第二十三幕 動き出した歯車 〜魔界・クルダワ〜
今回は魔界の方を書きました
ヒカゲたちが国境を超えた頃。
ここは魔界・クルダワの中心に位置するとある城。
その中にある一際大きな部屋に六人の魔族が長テーブルを取り囲むように座っていた。
一人目はダボッとした魔法使いの服に、白髪に黒目でヒゲが長い《憤怒》を司るおじいちゃんーー
二人目はまるで騎士のような甲冑を着た金髪をポニーテールにしている碧眼の《強欲》を司る女性ーー
三人目は黒いドレス、手袋、フォーマルハットを身に纏った紫の髪をお団子にしていて、紫の目で口元を黒い扇子て隠している《色欲》を司る女性ーー
四人目は赤いシャツに黒いズボンを履いて、赤髪を二つ結びにしている金の目の《暴食》を司る少女ーー
五人目は頭には博士帽子を被り、白衣を着ている藍色のショートに青い目の《傲慢》を司る少年ーー
六人目は軍服のようなものを着ているピンクの髪に桃色の目をした《嫉妬》を司る、女性?ーー
六人は一つだけ空いている席を見たが、ドアが開いたので直ぐに視線をドアの方に向けた。そこには黒いマントを肩に掛けた、赤紫の長い髪と頭に羊のようなツノをつけている黒い目をした女性の魔族が入ってきた。すると六人は席を立ち上がりその魔族に頭を下げた。女性は上座の方に座ると同じく六人の魔族も座り始めた。
「急に呼び出してすまないな、六人の罪人よ。一人足りないが、会議を始める」
女性、魔王は六人を一人ずつ見る。
「今回集まってもらったのは、半年くらい前にグローリア国で感じとった異様な魔力の放出は、“異世界召喚”だった」
「異世界召喚、ですか?」
「そうだ。詳しいことはわからないが、恐らく休戦に持ち込んだのはこのためであろう」
魔王がそう言うとガタッと《憤怒》と強欲が立ち上がる。
「陛下、それでは即刻休戦を取り止めましょう‼︎」
「そうです!やはり人間族は信用なりません!」
魔王はため息をつき、背もたれに寄りかかる。
「しかしおかしいのだ」
「おかしいとは?」
「あの魔法はこの世界では禁忌とされている。何故だかわかるか?」
すると《傲慢》が手を挙げた。
「あの魔法が禁忌って言われているのは生きた贄が必要だからさ。まぁ、贄があったら誰でもできる魔法だけど、贄は何百と必要な時もあれば一人でもいい場合など様々だけどね」
「そう、そこがおかしいのだ」
「といいますと?」
「グロールア国の国王は命を張ってまで休戦状態まで持ち込み、我々がどのようにして戦争をやめ、民に被害が行かないようにするかをほぼ毎日手紙を出してきた奴が、そのような甘い奴が他の者を巻き込むだろうか?」
魔王はしばらく考え込んでいたが、席を立った。
「とにかくこんな面白くなりそうなことを見逃すわけにはいかん。だが、何もわからない以上迂闊に手は出せん。《傲慢》よ、人間族の行動に注意せよ。なにかあたら即効我に知らせよ」
「任せて」
「《強欲》は我と来い」
「はっ!」
すると魔王は空席を見て目を細めた。
「《嫉妬》、《憤怒》。貴様たちはこのことを《怠惰》に伝えよ」
「分かったわ〜ん」
「陛下の命ならば」
そういって陛下は部屋を後にした。
この中央の城以外にも七人の罪人は自分の城を持っている。
そしてその一つ、一番危険で、一番離れている城がある。その森には霧が立ち込め、その霧を長く吸い続けると二度と目を覚まさないと言われて魔族さえあまり近づかないと言われている“死霧《》の森”。その奥に城があり、《嫉妬》は羽を生やして《憤怒》を抱えてベランダに到着した。窓を開けるとそこには暖炉とソファがある部屋だったが、部屋の主人はいなかった。
「どこに居るのじゃ、あやつは」
「留守かしら?」
「いえ、出来れば門の方から入ってもらいたいものです」
ドアが開き見てみると、そこには黒と赤と燕尾服、シルクハット、杖を持ち、片眼鏡を付けた金目の灰色の猫が立っていた。
「とにかくお座りください」
そういって二人がソファに座っていると、《怠惰》は紅茶を持ってきた。
「あら、ありがとう。貴方がいれた紅茶は相変わらずおいしいわね。貴方も変わらずだし」
「貴女も全く変わらずだ」
「いいじゃない。私の好みよ」
《怠惰》は紅茶を一口飲む。
「それで、今回の話は?」
「実はね・・・」
「なるほど、異世界魔法ですか」
「これから忙しくなるかもしれん。いい加減腹を括れ」
「・・・」
「紅茶ありがとうね。また来るわ」
そういって《嫉妬》は来た時と同じようにベランダから飛び立った。
「あの子、変わらなかったわね」
「・・・そうじゃな、良くも悪くも彼奴の心は変わらないままじゃ」
「仕方ないじゃない。猫は気まぐれよ」
「彼奴は魔族じゃ」
「ただの比喩よ」
二人はそういって、自分の城へと帰って行った。
《怠惰》は一人冷めきった紅茶を見つめる。
「異世界人、か・・・」
そういって紅茶を飲み干した。
まだ名前は出しません。