表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恋、というもの

作者: 園村千香

何を言えばいいのか、何を感じればいいのか。


まずは体の端だねって、悪魔が囁いたのと同時に、指の先が動かなくなり、徐々に、腕が動かなくなった。

左上から、上がっていき、広がり、目が見えなくなり耳が聞こえなくなった。

声を発しようと喉元を動かせば、もちろん機能せず。なぜこうなったのかも僕には分りがたい。

慌てることなどしなかった。

もし、どこぞの悪魔さんがこのまま殺してくれるなら、それは、僕にとってとてもありがたいことだ。死んでしまいたい。

「つれていってあげる」

耳じゃなく、体に染みる声。

悪魔が次に囁いたのは予想通り天へのお導き。

声が戻る。

「うん」

悪魔に実体はない。ただ、そこにいる。

「でもね」

棒読みとでも言いましょうか、音程の変わらない、不規則な声。

「条件がある」

死ぬことに条件が必要なのか。

「今日、」

思い出したくないことだ。

今日。

「別かれた奴が居ただろう。振ったのか、振られたのか」

低く笑う声が聞こえる。

「悪趣味だ」

振った振られたの話ではない。付き合ってさえ、いなかったのだから。

「どちらでもいい、さ。生涯永久。そいつの不幸がほしい」

頬に触れた空気は冷たい。

「傍にいられなくなったのだろう」

涙なんて、もう、でないと思っていた。

幼いころから傍に居て、傍に居ることを望まれて。あの人の笑顔さえあれば大抵のものは溝に捨てられた。

「どうした」

付き合ってる人ができたと、とても嬉しそうに微笑んだあの人の顔が過ぎる。

「なんでも、ない」

残酷なものだ、友情なんてものは。

傍に、いられなくなったのではない。自らしたのだ。

もう、会わないと。

今日。

「憎しみはあるのだろう?」

それは、それは、何を恨んでいいのか分らないほど。

人の気も知らないあの人も、それを受け止めた自分も。

あの人の横で過ごしているだろう、到底、知りえない男も。

「不幸にしてやろう。手に入らないものなど、如何なってもかまわないだろう?」

かまわないさ。

痛むのは胸だけだ、この体、捨てるものならばそんなことを心配する必要もないだろう。

「不幸なんて、どうする」

気づけば、体全体が動くようになっていた。

腰を上げる。

やはり、悪魔の姿は見えない。

「食べる。美味しいんだ、俺達にとったら、甘い蜜だ」

人の不幸が、甘い蜜。

「至福だ、快感だ」

ああ、そうか、ならば。

「不幸なのはあなたですね」

自分の不幸に目もくれず、人の不幸ばかりを眺めていたのだろう。

なぜだろう、酷く、可笑しい。

「       」

真っ暗な寝室の電気をつける。

涙が乾いた頬が緩む。

「死にませんよ、サヨウナラ」

無謀なやり取りだったかもしれない。こんなものは。

小さな舌打ちをして、悪魔は消えた。

残ったものは、あの人で埋め尽くされた着信履歴。

今だ震えながら青く光るライトが、胸を締め付けるように、痛い。

「早く、早く、消えてくれ」

ただ、今は、祈るだけだ。

貴方が幸せであるように、と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] もっと、恋愛っぽくしたほうがいいと思います。分野が「恋愛」となっているのだから・・・。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ