穴のなかで見たもの
この話では、道徳的な性表現をしています。
その手の表現が苦手な方は中程で線を引いているのでその部分を跳ばして読んで頂ければ幸いです。
後、引きとかいらなかったかな?とか、もっと効果ありそうな場面の方が良かったかな?とか思いながら書きました。
俺の視界はすぐに暗闇の中に入っていった。晴れた日にいきなり下水道に落ちた感じで突然の暗闇に俺の視界は機能しなくなった。殆ど何も見えない中、俺の体を突き出ているのだろう岩の様な物が容赦なく打ち付ける。
俺は打ち付ける岩肌の傷みを我慢しつつポーチから鉄製のナイフを出す。
「鉄のナイフ‼」
ナイフが手の内に出現すると同時に目の前にあるであろう土壁に思いっきりナイフを叩き付ける。硬い感触と共にナイフは土壁に刺さる事に成功した様だ。……が。流石に落下する人間の体を支えるのは不可能だった様で、ナイフは曲がると同時にペキンと軽い音をたて簡単に折れてしまった。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁあ゛あぁぁぁ」
先程よりも近付いた岩の出っ張りによって打ち付けられる顔、胸、下半身。
俺はこのまま落ちて死んでしまうのだろうか?最後に試すべき事をいきなりチャレンジさせられる。
まるで○○さんの事が気になる事を友人に相談した時のじゃあ取り敢えず告ってみたら?と返された時を思い出す。……ちょっと違うか?
その時だった。下半身にものすごい衝撃を受けると共に俺の体は落下の浮遊感を無くして止まった。
「£%#*§◎○△◇◇▽★」
声にならない悲鳴と共に体を突き抜けた苦痛?悲しみ?衝撃?瞬間の事はよく解らなかった。
気を失なわなかっただけ僥倖だったのかもしれない。
「ひぃぃぃ!いてぇ、いてぇ」
遅れてやって来た鈍い痛みに苦悶の表情になってしまう。この傷みは女性には解らないかもしれない。
俺は傷みが和らぐまでその体勢のまま暫く動けなかった。
「生きてる?生きてるの?俺」
自分の生死を確認し状況の確認をしたところで、どうやら穴の途中で岩の出っ張りに引っ掛かった事を理解した。
上を見上げると遥か上方に光が見える。光の隅に人影の様な影の出っ張りも見える。もしかするとまだ上から覗いているのかもしれない、と思い今度は下を見る。上方から光が入っている為か目が慣れ始めたのかうっすらと穴の様子が判る、どうやら一番下には光源がある様で現在地よりは明るい。
「どうやら下に行った方がいい感じだな」
上から何か落とされたりするかもと思うが、素っ裸で行動する事に恥ずかしさを持った俺は乗ってる出っ張りの上に立って、取り敢えずは服を着た。
動きやすい地球の服を着た俺は下に降りるべく行動を開始した。
出っ張りに足を掛け、手で掴み、ゆっくりと降りていく。5mいや3mくらい降りただろうか、俺は行き詰まってしまった。足を掛けられる出っ張りがないのだ、出っ張り自体はあるが体重を掛けようとすると外れそうな感じがする。
上を見上げる。もしかするともう居ないかも知れない、手足も自由になったし武器もある。戦って勝てるかも知れない、三人居たが賊と戦った様に意表をつけば…。
俺が上に戻ろうか悩み始めたその時だった。前触れなく先程まで安定していた足場の出っ張りが崩れ落ちた。
「え?あ!ああぁぁぁぁ…」
やっぱり人は意表を突かれるのに弱い。俺の頭は把握、理解、対策の順にフル回転したが間に合わなかった。
出っ張りを掴んでいた手に力を入れようとしたが、ずるりとした岩肌を滑る感触と同時に俺の手は空を掻いて、再び落下し始めた。
このまま本当に死んでしまうのだろうか?いやいや、実はこんな展開のゲームだったって感じで現実に戻ったりするのかも知れない。
流石に二度目の落下に諦めモードになった時、体に当たる岩の出っ張りが無くなるとそこは広い空間だった。
もう掴む物もないな。頭から落ちて即死か、体を叩き付けて苦しく終わるか。
そして、俺は下で待ち構えて居た地面に背中から勢い良く叩き付けられた。
「グゲァ」「ガア」「ギャァ」
骨が砕ける音の様な、人ならざる声の様な感じの音を耳にして自分の死を実感する。
・
・
・
あれ?意識ある?体、痛い…。あれ?
俺はゆっくり目を開けると自分の居た穴が上方の高いところに見える。
どうやら俺は死んでないし、まだこの世界にいる様だ。
痛む背中を庇いつつ上体を起こして地面を見る。
ゴブリンが3匹、俺の下敷きになっていた。どうやらコイツらのおかげで俺は無事だった様だ。
良く見ると一匹の手に布袋が握られている、俺が落としたヤツだ。拾った処に俺が落ちてきた感じだろうか。
布袋を取り返し、中身を確認してポーチに入れると、 周囲を確認する。
予めマップ表示に敵影が無い事は確認している。が…、NPCが二十人くらい居るのが見えていた。
それは壮観と言えばよかったのだろうか?それとも景観だろうか?美観?
そうそれは!
視線の先には!
そこにはなんと!
俺の目の前には二十数名のスッポンポンの女性が鎖の様な物で繋がれて並んでいた。
「お願い、助けて!」「これを外して!」「家に帰して!」
いやいや。駄目だろ、これは…。
とにかく、事態を理解しよう。
俺が落ちてきた場所は空洞になっていた。そこにはゴブリンがいて、大勢の女性が拘束されていた。ゴブリンは俺に潰されて死んじゃって、女性達は俺に助けを求めている。
ゴブリンは洞穴や洞窟に棲家を造る事を考えるに?
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カエデさんの話を思い出す…。
ゴブリンは好んで人族の女性を繁殖に選ぶらしい。精子と卵子を持ってるらしいゴブリンだが、受精卵の成育には女性の胎内が必要だと言う、これはゴブリンに雌が居ない為らしい。自己の精子と卵子では自分の分身的な存在しか産まれないからだろうか。
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此処はゴブリンの棲家?
つまり、この目の前に並ぶ女性達はゴブリンが繁殖する為に連れて来られた人達。って事だよな?
改めて女性達を良く見ると、身体は泥や何かで汚れている。この場所で何が行われていたのかは想像に難くないだろう。
とにかく、一旦落ち着けなければ他のゴブリンがやって来る可能性がある。
「え~っと。取り敢えず、落ち着いて下さい!」
「「◎○▽★◇◎○◎△▽★・○」」
ああ言えばこう言うって感じで並ぶ女性達はとにかく逃げたい事を言ってくる。
はっきり言おう。この状況の女性達を逃がした処で確実にまた捕まって連れて来られる事になるだろう。
さて…、この状況をどうしたものか?
俺は叫ぶ女性達に背中を向け、反対側にある横穴?に向かう。
すると、先程まで続いていた女性達の叫び?悲鳴?とも取れる懇願の声がピタリと止んだ。
それに気付いた俺が後を振り返ると女性達は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
成る程。彼女達には俺が見捨てて行こうとしてる様に見えているのか。
俺は女性達が静かになったのをいい事に横穴に近づく。敵影がない事をマップで確認して、横穴から顔を出す。
左右に通路が伸びていて、どうやら洞窟状になっている様だ。
マップを見直すが洞窟の全体図までは判らない。結構広いみたいだ。
取り敢えず、出入口の場所に夜営布団(W)を設置する。布団の一回り広い感じに守護結界が出来た事を確認して、再び女性達の元に戻る。
さて、敵に見つかっても今なら此処には入って来れないだろう。問題は彼女達をどうやって宥めるか…だな。
俺は思案しながら彼女達の前まで来たが、彼女達が声をあげる事が無かった。疑問に思いつつ良く見るとほぼ全員が項垂れ、何やらブツブツと呟いている。
う~ん。ちょっと対応を間違えた気がする。女性達はあからさまに絶望という二文字に取り憑かれている。
こういう時はどうしたらいいんだろうか?
俺が絶望した時は……。何もしなかったな、それでああなったから何かした方がいいんだろう。
取り敢えず、状況を改善するなら…。先ずは衣食住を満たしたいだろう。と言っても、服くらいしか持ってないんだけど。
「さて、服は五着、人は……二十三人か。
スイマセン。この中に戦える人、もしくは戦いの経験がある人っていますか?」
「はい」「はい!」
聞こえてはいる様で、俺が声を掛けると、二人が反応して返事がきた。
片方は赤毛のショートヘアーで御胸様がお手頃サイズの人、もう片方は茶髪でウェーブが掛かったロングヘアーでメロンさながらの人だ。
一人だったらミスリルの装備品を渡そうと思っていたんだが。
仕方ない…
「二人には魔物が来た時に皆を守って貰う事になります。取り敢えずは俺が持ってる武器と防具を渡します、いいですか?」
俺の言葉に二人は頷いて応えた。
俺はポーチから服とタオル、ミスリル製の剣と槍、ミスリル製の全身鎧と革製の部分鎧を取り出し地面に並べて、〈創造魔法〉(クリエイト・ソーサリー)で浴槽とお湯を造る。
〈創造魔法〉(クリエイト・ソーサリー)とは、冒険者の旅を快適にする為に用意されている、スキルや魔術ではない力の事だ。MPを1使うだけで使用出来る。まぁ生活感を出すための魔法って感じだろう。
使えるのは、
〈火〉(ファイア)、
〈水〉(ウォーター)、
〈風〉(エア)、
〈石〉(ストーン)の四種だ。
組み合わせでドライエアやウォーターホット等が出来る。ストーンは独特で3の3条立方メートル以下の範囲に石造りの家具や浴槽、または建物を造り出す事が出来る。
「じゃあ、体を洗い流して服を着て鎧を着けて下さい。全身鎧の人は剣を、部分鎧の人が槍を持って待ってて下さい。」
俺が二人の鎖が付いた手枷を外しながら説明する。二人は手首に付いた痣を擦りながら用意した浴槽に向かった。
さて、残りの人達は現状出来る事がないから放っといてもいいんだろうけど…。
俺はこの時やっと気付いた。
残った人の中で二人がかなり窶れている事に、その二人に近寄り耳元で話し掛ける。
「大丈夫ですか?名前は?」
「……奴隷」
「……捨てられた奴隷」
絞り出した様なか細い声が返って来た。要領を得ないが、何にしてもこの二人は優先した方がいいと判断して手枷を外す。それから先程の二人に声を掛ける。
「スイマセン、この人達を洗って貰えますか!」
「「あ、はい」」
俺が窶れた二人を浴槽の脇に寝かせると、先程の二人はタオルで拭き始めた。
さて、こうしていても他の女性達が声をあげない事を思うと俺の言葉を待っているのか、状況に着いてこれないかのどちらかだろうと思う。
どちらにしろ、手枷くらいは外してあげた方がいいだろう。
読んで頂けた事に感謝です。ありがとうございます。
3の3条立方メートルの表現は…27立方メートルにすると一辺が3メートルを超える事が出来るので、一辺が3メートル以下の物しか無理と表現する為です。