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とある兄妹の物語。

 あるところに、二人の孤児がいた。

 その孤児は兄妹であり、どちらも見目が大層よかった。そのため彼らは金のありそうな大人達にいい顔をして、彼らから金を分けてもらったり夕食の余りを貰ったりしながら、時には奪いながら、何とか細々と暮らして生きていた。



 ある日、兄は言った。

「もうこうして生きるのも辛い」と。

 兄はそうして妹を残して、崖から身を投げた。

 妹はそれを目の当たりにし、ただ呆然とするしか出来なかった。



 街どころか国でも小悪党として認識され、以前よりずっと住みづらくなっていた時のことだった。



 そのうち妹は生きるために街を彷徨い、ある日一人の貴族に捕まった。そうしてそのままなし崩しに養子にさせられた。

 それ故に妹は生き残り、今まででは考えつかなかった暮らしを許された。

 綺麗なドレス。宝石。ぬいぐるみ。ふかふかな寝床と、美味しくて温かい食事。お風呂もある。勉学も出来る。

 でも妹は籠の鳥だ。外には出られない。

 妹はいつも思う。あともう少し兄が待てれば、一緒に生きられたかもしれなかったのに、と。



 ある天気のいい日に、妹は主様に訊いた。

「どうしてあの日私を拾ったのですか?」と。

 すると主様は平然とこう言うのだ。

「お前のことが以前から欲しかったのだが、お前の兄が邪魔臭くてな。あいつに世間の厳しさを教えていたらば、呆気なく死んでくれたのさ」って。


 ああ、と。

 ああ、ああ、と。


 妹はこの年になってようやく分かった。

 主様にとって、兄はただただ邪魔でしかなかったのだと。それ故に彼は暗示と冷たい目に晒され続けて死んだのだと。



 兄は嵌められた。

 私を欲する欲深い主のせいで。



 妹は衝動的に、近くにあった果物ナイフで自身の左目を突き刺した。それから長くて美しい金髪を不格好に切り落としてしまい、ここで得た全てを否定するかの如く、部屋の中の物を壊して、切り裂いて、砕いて、叩いて、割って、殺していった。

 そうして主様の前に立てば、彼は面白いくらいに動揺していた。

 ただ、妹は気付かなかった。主様がふと、笑んでいるのを。



 妹は初めて心の底から嗤っていた。



「ばいばい、主様。アタシ、アナタのこと心の底から大嫌いだったよ!!」



 妹は血塗れたナイフで主様の心臓を一突き。



 それだけで呆気なく主様は死んでいった。



 妹はそれから傷を隠して色んなところを彷徨い歩くようになった。

 人を殺すことも出来るようになった。

 それから、金を奪うことも普通だと思えるようになった。



 そうして生きていた、ある日。

 女の子に人気がありそうな、可愛らしいお店の一角に、埃まみれな大きなうさぎのぬいぐるみを見つけた。

「あのぬいぐるみは?」

 店主に訊ねれば、彼女は「やめておけ」と言った。

 曰く、誰かが買ってもその家では病や殺人によって誰一人助かる者などいない呪いのぬいぐるみだと。そして奇妙なことに、その度にここに戻って来るのだと。

「焼いてもバラしても次の日には戻っているから、気味悪いったらありゃしないよ」

「いつからあるの?」

 店主が言う日付に妹は息を飲む。それは兄の死んだ日と一緒だったのだ。

 妹は迷わずそのぬいぐるみを買った。



 それから妹は、うさぎと共に色んなセカイを渡り歩くようになった。



 今までの虚無を埋めるかの如く。






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