第二十六幕 動き出した歯車 〜亜人国・アッフェスティマ〜
ここは自然豊かな亜人国・アッフェスティマ。この国の中央にある巨大な木は中が空洞になって何百と部屋があり、その一番上の真ん中に吹き抜けの大部屋がある。
そこには茶色のたてがみに黄土色のライオンの顔をした鎧を着て、マントを肩に止めている亜人族が座っており、なにやら考え込んでいた。すると廊下の方が騒がしくなり、バタンッと扉が開いて亜人族が入ってきた。
入ってきたのは茶色の腰まである長い髪で金色の目を持ち、白い肩出しの腰下まである服を紐で結び、ヒラヒラとした長いマフラーの様なものを腕に巻きつけて薄茶色のズボンを履いているが、そこから見えるのは脚は脚でも黄色い猛禽類の様な脚に、背中には茶色と白の翼を持つ、《空の戦士》ーーが急いだ様子で入ってきた。
「どうしたのだ?」
「獣王様大変です、また姫が脱走しました!」
ライオン・獣王は頭を片手で抑え、ため息をついた。姫、獣王の末の娘はお淑やかとは程遠いお転婆になっており、よくこの城から抜け出していた。
「とにかく彼奴は大丈夫だろう、遊びたい年頃だ。好きにさせておけ」
するとまたバタンッと扉が開き、海の様な透き通る髪を後ろで緩く止めた同じ色の目、耳に青いひれ、顔の半分は鱗で覆われ、白いシャツに黒いズボン、エメラルドの長いコートを肩に掛けた《海の戦士》ーーが急いで入ってきた。
「どうしたのだ?」
「大変です、王子たちはまた中庭で喧嘩を!」
獣王はさらに深いため息をついた。獣王にはさらに三人の王子たちがいるが三人とも仲が悪くいつも喧嘩をしていた。
「とにかく力ずくでも止めろ」
「わかりました」
するとまたバタンッと扉が開き、白い髪に猫耳と尻尾が生え、黒いサスペンダーと白黒のしましまの服を着た《地の戦士》ーーが急いで入ってきた。
「今度はどうしたのだ!」
「大変にゃ、奥様が行方不明です」
獣王はその言葉にもう胃がキリキリと痛んだ。獣王の妻は何故かよくふらふらと居なくなり、ひょっこりと姿を現すなんてことがよくあった。
「何とか探し出すのだ」
「わかったにゃ」
三人の戦士が居なくなると、バタンッと扉が、
「いいかげんにしろ!今度は何なんだ!」
「相変わらずうるさい奴だ」
入ってきたのは頭にフードをスッポリと被ったマントを来ている亜人族が入ってきた。
「お前は・・・。珍しいな、お前がここに訪れるとは」
「しかたがない。急ぎだった」
「あの人間国から感じた魔力のことか?」
黒いマントはコクリと頷く。
「あれはあんたと自分がよく知っているもの」
獣王は目を見開く。
「まさか・・・」
「そうそのまさかだ。あいつらは“異世界召喚”を使った」
獣王は椅子に座り、肺からすべての空気を吐き出すようにため息をついた。
「なんと愚かなことを」
「呼び出された異世界者たちは勇者として力をつけていってるにゃ」
獣王はしばらく黙っていると黒いマントは出て行こうとした。
「待て!」
ピタリと歩みを止める。
「まだ、戻ってこないのか?《賢の戦士》よ」
「・・・自分はあの時から時間が止まったまま。戻ることはできない」
そういって今度は部屋を出て行った。
「さて、まずはこのことをあの三人と家族に伝えなければ」
獣王は先ほどあの黒いマントが出て行ったドアを悲しそうに見つめた。
「幼馴染よ、わしはお主が再びここに戻って来る日を。あの三人も、妻も、息子たちも、娘も。そのことに気づいてくれ、《隠の戦士》よ」
獣王の願いは誰もいない部屋に響いた。
次こそは人間国を書きます。