第五十六幕 ナーシャの記憶2
第五十六幕o(^_-)O
ナーシャが記憶を少しだけ思い出す、かも?
「何故、貴女が生きているの」
その質問の意味がナーシャにはわからなかった。
「な、にを言っているのですか」
喉がカラカラななるのがわかる。それでも聞かなければと思う自分と、聞いてはいけないと思う自分がいる。
ナンシェの表情は何も感じられない無。
「覚えていないのか、あの時のことを」
「あの時?」
それはナンシェがナーシャに対して、冷たくなったことの出来事を言っているのだと気づく。
「私が、貴女をこの手で」
聞きたくない
その先は、聞きたくない
聞いてはいけないと心が叫び続ける
それでも、ナーシャの心とは裏腹に、ナンシェの口は閉ざされず、言い放った。
「殺したときのことを」
ナンシェの言った言葉と共に、ナーシャの頭の中を様々な記憶が駆け巡り、ゴチャゴチャになる。
混ざりに混ざった記憶が浮かび上がり、ナーシャは今までにない激痛に襲われる。
しかしその中で、僅かにナーシャが思いました記憶は。
顔に血がついた、姉の姿。
そのときの表情は、
「あ、あああああぁぁぁぁーーーー‼︎‼︎‼︎」
もう思い出したくないと、ナーシャは叫び声をあげる。その叫びは広間に響き渡る。
そんなナーシャを見つめるナンシェの顔には何も浮かんでいない。何も写していない瞳で、ナーシャをただ見ていた。
カクリと糸が切れたように、力を抜いたナーシャ。そして、気づかない。自分に異変が起きていることを。
ナンシェが、そんなナーシャに触れようとした時。
ドガッ、バキバキ、バダン!
「ナーシャ‼︎」
大きな音と共に、誰かがナーシャを呼ぶ声が響いた。
少し時間を遡る。
危ないからと、おじいさんは一旦ここに残って待っていてもらい、ヒカゲたちは路地裏から出た。
下町の人たちが、中央国・ケントルメと同じ反応をしたことは言うまでもない。
しかし、ここは天界。ヒカゲが怪しい奴かもしれないと、遠巻きに見ながらひそひそとはなしをしている。
フィロスはそんな彼らにイライラしていたが、ヒカゲは気にすることなく歩く。
因みにティナはヒカゲの背中にビタンとしがみ付き、離れず、更に肩の上ではヒスイが気持ちよさそうに寛いでいた。フィロスは、もうこいつから目を離さないとばかりに、ジッとヒカゲの後を追う。
「で、その会いたいやつはどこにいんだ?」
依頼を聞いた後、会うと約束したか人物を訪ねるために、ヒカゲから聞き出そうとしたが、ヒカゲは首を傾げた。
「それが、わからない」
フィロス、本日3回目の脱力。
ヒカゲはとりあえず、今までの経緯を簡単に説明して、ナーシャのことも、その弟からの依頼のことも、説明した。
「なるほど、そういうことか。本来ならアストゥークの家にいるはずだが、」
「いや、それがいるかわからない。さっき見たところ、姉の様子がおかしかった」
そう、ナンシェの様子は始めにあった時とは違い、ナーシャのことしか見ていなかった。
本来であれば、勇者として勘違いされているヒカゲを捉えるのが、全能神の命令だったはず。それなのにナンシェはヒカゲを見ることさえせず、あまつさえ落として、ナーシャだけを連れて行った。
「あの目は、心ここに在らずといった様子だった。それに、」
ヒカゲは一旦黙る。
「それに何だよ」
「いや、これはあの姉妹の前で言うとしよう。まずは、」
「ぱぱ、あそこにだれかいるよ」
「あぁ、そうだな」
フィロスは咄嗟にヒカゲの前に飛びだし、ずっと自分たちを見ていた、人物に魔法を放つ。
「《雷の牢屋》」
雷の棒が一本ずつ地面に刺さることによって、檻が出来上がり、相手を閉じ込める。
「先ほどから俺たちを見ていたが、一体誰だ」
檻の中を覗くと、そこにいたのは、
「アモル」
そう、《愛》の聖天使、アモルだった。アモルはヒカゲを見つけると、うさぎの人形を抱きしめ、ポロポロと涙をこぼした。
「フィロス」
言いたいことがわかり、渋々ながらも魔法を解除するフィロス。ヒカゲはアモルの目線に合わせる。
「どうした?」
「《希望》は今、宮殿の広間にいるの」
ヒカゲは目を見開く。
「何でなのかわからないけど、アモルがヒカゲの方へ向かおうとした時にすれ違った。けど、《希望》は周りなんか見えないみたいな感じで、もう一人とこもっちゃったの」
「アモル・・・」
ヒカゲはアモルを抱きしめた。
「ありがとう、アモル」
「早く行ったほうがいいかもしれない。今ここに《節制》と《勇気》、それに《知識》と全能神様もこっちに向かっているから」
ヒカゲはフィロスの方を見て頷く。
「《追い風よ》」
風がヒカゲをさらい、普段の風魔法より速い速度でヒカゲは下町の空を駆け抜け、宮殿へと向かった。
そして暫くして、白いレースを頭からすっぽりと被っている全能神、《知識》の聖天使・シルィ、《節制》の聖天使・カーヌ、《勇気》の聖天使・サロンが、アモルの元へ、降りてきた。
彼らが来たことにより、その存在がわかり、下町の住人は地面に膝をつき、頭を下げた。
それを見て、シルィが前に進みでる。
「ここに、左右違う瞳に月の髪を持つ方はいらっしゃったかな?」
ザワザワと下町の住人たちは騒ぎ出す。
すると、建物の隙間からアモルがでてきた。
「《愛》よ、あの者はどうしたのだ」
「彼は、宮殿の方へと向かいました」
全能神はアモルの言葉に頷き、一行は直ぐに宮殿の方へと向かった。アモルも少し遅れて彼らに続き、空へと飛び立った。




