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タイトル未定2026/01/14 23:46  作者: 甘藍


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1/1

その言葉は、誰のためですか? ~ワールドチェイサー~異世界侵攻に立ち向かう忖度なしキャスター」

ニュースキャスターが世界を変える?


 番組開始まで、あと三十秒。


 スタジオの赤いランプはまだ灯っていない。しかし空気はすでに張り詰めていた。モニターの向こう、雲を押しのけるように浮かぶ巨大な円環――正体不明の存在が、世界の空を覆っている。


「八米さん……本当に、このまま行くんですか」


 ディレクターの声は震えていた。


「行くしかないでしょう」


 八米は原稿を見なかった。いや、最初から原稿など用意していない。


「彼らはもう語り始めている。なら、こちらも黙る理由はない」


 五、四、三。


 赤いランプが灯る。


「こんばんは。本日は予定していたニュースをすべて変更してお伝えします」


 八米はまっすぐカメラを見据えた。


「ご覧の通り、正体不明の存在が地球上空に出現しました。彼らは先ほど、全世界に向けて声明を発表しています」


 画面に映る、人に似て人でない存在。


『我々は調停者である。未熟な文明に秩序を与えるために来た』


 八米は目を細めた。


「――なるほど」


 そして、こう続けた。


「まず聞きたい。その言葉は、誰のためですか?」


 スタジオが静まり返る。


「秩序。調停。正義。便利な言葉です。誰も反対しにくい」


 八米は笑わなかった。


「ですが言葉というのは、使う側の覚悟が問われるものです。あなた方には、説明する義務がある」


 異世界存在は沈黙した。


「沈黙も、立派なメッセージです。視聴者の皆さん、この“間”を覚えておいてください」


 その瞬間、円環がわずかに歪んだ。


 世界は、一人のニュースキャスターの言葉に耳を傾け始めた。


第二話 信仰は、過去から生まれる

 八米が言葉を発するたび、空気が震えた。


 照明が揺れ、スタジオの床が低く唸る。世界各地の中継地点から、同じ報告が届いた。


「八米さん……あなたが話すたび、円環が歪んでいます」


 異世界側にも動揺が走っていた。


『言語による因果干渉を確認』 『理解不能。言葉は情報であり、力ではないはずだ』


 だが一体だけ、古い記録を思い出していた。


『……違う。これは祈りだ』


 彼らの世界には、かつての信仰がある。


 ――空白に語りかける者。


 力を持たぬ者が、誰にも聞かれず、それでも真実を語ったとき。世界は、わずかに傾く。


 八米は知らない。


 若き日、工場事故の放送後。誰もいない廊下で、彼は呟いた。


「これは、なかったことにしていい話じゃない」


 誰に届くでもない言葉。それでも引っ込めなかった。


 異世界の古文書は記す。


神は姿を持たず、名を求めない。 ただ、語る者が現れたとき、そこに在る。


 だから彼らは理解する。


『彼は、神話の再現体だ』


 八米の言葉が揺らすのは空気ではない。


 現実の前提条件そのものだった。


第三話 希望は、誰のものか

 侵攻は止まっていなかった。


 円環は静止したまま、まるで八米の言葉を待つように空に浮かんでいる。しかし地上では暴動が起き、人々は叫んでいた。


「言葉で何が変わる!」 「話してる間に、俺たちは殺される!」


 その声を、八米は知っている。


 控室に、一人の女性が現れた。


 かつて工場事故で父を失った遺族だった。


「あなたの言葉は正しかった。でも、正しいだけじゃ父は戻らない」


 彼女は八米を責めない。ただ、信じていなかった。


「希望を語る人は、責任を取らない。信じた人だけが傷つく」


 八米は、何も言えなかった。


 そのとき、別の声が中継に割り込む。


「それでも、俺は救われた」


 事故現場で取材を受けた男だった。


「あなたの一言で、世論が動いた。遅かったけど、黙られるよりずっと良かった」


 彼は続ける。


「言葉は力じゃない。でも、力を集める“起点”にはなる」


 八米は理解する。


 希望は武器ではない。  希望は命令でもない。


 希望とは、立ち上がる理由だ。


 力とは、一人では無力な人間が、言葉を介して仲間になること。


 八米は、再びカメラを見る。


「ペンは剣よりも強い」


 それは剣を折るという意味ではない。


 剣を持つ人間の数を、変えるという意味だった。


 世界は今も、彼の言葉を待っている。

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