第五十五幕 過去の夢
五十五幕(。-_-。)
過去の夢っていっても少しだけです
「そんで、一旦中央国・ケントルメに帰るんだろ」
もう直ぐ、日が沈むということもあり、提案されたフィロスの言葉にヒカゲは首を振る。
「実はもう一つ、個人的な依頼を受けてしまってな。もうしばらく付き合ってくれ」
「は?」
「それに会いに行くと約束してしまった奴もいてな」
「、は?」
「それとここの全能神とやらに、勇者と誤解されてな。その誤解も解かないといけない」
「・・・」
「更に誤解を解く前に、俺を狙っている聖天使たちも相手にしなければならない」
フィロスはがくりと崩れ落ちた。自分がいない間に、ヒカゲは何だかいろんなことに巻き込まれていたことに、さっきまでこいつを守ってやると思っていた自分の気持ちが早くも折れそうだった。
(そもそも何で俺がいない間に、何でそんなことになってやがる)
しかし、そんなことを知らないヒカゲは、すまないと申し訳なさそうにフィロスに謝るのであった。
まず、ここまで来てくれた依頼人の話を聞くために、ここでは目立つと、人が余りいないような路地裏へと入る。
「あなたがここまで来たということは、何か知っていたからだろう?」
おじいさんは静かにヒカゲを見る。
「何か知っていたから、本当なのか確かめたかった。しかし、今までこんな依頼を受ける奴もいなかったから、何もできなかった」
そしてヒカゲはクルリと向きを変え、依頼主の方を見て、言い放った。
「さあ、聞かせてもらおう。君の願いという名の依頼を」
そんなヒカゲの言葉に、老人はゆっくりと語り出す。
ーーーーーー
『姉様』
まだ幼い姿の自分は、走って姉様に飛びついた。本を読んでいた姉様は本を落としてしまったが、怒ることなく、自分の方を向いた。
『どうしたの』
自分は答えることなく、姉様の背中に顔を埋めた。
『また、母様と父様に何か言われたのか』
コクリと頷く。
『父様も母様も、他の人たちも私のことを変だっていうの。ねぇ、私はおかしいの?』
『ナーシャ』
名前を呼ばれ、姉様から離れた自分。
姉様はこちらを向いて、頭を撫でていった。
『ナーシャ、貴女は素晴らしい素質を持っているの。確かにこの家では認めてはくれないかもしれないけど、いつかきっと貴女を、家のことなど関係なく、認めてくれる人が現れるわ』
『ほんと?』
『えぇ、本当よ。だからそれまで、これを預けておくわ』
手に渡されたのは、大切な何か。そこが靄がかって見えない。
『これ、』
姉様は口元に指を当てて、片目をつぶった。
『これは預けておくわ。もし、これが必要じゃなくなった時には、』
ーーーーーー
ドシャッ
(懐かしい夢を見ていた気がします)
空を飛んでいる時に、余りにも暴れたため、ナンシェに気絶させられたナーシャは衝撃により、目を覚ました。どうやら床に叩きつけられたとだと知る。前を見るとナンシェは椅子に座り、ナーシャの方を見ていた。ナーシャは周りを見渡す。腕は先ほどの攻撃により、服が赤く染まっている。
ここは全能神がいられる宮殿の広間。ここには今、あの異世界人を探すため、誰もいないことを知っていたナンシェが行き着いた場所。
ナーシャは何故ここに連れてこられたのかわからなかった。何故ならここにいてはいつかは誰か入ってくる可能性が高いことなど、ナンシェなら分かりきっているはずなのに。
二人の間に沈黙が流れる。その沈黙を破ったのはナンシェだった。
「お前は何故、」
びくりと体を揺らすナーシャ。そんなことはお構いなくと、ナンシェは続ける。
「何故人前にまででて、あの人間族を助けた」
ナンシェの質問にナーシャは自分自身でも、わからなかった。なおも、ナンシェは質問をする。
「何故あの家にいなかった」
「何故人間族を庇う」
「何故わかってくれない」
「何故、何故、なぜ、」
ナンシェはフラリと立ち上がり、ゆっくりとナーシャに近づく。様子がおかしいことに気づき、一歩一歩近づくたびにナーシャは後ろに下がっていく。しかし、長くは続かず、柱の一つに行くてを阻まれた。直ぐに立ち上がり、逃げようとしたが、ドンッとナーシャの両肩を強く柱に抑えつけられ、顔が歪む。ナンシェの顔を見るが、俯いていて表情が見えない。
「ね、姉様?」
恐る恐る尋ねるが、肩にはどんどん力が入ってくる。そしてポツリとナンシェの口から零れた。
「何故、貴女が生きているの」
「え?」