バサリとはためくコートは、黒いのに夜空に浮かぶ星のように光る。
周りの空気が重くなったのを誰もが感じた。
「君は俺に言った。絶対記憶を取り戻すと」
決して大きな声ではないのに、ヒカゲの言葉が会場に響く。
「あれは嘘だったのか」
「う、そじゃ、」
ナーシャは首を振る。
「では、何故目を逸らそうとする。何故本当のことを恐れて、逃げようとする」
「それは、」
ナーシャの目が泳ぐ。ヒカゲはすっと動きぐ止まったナンシェのことを見る。
「お前にとって、姉とはそういう人だったのか」
「え?」
ヒカゲはナーシャを見ないで次々と言葉を出す。
「その記憶を失ったあと、姉から拒絶された。その時、どう思ったかまではわからない。それでも君の心は悲しかったはず。どうしてとおもったはず。だからこそ、何故かを知りたいからこそ、あの屋敷にずっと通っていたのだろう」
「あ、」
ナーシャはあの屋敷のことを思い出した。
「お前はもう一人、思い出さなければならない人が、いるだろう」
何時からかわからないが、自分がずっと、誰かを思い出さなければならないと感じていた。
姉とも、弟ともまた違う、もう一人の誰か。
「お前を思っていてくれた人間族がいただろう」
「君に、旅に出たい、世界を見たいと思ったきっかけを作った人物が」
「それは、誰だ?」
ナーシャの頭に激痛が走り、再び断片的に記憶が甦ろうとする。
誰かが自分に手を差し伸べてくれている。
しかし、その誰かがわからない。
「・・・やめてください」
まだ、耳を塞ごうとするナーシャの両手を掴んで、耳から引き離した。
「それでは、お前が信じた姉は、意味もなく、周りと同じで、お前を傷つける人だったのか」
ナーシャはガバリと顔を上げた。そして、暫くして、フルフルと首を横に振る。
「なら、君は本当に、自分で過去を思い出さずにいることが、幸せだと思ったのか」
「君が真剣に、俺を見ながら記憶を取り戻したいと言った言葉は、偽りだったのか」
「違う」
初めて、ナーシャは否定した。しかし、ヒカゲは続ける。
「なら、お前の中の姉はどんな姿だ?」
「私の中の姉様・・・」
その言葉にナーシャは目を閉じた。
「私の、私の中にいる姉様は、」
「それが答えられないなら、お前の中での姉は、それだけの存在だったという、」
「違います‼︎」
ナーシャは叫び、ヒカゲの手を振り払う。
振り払ったあと、ゆっくりと立ち上がった。
「私の姉様は」
「私の姉様は、私の心に希望を与えてくださった、私の大切な家族です!」
「他の誰が、なんと言おうと、姉様に冷たくされようとも、私にとっては、大切なたった一人の姉様なんです!」
叫んだナーシャの目には、綺麗な光が戻る。
それと同時に、ナーシャの黒くなりかかっていた羽根が、白い光とともに、綺麗な白い羽根を取り戻した。
その様子を見て、ヒカゲはフッと笑った。
「ならば、君は思い出せるはずだ。姉が、本当はどんな顔を浮かべていたか。そして、君にとって大切だと思えた、あの屋敷の一人を」
「させない、《氷柱の槍》」
ナーシャが再び思い出そうとした時、ナーシャに向かって、氷の破片が飛んで行った。