インタビュー
短い現代ホラーです。
刑務所でのインタビューを題材にしています。
気軽に読んでいただければ。
あれはもうだめだ。無期懲役なんかじゃだめだ。
でないと、私も…。
私は「自称」ジャーナリストだ。
新卒で入社した新聞社を訳あって退職した。
何者でもない日々を堪能し、そろそろ、とリハビリも兼ね伝手を辿って活動を開始した。
そして現在は自由人となった、個人ネットジャーナリストという名の。
マージン、プラットフォーム使用料、 決済手数料で贖える自由。
言うほどの自由は無いが、それを享受できるほどには自由。
言葉遊びが過ぎた。
今日は刑務所に収監された在監者への接見、インタビューだ。
裁判所からの接見禁止はついていない。
できあがった記事をどうするかは、伝手を辿った。
今度の週末の食事、それが条件だった。久しぶりの鴨のローストに負けてしまった感もある。
クリーニング店に預けていた服を取りに行かねばなるまい。引取り期日超過のペナルティはいくらになるだろうか。
接見室で待つ。対象が入室してきた。
私は立ち上がり、アクリル板の仕切りのすぐ向こうに立つのを待って礼。
礼が返ってきたのを確認して、着席した。
接見開始。
穏やかだった。彼の視線は私の目元にある。視線同士は合っていない。
顔付き、目付き、目の開き方、瞳の光。職業柄、見る目はあるつもりでいた。
何らの異常も見当たらない。普通に、本当に普通に腰をかけていた。
この人が、あの事件の犯人とは。
「はじめまして、高坂と申します。よろしくお願いいたします。
個人でジャーナリストをしております」
仕切り越しに名刺を見せる。
異常性を際立たせる為だけを目的とした、取材と言う名の詮索。
そうして、「なぜ起きたのか? その真相の解明が待たれます」などと疑問符を放り投げるだけが仕事だと思っているメディア。
犯罪機会論風なコトを語っているトコは、まだマシな方だ。
いずれにせよ、目指すものは「一般人とは異なる特殊な人物」として、均一化させ埋もれさせていく予定調和である。
そんなどーでもいいことは、どーでもいい。
それよりも、好奇心だ。これは”本物”の狂気かもしれないじゃあないか。
だから、どーでもよくないことを訊く。それがお金になるなら、尚よし。
いろんな話をした、と思う。
死生観、常識、社会と自身の関係、優先基準、…。
相手に尋ねる行為には、多少なりとも自分をさらけ出してしまう一面があると実感した。
最後に、狂気というものへの理解について尋ねた。
質問が抽象的すぎたのかもしれない。10秒ほどの沈黙の後、彼は応えてくれた。
『狂気』と『狂気的』は違う。
『狂気』とは、己の中のそれを知り、内に秘めるモノ。
『狂気的』とは、己の中にそれを持たぬ者が、持つ者を評する妬心の顕れ。
だから、それは大切なただ一人にだけしか見せてはいけないよ。
だから、それは大切なただ一人には見せてもいいものなんだよ。
だから、そのひとが、大切なただ一人でなくなってしまったら。
だから、そのひとが、妬心に塗れてしまったら。
彼は目を閉じ、開いた。彼の視線は私の目元のまま、変わらなかった。
再びの沈黙。彼は言い終えたのだろう。
ひとつ、試してみることにした。
「あなたの為した、狂気的な…、そう、成果についてのあなた自身の評価は?」
接見を開始してから初めて、彼と視線が合った。
「まもれた」
え?
「まもれた、あのひとを」
「それはどういう…」
彼は目を閉じ、開いた。彼の視線は私の目元に戻った。
何らの異常も見当たらない。普通に、本当に普通に腰をかけていた。
「時間です」
刑務官が告げる。接見は終了した。
刑務官に促され、彼は立ち上がる。
私も立ち上がり、感謝と別れを告げる礼を送る。
彼も礼を返し、刑務官に連れられて歩き出した。
その歩みが止まる。背を向けたまま、彼は言った。それを刑務官は止めなかった。
「高坂さん。あなたは、そうですね、4番目になりました」
読んでくださり、ありがとうございました。
静かな狂気は、いつもこちらを見ています。




