第四十二幕 ナーシャの事情
四・十・二・幕(^з^)-☆
ナーシャの父親登場(少し)!
ヒカゲはナーシャと森を歩いて行くと一本の獣道を見つけた。
「実はこの森は私の家の裏手にあるものなのです。本来はきちんと整備された道を作るはずだったのですが、自然をそのままにしようとこうして魔物たちによって自然に出来た道を使うようになりました」
「だから手を加えずに自然がそのままなのか」
「はい。精霊界には劣りますが、この世界もいい国です」
そのときのナーシャの表情は本当にこの国に誇りを持っている顔だった。
「あの、」
「どうした?」
「実はこの森から出るにあたって私の家を通って出た方が早いのですが、」
ナーシャは言いにくそうに口を開いたり閉じたりする。
「どうした?何か問題でもあるのか?」
ナーシャは少し戸惑いながら話し始めた。
「私は余り自分の家が好きではありません。厳しいのは別に構わないのですが、所謂由緒正しき家だからこそこう、なんというかその自分のやりたいことが自由に出来ないというか・・・。簡単に言うと私の家族はこの家に生まれたことこそが幸せと思っていることがあります。あと重度の人間族嫌いです。その服は特殊の様ですし、少しいるだけなら人間族とはわかりませんが、用心してください。それでも大丈夫ですか?」
「ここまでしてもらって、文句など言うはずがないだろ。俺のことは気にするな。何かあれば俺の責任なんだから」
ヒカゲは優しくナーシャに微笑みました。ナーシャは今まで無表情だったヒカゲが笑うとは思わず、固まってしまったが慌てて顔を逸らした。
「そ、それでは参りましょう!」
ナーシャが早足で進むのを不思議に思いながら付いていくヒカゲであった。
暫くすると白い大きな屋敷が見えてきた。
屋敷は全く汚れることなく、さらに余計な色がない本当の白でした。
「ここが私の一家の家です」
「綺麗な白だな」
「ありがとうございます。少し特殊なものでコーティングしてあるため、多少の汚れはすぐに消えてしまいます」
そしてナーシャがこっそりと、多分裏口のような所から入り、ホールのような所に出た時、ナーシャは立ち止まった。ヒカゲは前を見ると白い髪で前髪をオールバックにして、後ろで長い髪を縛っている執事服の男がいた。
執事服を着た男はナーシャに気がつくと、ナーシャに近づき、頬を思い切り叩いた。
「お前はまたそのような格好をし、どこへいっていたのだ。我々は代々神に、あるいは主人を見つけ仕えるための一族。今回は姉が神の側近の地位に就いたことにより、お前が次期当主になるためにしなければならないことは山ほどあるのに対し、お前の行動は目に余る。人間の所に通う、我が一族の家宝を失くす、いつの間にか居なくなり、そこの怪しい奴を連れてくるとは」
男はため息をつくと、ナーシャはビクリと肩を揺らす。
「・・・申し訳ございません」
「あの子はお前とは違い主人を見つけ、側近にもなった。しかしお前は主人を見つけることもせず、ふらふらと・・・。もう少し姉を見習え、これ以上我が一族に恥を欠かせないでくれ」
「・・・はい」
ナーシャ俯き、グッと拳を強く握る。
「そこの貴様も何者だ。我が一族に近づくのは何故だ」
「・・・すみません、俺は訳ありであなたが彼女に対して何を怒っているのか分からないし、その我が一族と言うのも何が何だか分からないでいます」
「フンッ、そのような見え透いた嘘を・・・」
するとナーシャがヒカゲとその男の間に入る。
「申し訳ございません。この方は道に迷っていらっしゃったのを私が無理矢理連れてきたのです。彼は私に付き合っていただいただけ。なので、問題が起これば私の責任にして構いません」
しばらく見つめ合っていたが、男は向きを変えた。
「その者が屋敷内をうろついていたら即刻捕らえる。わかったか」
「はい、ありがとうございます」
男がいなくなるまでナーシャは頭を下げた。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」
「いや、こちらこそ押しかけてしまってすまない。あの男は・・・」
「あれは私の父ですので、大丈夫です。それより、街に案内を、」
ナーシャが最後まで言う前に、ヒカゲがナーシャの頬に触れた。突然のヒカゲの行動に首を傾げるナーシャ。
「さっき叩かれただろ場所、熱を持っている。街に行くのは後でもいい。まずは手当てをさせてくれないか?このまま放って置くと腫れてしまう」
ヒカゲは壊れ物を扱うかのように優しく触れる。
「余計なお節介かもしれないが、」
ヒカゲはチラリと気まずそうにナーシャを見て、慌てて手をどけようとしたが、ナーシャはヒカゲの手を握り、ふわりと笑った。
「ここでは何ですから、私の部屋へどうぞ」
そう言ってナーシャはヒカゲを自分の部屋へ案内した。
ナーシャの部屋は必要な物以外何も置いていない、質素な部屋だった。ヒカゲは部屋についていた蛇口を捻り、ポケットに入れていた自分のハンカチを冷やした。ナーシャを座らせ、ヒカゲはハンカチを渡した。
「とりあえず、冷やせ」
「・・・ありがとうございます」
ナーシャはハンカチを当てながら、ヒカゲを優しい目で見て、笑った。
「?どうした?」
「いえ、何だか貴方には驚かされっぱなしなもので」
「そうなのか?」
「はい、こうして先ほどあったばかりの私を心配して手当をしてくださるなんて思いませんでした」
ナーシャとヒカゲにしばしの沈黙が流れたが、先に沈黙を破ったのはヒカゲだった。
「さっきの一族の話を聞かせてくれるか?」
ナーシャはヒカゲを見る。
「だいぶ悩んでるようだが、赤の他人でしかもこの家や国を知らない俺なら話せることもあるんじゃないか?」
「いえ、そこまで甘えるわけには、」
「それに俺はこの国のことが何一つわからない。旅の仲間、いや家族がいたがさっき言った通りはぐれてしまってわからない。それに、」
ヒカゲは頬を抑えるナーシャの手の上に自分の手を置く。
「それに、さっき一瞬泣きそうな顔をしたお前を放って置くわけにもいかない」
ヒカゲはナーシャから手を放す。
「まあ、俺の勝手なワガママだと思ってくれ」
ナーシャは目を閉じたが、ゆっくりと開くとしっかりとした目でヒカゲを見た。
「貴方は優しすぎます」
けれどと彼女は続ける。
「貴方なら、話そうと思う私も馬鹿ですね」
そして、ナーシャはゆっくりと話し始めた。
「まず、私の本名はナーシャ・アストゥークと申します」
「そして私の一族は代々主人をを見つけ、仕えることを使命、誇りとする一族なのです」
ナーシャの一族とは?