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インタビュー

作者: qmmkruz
掲載日:2026/06/06

短い現代ホラーです。

刑務所でのインタビューを題材にしています。

気軽に読んでいただければ。


あれはもうだめだ。無期懲役なんかじゃだめだ。

でないと、私も…。



私は「自称」ジャーナリストだ。

新卒で入社した新聞社を訳あって退職した。

何者でもない日々を堪能し、そろそろ、とリハビリも兼ね伝手を辿って活動を開始した。


そして現在は自由人となった、個人ネットジャーナリストという名の。

マージン、プラットフォーム使用料、 決済手数料で贖える自由。

言うほどの自由は無いが、それを享受できるほどには自由。

言葉遊びが過ぎた。


今日は刑務所に収監された在監者への接見、インタビューだ。

裁判所からの接見禁止はついていない。


できあがった記事をどうするかは、伝手を辿った。

今度の週末の食事、それが条件だった。久しぶりの鴨のローストに負けてしまった感もある。

クリーニング店に預けていた服を取りに行かねばなるまい。引取り期日超過のペナルティはいくらになるだろうか。



接見室で待つ。対象が入室してきた。

私は立ち上がり、アクリル板の仕切りのすぐ向こうに立つのを待って礼。

礼が返ってきたのを確認して、着席した。


接見開始。


穏やかだった。彼の視線は私の目元にある。視線同士は合っていない。

顔付き、目付き、目の開き方、瞳の光。職業柄、見る目はあるつもりでいた。

何らの異常も見当たらない。普通に、本当に普通に腰をかけていた。


この人が、あの事件の犯人とは。


「はじめまして、高坂と申します。よろしくお願いいたします。

 個人でジャーナリストをしております」


仕切り越しに名刺を見せる。


異常性を際立たせる為だけを目的とした、取材と言う名の詮索。

そうして、「なぜ起きたのか? その真相の解明が待たれます」などと疑問符を放り投げるだけが仕事だと思っているメディア。

犯罪機会論風なコトを語っているトコは、まだマシな方だ。

いずれにせよ、目指すものは「一般人とは異なる特殊な人物」として、均一化させ埋もれさせていく予定調和である。


そんなどーでもいいことは、どーでもいい。

それよりも、好奇心だ。これは”本物”の狂気かもしれないじゃあないか。

だから、どーでもよくないことを訊く。それがお金になるなら、尚よし。


いろんな話をした、と思う。

死生観、常識、社会と自身の関係、優先基準、…。

相手に尋ねる行為には、多少なりとも自分をさらけ出してしまう一面があると実感した。


最後に、狂気というものへの理解について尋ねた。

質問が抽象的すぎたのかもしれない。10秒ほどの沈黙の後、彼は応えてくれた。


『狂気』と『狂気的』は違う。


『狂気』とは、己の中のそれを知り、内に秘めるモノ。

『狂気的』とは、己の中にそれを持たぬ者が、持つ者を評する妬心の顕れ。


だから、それは大切なただ一人にだけしか見せてはいけないよ。

だから、それは大切なただ一人には見せてもいいものなんだよ。

だから、そのひとが、大切なただ一人でなくなってしまったら。

だから、そのひとが、妬心に塗れてしまったら。


彼は目を閉じ、開いた。彼の視線は私の目元のまま、変わらなかった。

再びの沈黙。彼は言い終えたのだろう。


ひとつ、試してみることにした。


「あなたの為した、狂気的な…、そう、成果についてのあなた自身の評価は?」


接見を開始してから初めて、彼と視線が合った。


「まもれた」


え?


「まもれた、あのひとを」


「それはどういう…」


彼は目を閉じ、開いた。彼の視線は私の目元に戻った。

何らの異常も見当たらない。普通に、本当に普通に腰をかけていた。


「時間です」


刑務官が告げる。接見は終了した。


刑務官に促され、彼は立ち上がる。

私も立ち上がり、感謝と別れを告げる礼を送る。


彼も礼を返し、刑務官に連れられて歩き出した。

その歩みが止まる。背を向けたまま、彼は言った。それを刑務官は止めなかった。


「高坂さん。あなたは、そうですね、4番目になりました」


読んでくださり、ありがとうございました。

静かな狂気は、いつもこちらを見ています。


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