第五十二幕 ひとまず
第五十二幕(^ー゜)
ひとまず退却
するとヒカゲは身じろぎ、パチリと目を開けた。近くにカーヌがいることを知り、足を払い、そのまま蹴り飛ばす。カーヌはサロンの近くに吹っ飛ばされる。
サロンはヒカゲに向かってもう一度《粘つく編み蔓》を放ったが、何故か空中でその魔法が見えない壁に遮られたかのように止まってしまった。
「これは風の防御魔法!」
サロンの魔法はそのまま地面に落ちる。
「ガオ!」
獣が鳴く方を見ると雲と空が見える窓と人影、ヒカゲが獣を見ると獣はコクリと頷き、まっすぐヒカゲを見る。
ヒカゲは隣で泣きそうになっているアモルの頭にポンッと手を乗せたあと、窓に向かって走った。続いて獣も走り、ヒカゲの肩に乗る。
バリィンッ
ガラスを突き破り、体が浮遊感に襲われる。
「ヒカゲ様!」
しかし、直ぐにその感覚も終わり、白い影がグッとヒカゲの名を呼び、腕を掴む。ヒカゲが上を見ると、掴んでいたのは、白と黒の翼を持ったナーシャだった。
「ヒカゲ様、ご無事ですか?」
「ああ、大丈夫だ。それより、どうしてここに?」
ヒカゲは不思議そうにナーシャを見る。
「はい、ヒカゲ様がいなくなったあと、とにかく探し回っていると、何やら神殿の方が騒がしく・・・。窓から様子を見ると、倒れているヒカゲ様を守るようにして立ちはだかるこの方と目が合いまして。なんとかヒカゲ様をと思った時、ヒカゲ様が目を覚まし、こうなった次第でございます」
どうやらナーシャはずっと自分を探してくれていたらしい。
「そうか、お前が俺を起こしてくれたのか。こんな時だが、生まれてきてくれてありがとう。君がなんの子どもがわからないが、こういうことはフィロスという俺の家族が詳しい。それに、いい名前が思いつかない。だから今は、一先ず呼び出すいように、一先ずライオンと呼ばせてくれ」
ヒカゲが申し訳なさそうに言い、ヒカゲは肩に乗るライオンのような子どもの頭を撫でると、気にするなというようにすり寄ってきて、ヒカゲの顔をペロリとなめた。
「それとナーシャもありがとう。ずっと探してくれて」
ヒカゲは困ったような声を出しながら、ナーシャに礼を言う。するとナーシャ腕の力が少し弱くなったのを感じて、ヒカゲが上を向くと、ナーシャの顔が赤く染まっていた。
「?どうしたんだ」
「い、いえ、あの、」
まさか、サラリとお礼を言われるとは思わず、ナーシャは、照れていたなんて言えるはずもなく。ナーシャはどもるばかり。
「もしかして、」
ヒカゲが言おうとする言葉に、ナーシャは焦る。
「やはり女性に運ばれているというのはまずいし、重いのか?」
しかし、さすがヒカゲ。考えが違う方にいたことにナーシャは安堵する。
「いえ、私がしたいと思ったまでのことです。お気になさらないで下さい。それよりも、どうして聖天使の方々に攻撃をされていたのですか」
ナーシャの問いかけに、ヒカゲは簡単に話し合い。
「なるほど。ヒカゲ様は異世界人だったのですか」
「ああ、だが俺は勇者たちに巻き込まれただけだし、魔法を使うことができない。それに、」
一度死んだから異世界者の上に元がついてるしな。
しかしこと言葉は、余り言わないほうがいいだろうと、口を紡いだ。
「まずは、神に行って誤解を解きたい。すまないが、ナーシャには迷惑をかけたくないからな、そこらへんに下ろしてくれ」
「しかし、」
「頼む。お前を巻き込みたくないんだ。それに、君の姉も聖天使だ。もしかしたら戦うかもしれない。家族で戦うのはいやだろう?」
ナーシャはヒカゲについて行きたかったが、ヒカゲの真剣な表情に何も言えなかった。
「わかりました」
「そういえば、先ほど言っていたフィロスという方は一体?」
「ああ、途中ではぐれてしまった、俺の家族だよ」
「家族ですか?」
不思議そうに見るナーシャに、ヒカゲは少し柔らかい表情になる。
「フィロスは俺に初めて世界を見せてくれた精霊族でな、何もない俺と家族になってくれた。それとティナもいう〈人魚〉の子ども、ティナも大切な俺の家族だ」
「血のつながりがないのに、ですか?」
「あぁ、俺の大切な、守りたいものなんだ」
余りにも優しい声で話すヒカゲを見て、ナーシャはまだ見たことがない、ヒカゲの家族に心から羨ましいと思った。
そしてそんな関係に自分もなりたいと心から願った。
家のことにも、一族のことにも。
そういったことで見ることなく、ただのナーシャとして見てくれる、ヒカゲといることによって、わかるかもしれない。
あのときから、姉が冷たくなったことも。そして、なくしてしまった自分の記憶も、もしかしたら見つかるかもしれないと。